のけもののけもの ⑵

 今日改めて確認したが、純潔なる大槌のあるこの町は、ホームという名前だったらしい。


(分かりやすい名前……)


 今後当分は我々の本拠地になる場所だ。覚えやすいに越したことはないだろう。

 昨日と同じくティタは屋外に待機させ、三名でギルドの玄関を潜る。すると受付に辿り着く前に、受付嬢に声を掛けられた。


「あ、お疲れ様っすー! ハーレムさ~ん!」


 口調からして昨日と同じ受付嬢のようだ。恥ずかしいパーティー名を躊躇いなく叫びながら、「早速っすけど、これどうすかー?」と依頼書を持った手を振っている。

 相変わらずいい加減な態度ではあったが、それなりに依頼を任せられるパーティーだと信頼してくれてはいるらしい。もしくは昨日の依頼成功で、厄介な依頼を押し付けられると思ったのか……


 慌てて受付へ駆け寄り、依頼書を三人で覗き込む。

 案の定、彼女が新たに寄越してきた依頼は、相当厄介なものだった。


 ―――雪嶺の魔獣の捕縛。


 我々が生きるこの大陸には、雪嶺と呼ばれる区域が存在する。その名の通り、雪が吹き荒ぶ山峰だ。

 そこで、従来の魔獣でもなければ獣人族でもない、人語を解する奇妙な獣の個体を見るようになったのだという。


「へぇ、獣人もいるのか……」


 思わずこぼしたそんな言葉に、レディが「獣人〝も〟って何だ?」と突っ込んできたが、話の本筋に戻すふりをしてごまかした。


 獣人族というのは、雪嶺目下の寒冷地帯に住んでいる亜人族の一種で、その名の通り獣のような容姿をしているが、身体構造は人族と大差ないそうだ。巨人族ほどではないが、人族との間に確執があるらしい。

 そんな獣人が住む里の近辺で、更に雪嶺ときた。この地域は踏み入るだけで遭難する危険がある。そのため、誰もやりたがらず、大手ギルドからこのならず者ばかりのこのギルドに流れてきたらしい。だが、ここの冒険者ですら嫌がり、長らく手を付けられていなかったとのこと。

 水中戦だった前回に続き、いかにも困難そうな依頼だ。


「まー、おたくはヒト族一人だけですし、顔も隠してるし大丈夫でしょー」


 だが受付嬢のこの口振りだと、戦闘面での心配はしていないようだ。少なくとも俺以外の腕は確かだ。とはいえ、陸に上がれば地の利がある水中戦とはまた訳が違う。

 何より今回は討伐ではなく捕縛だ。殺さず捉え、所定の場所へ届けなければならない。

 そして、相手は言語を解せるほどの知能がある。対話で済ませるのが最善だが、そう簡単にはいかないだろう。


「でもなぁ……ん?」


 依頼について勘案していると、ふいに書面の最後の行に記されていた数字に目が移った。

 書類に連なった報酬額は、実に七桁―――今懐にある端金の何十倍あるだろうか。

 昨日使った食費を基に計算すると、数日ぽっちではない、数ヶ月パーティーの生活資金を賄えるほどの額であることが分かった。


 それから依頼を決定するのに、そう時間は掛からなかった。

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