ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑵
馬車よりも遥かに速いであろうスピードで、森や草原を駆け抜けていくティタ。目的の町は、間もなく見えてきた。
人間の足だともう暫くはかかっていただろう。彼女に感謝をしなければ。
ただこのまま町に入るのは流石に抵抗があるので、町に近い雑木林で降ろしてもらう。赤子のように脇の下を持たれて降ろされる光景は、やはり気恥ずかしい。
痺れた足をほぐすように、久々の大地を踏みしめる。
ティタに向き直り、「ありがとう」とだけ簡潔に伝えると、次に町の門へと視線を送った。
「それじゃ、町に行こうか」
町への一歩を踏み出そうとするが、ティタが後を追って来ていないことに気付き、早々に踵を返す。
ティタの視線は、地面を向いていた。うつむきがちになった顔は不安の色で満ちている。
彼女のこれまでの旅路がどんなものだったのか、俺はまだ知らない。
だが、故郷を追放された矢先に、人間の盗賊に襲われたのだ。それも、自らの出自に付けこまれる形で。とても人間に対して良い印象を抱くとは思えない。
それに、盗賊たちのあの態度を見るに、人間そのものに巨人族に対する差別意識がある可能性が高い。
そうでなくとも、この町では奇異の目に晒されるだろう。
一見した限りでは町に巨人族は見当たらないし、ティタほどの大きさの巨人族が入れるような建物も存在しない。恐らく、あの町は巨人族に慣れていない筈だ。
まずは俺が先立って下見をしておくべきかもしれない。
「…ティタに無理させちゃったし、町の下調べはオレしてこようかな」
「えっ!? ええと……でも、良いんですか?」
「でも、ティタもよく仕組み分かってないんだろ? オレが訊いとくから。じゃ!」
「あっ!」
制止するティタを宥めながら、俺はおぼつかない足取りで町へと向かった。
夜にも係わらず、門は開きっぱなしだ。雑談ばかりで番をしていない門番の隣を横切って、この世界で初めての町へと繰り出す。
時刻は夜更けだったが、宿屋や酒場はまだ開店している時間らしく、大勢の客で活気に溢れていた。
すぐにでも宿を取りたいところだったが、二人分の宿賃さえ無い状態だ。ティタが泊まれるような大きさの宿も、やはり見当たらない。
(……仕方ない。先にギルドだな…)
ギルド―――正式名称、職能別協会。
職種別に依頼を斡旋している公的機関だという。
俺が今から向かうのは、冒険者ギルド。
ギルドは冒険者たちがアクセスし易いようにか、町に入ってすぐの場所にあった。
自由扉を手で押して入ると、中には十数名の冒険者がたむろしていた。
(よくあるファンタジーもののギルドまんまだな…)
幸い、対話による意思疎通はできる。読み書きはともかく、町を隔ててがらりと言語が変わりでもしなければ会話はできるはずだ。
何より、今は金が入りようだ。日銭を稼げるような依頼を取れば良いだろう―――
そう、思っていたのだが。
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