第2話
ガチムチ巨娘とムチムチ小娘 ⑴
夜の静けさに支配された森に、地鳴りのような足音が響く。
俺とティタは、近場にある町を目指して歩いていた。
可能であれば、あのまま小屋で休憩を取りたかったのだが、盗賊たちが戻ってくることを懸念し、俺たちはすぐにその場を離れることにした。
あれはあくまでハッタリでしかない。冷静になれば盗賊たちはすぐに戻ってくるだろう。それも怒り心頭で。
ティタによると、町の名前は知らないが、王都とは異なり通行証は必要ないとのこと。であれば、無一文の俺でも入れるだろう。
そして何をおいても、その町には依頼を斡旋してくれるという〝ギルド〟があるのだという。
衣食住を得るためには、まずその土地で流通している通貨が必要だ。
暫くは彼女に手を貸してもらおうと考えているが、金銭面でまで援助してもらおうとは考えていない。
だが、今金が入用なのは、俺よりも彼女の方だった。
巨人族は、何をするにしても金が掛かる。食事代。宿代。通行料。曰く、体の大きさに比例して値段も跳ね上がるのだと。
互いの為にも、まずは出稼ぎに行こうという話に逃げる道中で至った。
ただ、近場と言っても、馬車での移動で二時間ほど掛かるのだという。
無論、我々は馬車など持ち合わせていないため、徒歩である。
そこで、俺達が取った移動方法はというと。
「ごめんな、ティタ…」
ティタの手に抱きかかえられ、情けなく脱力する俺の体。
そう。抱っこだ。
抱っこされながら、ティタに歩いてもらっている。
(良い大人の男が、情けねぇ……いや、自分が何歳なのか知らんけど)
何より、乗り物扱いしているようで気が引ける。
だが、ティタ本人は一切気にしていないようだった。
それもそのはず。何せこの移動方法は、他でもない彼女からの提案なのだから。
人間と巨人では、お互いに歩幅を合わせて移動するのは大変だし、人間の足で森の中を夜通し歩くのは過酷過ぎる、と言い包められてしまった。
「良いんですよ! それにもう夜だし、寝ておいたらどうですか?」
それどころか、俺の体を労わって仮眠を取るよう提言してきた。
どこまでも心優しい少女だ。
彼女のこれらの提案が現状最も効率的だということは、頭では理解できる。だが、あまりに至れり尽くせりで申し訳が立たない。
今の所、こちらがティタにしたことといえば、盗賊から所持品を取り返す提案くらいだ。あくまで提案、である。彼女あっての計画だったし、ほとんど何もしていない。
それと……。
(背中に柔らかいぬくもりを感じる……)
彼女がぬいぐるみを抱えるような形で胸の高さで抱くものだから、またもや体が胸に密着してしまっている。
居心地は最高だったが、意図せず女性の素肌と接触してしまっている罪悪感と、また吹っ飛ばされるのではないかという焦燥感に苛まれていた。
改めて、ティタを見上げる。
彼女は何故か、肌の露出が多い。体全体を覆えるほど大きな布地が無いのだろうか。だとすれば衣装の肌面積が多いのは、ティタだけでなく巨人族全体に言えることなのかもしれない。
確かに、巨人族用のマントがあることを鑑みると、彼女らは露出の高い軽装をした上で、マントを羽織るという服装が一般的なのかもしれない……いや、じゃあ今羽織ってくれ。
(この子、本当に警戒心が薄いな……)
森に盗賊がのさばっているような世界で、あまりに無防備過ぎやしないだろうか?
自分は巨人族だからと油断しているのではないだろうか。
あの日、故意ではないにしろ、彼女の胸の谷間に入ってしまったことは申し訳ないとは思っている。
だが、防寒性もあって柔らかく、身を隠すのにもうってつけの窪地なんて、小型の野生動物の一匹や二匹くらい潜ってしまいそうなものだが。そういった経験は今までに無かったのだろうか? せめて野宿している時は隠しておくべきなのでは……
「……先生。何か今、ヘンなこと考えてませんでした?」
「えっ!? なんでだよ!?」
「………」
「あっ! スピード上げないで! 酔っちゃう!!」
何かに勘付いたティタが、不意に全速力で走り始める。
地揺れのような振動。背中に伸し掛かる柔らかな重み。眠気。酔い。様々なものに耐えながら、俺は視界が町を捉えるのをひたすらに待つことしかできなかった。
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