はぐれものハーレム、爆誕 ⑼

「十七、十八、十九……二十! うっしゃ、おわり!」


 採取したウィーウィルメックの歯を数え、遂に目標の二十体に達したことを確認する。


 ただ、この二十体全部を四人で倒したわけではない。うち数体は、オーグレディが上手いこと同士討ちさせ、力尽きて水底に沈んでいた個体である。

 これに関しては流石のオーグレディも自分一人の力では引き上げることができなかったため、ティタに掴んで持ち上げてもらった。


 残りのメンバーは、引き上げられた個体から順に、討伐の証拠となる歯を採取する。初めての解体作業で手こずっていた俺だが、三体目あたりで慣れてしまい、綺麗に摘出できるようになっていた。


 なお、他にも数体生き残りが居たのだが、無勢を察知してか、滝の上と川下に逃げて行ってしまった。先程の戦闘でもうっすら感じていたが、ウィーウィルメックというのはそれなりに知能がある魔物らしい。おかげで引き上げ作業が捗った。


「残った死体…は、どうするんです?」

「他の魔物の餌になるだろ。そのまま残しててくれ」


 青い顔で死体を引き上げていたティタだったが、やっと終わったことに安堵しているようだった。酷なことを強いてしまっただろうかと感じる。


 気付けば、周囲は夕焼けの色に照らされていた。まさか、依頼が今日のうちに終了してしまうとは思いもよらなかった。

 あの受付嬢、適当に依頼を寄越したのだろうが、案外見る目があるのかもしれない……


「そんじゃ、撤収すっか」

「おーおー、やーっと終わったか」


 オーグレディのその言葉に反応したのは、残りのメンバー三人の内の誰でもなかった。


 じゃり、と、砂を踏みしだく複数の足音が、メンバーの背後にある木々の向こうから迫ってくる。

 音の方向へ目を向けると、そこには冒険者らしき装いの三人の男と、一人の亜人が立っていた。


「お前ら……!」


 その姿を見た俺は、思わず声を上げる。


「誰だ?」

「いや覚えてねぇのかよ。さっき〝純潔なる大槌〟に居たろ? お前らと同じ冒険者さ」


 全く覚えが無いが、先程のギルドにいた人間らしい。さっきの台詞も加味すると、どうやら俺達の後をつけてきたらしい。

 よくあのティタの速度に追いつけたものだ……いや、今の今まで気配を察知できなかったことを察するに、だいぶ遅れてやってきたのかもしれない。


 彼らの姿をざっくりと観察してみる。

 纏った襤褸の隙間から覗く無数の古傷。背嚢は継ぎ接ぎだらけで、腰には傷まみれの粗末な鞘に収められた短剣を携えている。

 いかにもならずもの、といった風貌だ。あのギルドに居た者なのだから、やはり脛に傷を持つ身なのだろう。


 その陰に隠れるようにして立っている亜人は、四肢や胴が細長い、鼻と耳が尖ったドワーフとはまた違った小人だった。

 鉄の首輪を着けられており、パーティの一人というよりは奴隷のような印象を受ける。


「……ゴブリンの奴隷か。ったく、趣味の悪ぃ……」


 それを見たオーグレディが、眉を顰めながら吐き捨てる。俺の所見は当たっていたようだ。

 あれはゴブリンという種族。彼女の口ぶりから察するに、奴隷として扱われることも少なくないようだ。


 この間、男たちも同様に、こちらをまじまじと観察していた。攻撃の隙を伺っているというよりは、こちらにある何かを確認しているように見える。

 まず男たちが指摘したのは、俺についてだった。


「そっちの兜も……顔見えねぇけど、さっきの男だよな?」


 指摘され、俺の体は分かりやすくびくつく。

 ……町では兜を被っていなかった。もしかすると、顔を見られてしまったのかもしれない。

 となれば、彼らは賞金稼ぎだろうか? その前提を踏まえると、ようやく彼らの目的の一斑が見えてきた。

 オーグレディもまた同じことを考えていたようで、率直に彼らの要求を尋ね始める。


「なんだ、うちのリーダー捕まえて売り飛ばそうってか?」

「リーダー……? なんだ、あんたがリーダーじゃねぇのか」

「さあ、どうだかね……」


 適当にはぐらかすオーグレディ。

 事態が一変したのは、その直後だった。


 突如、連れの男の一人がその場を駆け出し、こちらに向かってきたのだ。

 全身にかけられた防御魔術もある。仮に攻撃されても深手を負うことはないだろうと高を括っていた。


 だが彼らの狙いは、俺ではなかった。

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