第19話 僕は王太子なんだ~ネイサン視点~

ジェシカの誕生日パーティーを終え、王宮へと戻ってきた。


「ジェシカ嬢は本当にどうしようもない令嬢ね。まさか自分の誕生日に病気で倒れるだなんて。ネイサン、あなた、体調は大丈夫なの?ずっとあの女と一緒にいたのでしょう?」


母上が心配そうに僕の元へとやって来た。


「ええ、今のところ僕は何ともありません」


「そう、でも万が一あなたに病気がうつったら大変だから、念のため予防薬を飲んでおきなさい」


「はい、そうします」


母上は昔からジェシカが嫌いだ。根暗で何を考えているか分からず、何を言っても“申し訳ございません”しか言わないところが嫌いらしい。ただ、ジェシカを僕の婚約者に選んだのは、母上だ。


噂では侯爵が母上にお金を握らせ、自分の娘を婚約者にしてもらえる様、頼んだらしい。ただ、あくまでも噂でしかないが…


まあ、そんな事はどうでもいい。


部屋に戻ると、早速予防薬を飲む。


「今日のジェシカ、ドレスがとても似合っていたな…」



国王と王妃の子供として何不自由ない暮らしをしていた僕。そんな僕がジェシカと婚約したのは、12歳の時。その頃のジェシカは、いつも俯いていて常に自信がなさそうで、見ているだけでイライラするような女だった。


どうして僕がこんな根暗と結婚しないといけないんだ。本当に陰気くさい女だな。ずっとそう思っていた。そんな中、カミラに出会った。美しいピンク色の髪に透き通るようなブルーの瞳。太陽の様なはじける笑顔。


そんなカミラに恋をするなという方が無理だろう。僕はカミラに夢中になった。ただ、カミラは男爵令嬢、身分が低い事から、彼女を妻として迎える事は厳しいとの事だった。


それでも僕は、カミラにどんどんハマって行った。父上や母上に何度も“カミラと結婚したい、ジェシカと婚約破棄をしたい”と訴えたが、取り合ってもらえなかった。


そんな中、カミラが事件を犯した。あんなに美しく明るいカミラが、そんな酷い事をする訳がない。そんな思いから、僕はカミラを無駄に庇った。それがいけなかった。


大事になってしまった事で、父上からはかなりの叱責を受けた。さらにクラスメートや他の貴族たちまで、僕を残念な者を見る目で見ていたのだ。


その瞬間、僕は一気に目が覚めた。それに、自分の机を傷つけているカミラの顔をふと思い出した時、とても醜い顔をしていたのだ。


僕はどうしてこんな女に恋をしていたのだろう。それと同時に、僕を窮地に立たせたカミラに、激しい憤りを感じた。そもそも男爵令嬢の分際で、僕の婚約者でもあるジェシカを陥れようとするなんて、本当に恐ろしい女だ。


そんな思いから、カミラを責めた。こうする事で、父上や貴族たちも、僕を見直してくれると思っていたのに…


なぜか再び父上に怒られるわ、貴族たちからは残念な目で見られるわ散々だった。そんな中、ジェシカはカミラを庇ったのだ。


あれほどまでに自分を苦しめた女を庇うだなんて。それに、今までとは別人の様に胸を張り、はっきりと自分の意見を言っている。その姿は、とても美しかった。今まではジェシカはいつも俯いていた為あまり気が付かなかったが、よく見ると顔も悪くない。


どうして僕は、今までジェシカの魅力に気が付かなかったのだろう。さらにジェシカは、父親を通じで、カミラの罪を軽くしてもらう様に訴えたのだ。


なんて…なんて優しい女性なんだ。ただ僕を騙し、僕の評価を著しく落としたカミラを許せなかったのだが…現にあの女のせいで、僕の評判は地に落ちた。


父上からも


「お前が今回の事件を心の底から反省し、悔い改めなければ王太子の座を弟のネリソンに譲るからな!」


と、言われてしまった。ネリソンに王太子の座を移すだって。ふざけるな!王太子は僕だ。そもそも、そんな事、母上が許すわけがない。


そう、ネリソンは父上の側室が産んだ子供なのだ。王妃の子供でもないネリソンなんかに、誰が王太子の座を渡すか。


現に母上も、父上の発言にはかなり激怒しており、大喧嘩をしていた。


「ネイサン、陛下の言葉は気にしなくてもいいわ。あなたは生まれながらの王太子なのよ。大丈夫、あの女をうまく利用して、国王になればいいのよ。それにしてもあの女、運がいいわね。あんな根暗の癖に、なぜか他の貴族からの評判が上がるなんて」


そう言っていた。


とにかく僕は、王太子の座を守る為、ジェシカにそれはそれは優しくした。ジェシカも僕に優しくされることが嬉しいのか、よく笑ってくれる。そう、ずっと俯いて何を考えているか分からない根暗なジェシカはもういない。


今は笑顔が良く似合う、明るくて優しいジェシカに生まれ変わってくれたのだ。そんなジェシカに、僕は次第に惹かれていっている。そう、僕たちは相思相愛なのだ。


ただ…


ジェシカの従者、ヴァンの存在が気に入らないのだ。さすがに学院までついては来ないが、それ以外の場所には、必ずあの従者がいる。ジェシカもあの従者を気に入っている様で、よく嬉しそうに話をしている。


弾ける様なあの笑顔。僕はあんなジェシカの表情を見た事がないのに、あの男にはあんな表情も見せるんだな…


そう思ったら、どうしようもないほど腹が立ってきた。あの男、目障りだな…ジェシカは僕だけのものなのに…


そんなモヤモヤとした気持ちの中、事件が起きた。そう、今日だ。体調が悪かったジェシカは、ホールで倒れてしまったのだ。そんなジェシカを抱きかかえると、あの従者はジェシカを部屋に連れて行ったのだ。


ジェシカもあの男にギュッとくっ付いている。その姿を見た瞬間、怒りの感情が爆発した。ジェシカに触れるな!ジェシカは僕のものなのに…


もう我慢できない、これ以上あの男をジェシカの元になんて置いておけない。そんな気持ちが、僕を支配した。


ホールから出て行ったジェシカを呆然と見送る侯爵を捕まえ、母上と一緒に文句を言った。さらに、僕は侯爵にあるお願いもした。


きっとあの侯爵なら、僕のお願いを聞いてくれるだろう。

これでジェシカは、僕のものだ…


※次回、ジェシカ視点に戻ります。

よろしくお願いします。

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