第30話 お父様の部屋にカメラを設置しましょう

長かった学期末休みが終わり、私は3年生になった。この学期末休み、色々な事があったが、なんとか無事過ごすことが出来た。


別荘から持ち帰った金をお父様と継母に渡すと、それはそれは喜んでいた。せっかくなので、残ったお金は貰っておいた。旅の資金にするつもりだ。留守の間、部屋を物色されないか心配したが、特にその様な形跡もなかった。


思ったよりも皆、聞き訳がいいのかしら?それとも小心者?まあ、何はともあれ何もなかったのだからよかったわ。


そしてこの学期休みで、すっかり鍵開けの技術を習得した私。後はどのタイミングでカメラを設置しようか考え中だ。


そう、お父様の部屋は基本的に執務室や寝室と繋がった作りになっている為、四六時中部屋にいるのだ。唯一食事の時にだけ部屋から出るが、その時に使用人が部屋の掃除を行う。さらに昼間は使用人が屋敷中をうろつきまわっている為、中々こっそりと部屋に忍び込むことが出来ない。


さて、どうしたものか…


そう頭を悩ませている時だった。


「ジェシカ、来月はグラッシュの11歳の誕生日だ。次期侯爵家の当主として我が家で盛大なパーティーを行う予定だ。いいな、この前みたいにホールの真ん中で倒れるなんて、醜態をさらすなよ」


「えっ、異母姉上も出席するの?異母姉上、悪いけれど体調が悪いという事にして、部屋にいてくれないかい?あなたが僕のパーティーに出席なんて、嫌だ」


すかさず異母弟が抗議の声を上げた。私だって、あなたの誕生日パーティーに出るなんて嫌よ!


「グラッシュ、ジェシカは王太子殿下の婚約者なんだ。ジェシカはいずれ王妃になる。お前の誕生日パーティーに出ておいた方が、いずれお前の為になるんだ。それに、王太子殿下も参加してくれるとの事だし」


「…こんな女でも一応役には立つという事ですね。わかりました、いいですよ、異母姉上の参加を認めましょう」


何が参加を認めましょう!よ。本当に生意気な子ね。大体異母弟は日本なら小学校5年生の歳だ。この年でこんな生意気じゃあ、先が思いやられるわね。


でも待てよ、異母弟の誕生日パーティーが行われる日は、使用人たちは全員ホールに駆り出されるはず。もちろん、護衛騎士たちも。という事は、屋敷は手薄になるという事よね。


これは絶好のチャンスじゃない。このチャンス、何が何でも見逃すわけにはいかないわ。


早速部屋に戻り、クローゼットの奥に隠しておいた映像型録音機を取り出す。取り付けられるカメラは全部で6台、1台だけ残して、後は全てお父様の部屋に設置しよう。


お父様の部屋の見取図があればいいのだけれど、生憎そんなものはない。仕方がない、当日部屋に入ったところで考えるか。



そして迎えた異母弟の誕生日パーティーの日。私のときより何倍も豪華な誕生日パーティーだ。たくさんの貴族も参加している。もちろん、ネイサン様もだ。


「やあ、ジェシカ。今日の君もとても可愛いよ。僕が贈ったドレス、気に入ってくれたかい?」


「ええ、今回もドレスを送って下さり、ありがとうございます」


ペコリとネイサン様に頭を下げた。さらに他の貴族たちにも挨拶をしていく。そろそろ屋敷に戻りたいのだが、なぜかネイサン様が私の傍を離れない。本当にこの男は、私の邪魔ばかりするのだから!


こうなったら!


「あの…ネイサン様、ちょっとお手洗いに行きたいのですが」


「トイレかい?分かったよ、行っておいで」


大きな声でネイサン様が言うものだから、皆こっちを見ているじゃない。本当にこの男は、デリカシーがないのだから!


急いでホールを出て、屋敷に戻る。玄関には護衛騎士が2人立っていた。屋敷の周りにも何人もの護衛騎士が立っている。


「お嬢様、どうかされましたか?」


「ええ、ちょっとお腹が痛くて…一度部屋に戻りたくて」


「ああ、そうでしたか。どうぞ」


急いで屋敷に通してくれた護衛騎士。一旦部屋に戻り、機械とヘアピンを手に持ち、お父様の部屋へと急いだ。屋敷の中は本当に静かで、誰もいない。早速お父様の部屋の鍵をヘアピンで開けて中に入った。


まずは書斎だ。ここにも頑丈な鍵が付いた棚がある。ここもヘアピンで難なく鍵を開けた。中の書類をカメラで撮影していく。


「これは、脱税の証拠の様ね。それにこっちは裏組織とのつながりのデータだわ」


次々と書類を録画していく。とにかく早く録画しないと、誰かに見つかるかもしれない。緊張と焦りから、どうしても手が震える。それでも必死に撮影を続け、なんとかここにある全ての書類の撮影に成功した。そしてさらに、お父様の書斎に2か所、自室に2か所、夫婦の寝室に1か所カメラを設置した。部屋に入った事がバレないように、もう一度ヘアピンで鍵を掛け、部屋から出た。


そして急いで自室に戻る。どうやらうまく行った様だ。成功した安堵感から、その場に座り込む。


ヴァン、私、やったわよ。頑張って撮影をしたわ。それに、お父様の部屋にカメラも設置した。これでお父様を断罪できる。大丈夫、きっとうまく行くはずよ。

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