第22話 このままでは終わらせない

「このまま、消えてしまおうかしら…」


気が付くとそんな事を呟いていた。

フラフラと窓の方へと歩いて行く。すると、机に見覚えのない小さな箱が。


「これは…」


ゆっくり箱を開けると、そこにはヴァンがずっと付けていたイヤリングが入っていた。ヴァンの瞳と同じ、真っ赤な宝石が付いたイヤリング。


「どうしてこれがここに…」


さらに小さなメモも。


“私はお嬢様の笑顔が大好きです。どうか未来を、自分の手で切り開いて下さい”


「ヴァン…あなたって人は…」


これは紛れもないヴァンの字だ。もしかしてヴァンは、自分の運命を知っていたの?だからわざわざ、こんな手紙を残したの?それなら、どうして逃げなかったのよ…


私はどんな形でもいいから、ヴァンに生きていて欲しかった…


「ヴァンの、バカァァ」


私はまた声を上げて泣いた。この3日間、もう涙は枯れ果てたと思っていたが、次から次へと溢れてくる。しばらく泣いた後、少し落ち着いた。


ヴァンがいつも付けていたイヤリングを、自分の耳につけた。真っ赤な宝石が付いたイヤリング。まるでヴァンが傍にいてくれるような、そんな気持ちになる。


「ヴァン、ありがとう。私、もうちょっと頑張ってみるわ。あなたを殺したあいつらを、私は絶対に許さないから。だから、天国で見守っていてね」


そっと呟いた。


「やっぱり、あいつら。絶対に許せない!」


少し気持ちが落ち着いたところで、改めて体中から今まで感じた事のない怒りがこみ上げてきた。前世での生の時から数えて、52年生きて来たけれど、これほどまでに怒りを覚えたのは初めてだ。


どうにかしてあいつらに復讐してやりたい。それに、やっぱり私は、ネイサン様とだけは結婚したくはない。


でも、どうすれば…

顎に手を当てて考える。


その時だった。ヴァンの言葉が蘇る。


“お嬢様または侯爵が重犯罪を犯して、婚約破棄されるか”


重犯罪を犯してか…


そういえばお父様は、ヴァンがお父様の弱みを握っていると言っていたわ。もしかしてそれって、お父様の悪事の証拠ではないかしら?


そもそも、お父様の様な強欲で傲慢で人の気持ちなんて微塵も考えない様なクズならきっと、犯罪に手を染めていてもおかしくわない。


きっと、脱税や横領くらいはしているだろう。もしかしたら、もっと危険な犯罪を犯しているかもしれないわ。


お父様が犯罪者として捕まれば、侯爵家は取り潰される。そうなれば、私は犯罪者の娘になるうえ、爵位もない。となると、必然的に婚約も解消されるという訳だ。


正直親を売るなんて事は絶対にしたくなかった。仮にも血のつながった唯一の家族なのだから。でも…


もうそんな生ぬるい考えなんて持っていたら、私は幸せになれない。それに、平気で人を殺める様な人間を、このまま野放しになんてしておけないわ。


ヴァン、待っていてね。必ずあなたの仇は、私が取るから。そして全て終わった暁には、約束した通り、私はこの国を出て旅をするわ。


その為には、ある程度資金を蓄えておく必要がある。


そういえば、前世では宝石は高値で取引されていた。もちろんこの国でも、宝石は高く売れるだろう。


ふと宝石箱をチェックする。あの強欲な継母に随分とられてしまったが、それでも数個は残っている。これを売ってお金にすれば、しばらくは問題ないだろう。


とりあえず隣国に渡って、そこでまずは仕事を探そう。しっかり働いてお金を貯めてから、旅をする事は鉄則だ。それから、行く国の情報はあらかじめ仕入れておかないと。


あぁ、ここにスマホがあれば、サクッと調べられるのに…

でも、そんな事を言っても仕方がない。明日図書館に行って、こっそりと調べないと。


そういえばヴァンが、私には既に王宮から護衛騎士が付けられていると言っていた。少しでも怪しい行動をすれば、きっと情報がネイサン様やお父様に伝わってしまうだろう。


行動は慎重にしないと。


なんだか探偵になった様ね。

少しだけ、ワクワクしてきたわ。

あぁ、こんな事なら、前世では探偵事務所で働いておけばよかった。


て、そんな事を今更言っても仕方がない。とにかく、問題を1つ1つ解決していかないと。


そうと決まれば、いつまでも泣いていてはいられない。さっさと湯あみを済ませ、そして近くに控えていたメイドに食事を持ってきてもらう。


既に夕食の時間が終わっていた為、迷惑そうなメイド。それでも、食事を運んできてくれたので、急いで食べた。久しぶりの食事、急に食べたから気持ち悪くなってしまったが、それでもなんとか食べきった。


そしてベットに入る。


ヴァン、見ていてね。私、絶対にあいつらを見返して、幸せを掴んで見せるから。だから、天国から見守っていてね。


心の中でそう呟き、瞳を閉じたのであった。

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