はぐれものハーレム、爆誕 ⑾ 終
ティタとオーグレディにウィーウィルメックの討伐の証拠となる歯を運んでもらい、周囲が暗くになる前になんとか町へと帰還することができた。
ギルドに至るまでの道中、人々の好奇の目に晒され、あの飄々とした受付嬢も驚くのではないかとひっそり期待していたが、彼女は相変わらずそっけない態度だった。
杜撰な麻袋に入った大量の硬貨を受け取り、俺たちは賑わう町に繰り出した。
「……このパーティ、かなり相性良いかもですね!」
防犯的な観点から持たせた金貨を大事そうに抱えながら、朗らかにティタが笑う。
予期せぬ事件があったものの、結成後、即解散という事態だけは免れた。
「そーだね~。というか、ティタちゃんとレディちゃんがすごいんだよ!」
「そ、そんな……あたし、図体でかいだけで……」
地響きのような音が響いた。音量から察するにティタの腹の音だったのだろうが、言及しないでおく。
「じゃ、飯にするか」
「あ。あそこの店いいんじゃねぇか?」
そう言ってオーグレディは町のはずれを指さした。
その先には掠れた吊り看板から、辛うじて飲食店だと分かるあばら家があった。店頭にはテーブルが出されている。あの店であれば、ティタと一緒に食事が取れそうだ。
オーグレディは足早に店へと許可を取りに駆けて行った。程なくして、ティタを見に来たらしい店主と共に屋外へ出て話し込んでいたが、その後の嬉々としてこちらへ手を振る姿を見るに許可は取れたらしい。
こうして、今晩も夜空の下で夕食を取ることになった。
「だーっそんなチマチマ食うな! もっとガーッと搔っ込め!」
「これも食ってみろ!」
「は、はい!」
「いいぞ! 食え食えー!」
最初は遠慮がちに、時間をかけて食事を取っていたティタだったが、それが気に食わなかったらしい周囲の酔っ払い客たちからと次々と料理を奢られ、終いには追われるように料理を食していた。
いかにも犯罪に片足を突っ込んでいそうな客ばかりだったが、酒が入ればただの酔っ払いだ。
獣の丸焼き、大鍋一杯分のスープ……この場にいる客全員に振舞っても尽きないであろうの量の食事を次々と平らげていく。
店主から追い出されやしないだろうかという懸念はすぐに解消される。彼女の食いっぷりで何かに火が点いたらしい店主が、建物奥の厨房で狂ったように次々と調理をしている。おかげでテーブルに並ぶ料理が尽きることもなかった。
ティタの腹を十分に満たすのは難しいだろうが、それなりの食事は取れそうだと安堵する。
久々のごちそうに歓喜するティタの肩にはメドワーナが乗っかっており、彼女のおこぼれを貰っている。ティタからすれば食べかす程度の量だが。
この場所では、あの位置が一番安全だろう。また攫われる心配はないだろう。
警戒も兼ねてその光景をオーグレディと眺めながら、この店の特徴らしい豪快な料理に舌鼓を打つ。
その間、二人して無言でいたが、ふいにオーグレディから声を掛けられる。先程までの彼女とは違う、落ち着いた声色だった。
「……リーダー」
「なに?」
「さっきのアレ……、本当にすまなかった」
さっきのアレ、というのは、先程メドワーナを連れ去ろうとした男たちとの騒動のことだろう。
どんちゃん騒ぎから目を離し、オーグレディの方を向いてみると、彼女は心苦しそうに目を伏せている。食事もあまり進んでいないように見えた。
「い、いいっていいって! 悪いのはあいつらだ。それにオレも……魔術もろくに使えないのにハッタリかますしさぁ」
慌ててそんな言葉を返してみるが、彼女は本調子に戻らない。
俺は更に慌てて、折れずに話を続ける。
「それに……メドワーナの種族のことも、二人の境遇のことも、何も知らないであしらって良かったのかなって……」
「それは、いつか話すよ。今はな……」
楽しそうに笑うティタとメドワーナに目を遣り、オーグレディはしおらしく微笑む。
確かに、今この状況で話すべきことではないだろう。
「……アタシ、直情バカだからさ。また何かあったら、アンタに止めてほしいんだ」
「ぶ、物理的なのは無理だぞ?」
「ハハ! わーってるって」
すっかり本調子に戻ったオーグレディが「さ、アタシらも食うか!」と威勢よく食卓に向き直る。俺もそれに倣って、再び食事を始めた。
夜も更けていき、他の客が酔いつぶれてどんちゃん騒ぎが鎮まる頃、俺達は食事を終えた。
そして会計を済ませ、店を出た後。
「……なんだ、これは」
全員で輪になり、俺の手の平とお互いの顔を交互に見合わせる。
俺の手にあったのは―――銅貨一枚だった。
これは何かというと、今日得た報酬から先程の一回分の食費を差し引いた分だ。
袋いっぱいにあった銀貨の、成れの果て。
暫し無言が続いたが、その中で最初に声を上げたのはティタだった。
「す、すみません……私の食費で……」
「いや、ティタちゃんは他のお客さんからの奢りも結構あったし……レディちゃんが無限に食べるのが悪い」
「すんません……」
申し訳なさそうに頭を下げるティタの隣で、メドワーナから流れ弾を食らってオーグレディも俯きがちに謝罪した。確かに、俺への謝罪があった後、オーグレディもティタに負けない勢いで料理を掻っ込んでいた。
そこで俺は、はたと今日倒したウィーウィルメックのことを思い出す。
「そだ、さっきの魔物! さっきのとこに戻ってさ、あれの肉をこう……干したりして、なんかイイ感じに保存食とかにしてみようぜ!」
「なるほど! わたし、皆さんの分解体します!」
その提案に、すかさずティタも挙手をして協力を申し出る。
慌ただしい二人に対し、メドワーナが難しそうな顔を浮かべた。
「……ウィーウィルメックって、骨だらけで骨取り除いても食う部分ほとんどないらしいよ~」
「しかもクソマズい」
突拍子もない提案のように思えたが、オーグレディはまさかの実食済みだったらしく、舌を出していかにもまずかったという仕草をした。
初仕事は大成功を収めたものの―――しばらくの間は、金欠による野宿と空腹が続きそうだった。
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