第47話 2人で新たな未来へと旅立ちます

「私はあなたに助けられたあの日から、あなたを愛して参りました。前世の記憶が戻ってから、やっとご自分の幸せを考えてくれる様になった時は、本当に嬉しかったのです。あなたは私に言いましたね。“一緒に旅に出よう”と。あの時は、天にも昇る気持ちになりました。この1年は、あなたに触れられない寂しさを必死に耐え、ただひたすらあなたを見守り続けました。でも、もう我慢できない。ジェシカ、私はあなたを愛しています。どうか、これからは私の傍から絶対に離れないで下さい。いいですね、分かりましたね」


ん?これは愛の告白よね。でも…なぜだろう、最後の方が、なんだか納得いかないのだが…


「あの、ヴァン。そこは“私の傍にずっとして欲しい”とかではなくって?」


「ジェシカはお願いしても、聞いてはくれないでしょう?それとも、私の傍にいるのが嫌なのですか?この1年、あんなに必死に私の為に頑張ってくれていたのに。皆の前で私の事を“最愛の人”と言っていたのは嘘だったのですか?」


寂しそうにつぶやくヴァン。まさか、通信時の会話まで聞いていたなんて…これ以上は何もいえない。


「ヴァン、ごめんなさい。私もあなたが大好きよ。私にとってヴァンは、全てなの。あなたがこれからずっと傍にいてくれると思うと、嬉しいわ。もう私の傍を離れないでね。約束よ」


そう伝えると、ヴァンに抱き着いた。やっぱり私は、ヴァンがいい。ヴァンが傍にいてくれるだけで、とても幸せなのだから。


「もちろんです、ジェシカ。1年間離れ離れだった時間を、これからたっぷりと取り戻しましょう。もう二度と、あなたを離しません。二度とね…そうだ、一度我が国に戻り、婚姻届けを提出してから旅に出ましょう。それから、両親や兄にあなたを紹介しないと。皆あなたに会うのを、楽しみにしていますから」


「えっ、婚姻届け?そんなに早く結婚しなくても…」


「いいえ、ダメです。あなたは目を離すと本当にどこかに行ってしまいそうですから。それに私ももう22歳ですので、両親からも早く結婚しろと言われております」


「えっ、ヴァンって22歳だったの?」


「ええ、そうですよ。でも私はあまり女性に興味がない様で、今までどうしても結婚したいと思える人に出会えなかったのです。でもやっとジェシカに出会えた!“絶対に逃がすな”と両親にも言われていますから。もし逃げても、地の果てまで追いかけるつもりです」


地の果てって…

でも、そこまで大切に思ってくれているなんて、やっぱり嬉しいわ。


「ジェシカ様、この方が噂のヴァン様ですのね。ヴァン様…いいえ、ヴァンヴィーノ殿下、ジェシカ様はあなた様の為だけに、この1年間をささげてきたと言っても過言ではありません。どうか、幸せにしてあげて下さい」


そう言って頭を下げたのは、アンネ様だ。


「ダスディー侯爵令嬢、もちろんですよ。私はこの1年、ずっとジェシカを陰で見守って来ましたので」


そう言うと、ヴァンがダスディー侯爵とアンネ様の方を向いた。


「ダスディー侯爵、ダスディー侯爵令嬢、それからここに集まって頂いた皆様、ジェシカの事を支えていただき、ありがとうございます。これからは私が責任をもって、ジェシカを守っていきます。どうかご安心ください」


ヴァンが深々と頭を下げた。


「ジェシカ様、よかったですね。どうか幸せになってくださいね。あぁ、まだ1人なのは私だけか。私にも早く素敵な殿方が現れないかしら?」


「あら、きっとカミラ様にも、素敵な殿方が現れますわ。その時は、私にも紹介してくださいね」


「もちろんですわ、ジェシカ様が次にこの国に帰って来るまでには、必ず素敵な殿方を捕まえまておきますから、楽しみにしていてくださいね」


そう言って得意げな顔をしているカミラ様。彼女ならきっと、素敵な殿方を捕まえる事だろう。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」


「ええ、それでは皆様、本当にありがとうございました」


ヴァンの手をしっかり握り、皆に手を振る。そして、船へと乗り込んだ。急いで甲板へと向かう。もちろん、皆に手を振る為だ。


どうやら皆も、私たちの船が出るまで待っていてくれている様だ。しばらくすると、ゆっくり船が進みだす。


「皆様、本当にありがとうございました!」


最後に大きな声で叫んだ。ダスディー侯爵やアンネ様、ネリソン王太子殿下、カミラ様、他にもたくさんの人が手を振ってくれる。彼らがいなければ、きっと今の私はいないだろう。


本当に感謝してもしきれない。


思い返せば、私の戦いは前世の記憶が戻った時から始まった。唯一の心の支えだったヴァンを失い、絶望したこともあった。それでもヴァンの仇を打つため、カミラ様の無念を晴らすために、必死に頑張って来た。


その結果、気が付けば沢山の味方が出来た。もう私は独りぼっちじゃない。アンネ様やカミラ様を始め、たくさんの大切な人が出来た。そして…心から愛するヴァン。


一度は失ったと思ったヴァンも、今は私の傍にいてくれる。


「ヴァン、また私の元に戻って来てくれてありがとう。大好きよ」


「ジェシカ、私もあなたを愛しています。ただ…私はあなたの傍を離れた覚えはありませんが…まあいいです。これからは、ジェシカが寂しくないようにずっと傍にいます。まずはエルピス王国に向かい、婚姻届けを出したら、色々な国を回りましょう」


「色々な国か。それは素敵ね。それに、ヴァンと一緒に回ったらきっと楽しいでしょうね」


考えただけで、ワクワクするわ。

もう二度と叶わないと思っていたヴァンと旅が出来るなんて、こんなにうれしい事はない。


まだ見ぬこの世界の国々に胸弾ませながら、旅立つ2人であった。


おしまい



~あとがき~

これにて本編は完結です。

この後、本編では入れられなかった(入れるタイミングを逃してしまいました(;'∀'))

ヴァン視点やネイサン殿下のその後なども、投稿出来たらいいなと思っております。


引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございましたm(__)m

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る