第46話 夢じゃないようです
声の方をゆっくり振り向く。そこにいたのは。
「ヴァン!!」
間違いない、ヴァンだ。嬉しくてヴァンに思いっきり抱き付いた。やっぱりヴァンだ、ヴァンの匂いがする。もしかしてこれは夢かしら?もし夢なら、覚めないで欲しい。
「お嬢様は随分と泣き虫になりましたね。また泣いていらっしゃるのですか?」
そう言って私の頭をヴァンが撫でてくれる。この感触、懐かしくて落ち着く。
「あなたが泣かせたのでしょう。でも、どうして生きているの?まさか、幽霊とか?」
慌てて足を確認するが、しっかりついている。それに、触れられるし…
「私は生きていますよ。そもそも、あの様な低能な人物に殺されるほど、バカではありません」
「生きていたのなら、どうしてすぐに会いに来てくれなかったの?私がどれほど絶望し、涙を流したか。本当にもう、あなたは!」
「申し訳ございません。でも、私はずっとあなた様を見守っていたのですよ。そう、ずっとね…それよりもお嬢様、どうしてこのイヤリング、毎日身につけて下さらなかったのですか?そのせいで、私はあなた様の様子を毎日確認できなかったではありませんか」
はぁ~とため息を付くヴァン。一体何を言っているのだろう。この人は…
「ヴァン、ずっと見守っていたとはどういう事?」
意味が分からず、聞き返す。
すると、奥の方にいた騎士たちがこちらにやって来た。あら?彼らは…
「お嬢様、彼らに見覚えはありませんか?彼らは私の護衛騎士たちです。あなた様の父親に殺された事になった私は、あまりお嬢様の周りをウロウロする事は出来ませんからね。だから、彼らのあなた様の護衛を依頼したのです。それにしてもあの元王太子、お嬢様に暴力を振るうなんて許せませんね…クマに襲われそうになった時も、お嬢様を置いて逃げるし。思い出しただけでも腹が立つ」
いつも穏やかなヴァン。今も笑顔だが、目が笑っていない。
「彼らは確かに、いつも私の傍にいたわ。彼らはヴァンが雇ったのね。クマから私を守ってくれたのは、あなた達だったのね。ありがとう」
「いいえ、クマを射抜いたのは、私です。基本的にお嬢様がお出掛けになられている時は、私も傍に付いていましたので」
そう言ってにっこりと笑ったヴァン。
「あなたはずっと私の傍にいてくれたのね。ありがとう。そうそう、私ね、もうお嬢様じゃないの。だから、私の事は、ジェシカと呼んで。それより、あなたはいったい何者なの?お父様が雇った刺客から逃れたり、王宮に護衛騎士を潜り込ませたりするなんて」
そういえば、ヴァンを助けた時も今も、とても高価な洋服を身にまとっていた。もしかして、どこかの国の貴族かしら?
「それじゃあ、今日からジェシカと呼ばせていただきましょう。ジェシカ、私の傍にずっといてくれると言いましたね?これからも、その気持ちは変わりませんか?」
ヴァンの言っている意味がよく分からない。でも、私はヴァンが好きだ。生きているとわかった今、ずっと傍にいたい。
「ええ、もちろんよ。私はずっとヴァンの傍にいたいわ」
「その言葉に、嘘偽りはありませんね」
「ええ…もちろんよ」
「わかりました。私はエルピス王国の第二王子、ヴァンヴィーノ・ディア・エルピスです。旅が好きで、この近くを旅している時に、海難事故にあってしまいまして。それで、あなた様に助けられたという訳です。でも、安心してください。既に兄が王位につくことが決まっています。私は自由気ままな第二王子です。これからも貿易をしながら、旅を続けるつもりですので」
ヴァンが笑顔でそういった。
…第二王子…
ヴァンが、第二王子ですって…
私は他国の第二王子を従者にしていたの?お父様とネイサン様なんて、彼を殺そうとしたし…もしかして、国際問題に発展する?
なんだか頭が痛くなってきたわ。
「ジェシカ、顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」
「ヴァン…いいえ、ヴァンヴィーノ殿下、今までの数々のご無礼、本当に申し訳ございませんでした」
急いでヴァンヴィーノ殿下に頭を下げる。
「ジェシカ、急によそよそしくならないでください。私はヴァンです。あぁ、だからジェシカに私の本当の姿を知られたくなかったんだ…」
顔を覆い、ショックを受けているヴァンヴィーノ殿下。でも、見た目やしぐさはやっぱりヴァンだ。
「ごめんなさい。それで、ヴァン…はこれからどうなされるおつもりですか?まさか、あなたを殺そうとしたこの国に復讐をするとか…」
せっかく全てがうまくいったと思ったのに、戦争になったりしたら元も子もない。
「どうしてその様な発想になるのですか?私を殺そうとしたあの男は、ジェシカが断罪してくれたではないですか。断罪時の堂々とした姿、とても素敵でしたよ。私は約束通り、あなたと共に、旅に出るつもりです。その為に、船も準備してありますから」
ヴァンが指さす方向には、立派な船が。私、普通の船で旅に出たかったのだが…
「それにしても、ヴァンは本当にずっと私の事を見守っていてくれたのね。ありがとう、ヴァン」
「当たり前です。あなたは私の大切な人なのですから」
そう言うと、ヴァンが私の瞳を真っすぐと見つめた。
※次回最終話です。
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