第31話 王宮に呼び出されました
翌日から、お父様の様子を確認する作業を始めた。自分でもびっくりするくらい、ベストポディションにカメラをセットしたおかげで、お父様の姿はもちろん、声もバッチリ入っている。
ただ、やはり悪事を働いている映像など簡単に撮れる訳がなく…
これは長期戦になりそうな予感だ。とはいっても、貴族学院卒業までまだ1年近くあるため、そこまで急ぐ必要は無い。
また私は、お父様の部屋で撮影した書類たちの映像の整理も併せて行っている。こちらも量が結構多いため、時間が掛かる。
1つ1つ映像を静止させ、内容を確認できるように編集しながら作業を行っていく。編集の方法も、ヴァンがメモに残してくれていた。本当にヴァンって未来を予知する力があるのかしら?
そう思うくらい、私が欲しい情報を残してくれているのだ。ヴァンを失ってから、まだ数か月しか経っていないのに、もう何年も時が過ぎた気がする。それだけ私の中で、ヴァンの存在が大きかったのだろう。
とにかく私が出来る事を、全てやって行かないと。そんな思いで、毎日毎日編集作業を行っている。必死に作業を行っているが、とにかく量が膨大なのだ。これ、1年で全て編集できるかしら?
出来る気がしないわね…
ちなみにお父様はやはり予想通り、悪事に手を染めていた様で、ざっと見た感じ脱税や賄賂による不正などはもちろん、この国では禁止されている薬物の売買まで行っている。まだチラリと映像に目を通しただけなのに、この時点でこれだけの悪事の証拠が出てくるなんて…
本当にどうしようもない人だ。
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
人知れず編集作業を行っていると、メイドがやって来た。すぐにデータを隠す。
「わかったわ、すぐに行くわね」
急いでお父様の元へと向かう。
「お父様、お呼びでしょうか?」
「ああ、実は今日陛下と王太子殿下に呼び出されてな。明日お前と登城して欲しいとの事なのだ」
「明日ですか。わかりましたわ」
明日は貴族学院が休みだから、朝から編集作業が出来ると思っていたのに…でも、王族からの呼び出し。無視する事など出来ない。
翌日、いつもの様に水色のドレスを着せられ、王宮に向かった。馬車の中はお父様と継母もいる。何とも気まずい空気が漂っていた。
「ジェシカ、お前まさか殿下にまた嫌われるようなことをしたのではないだろうな?」
何を思ったのか、そんな事を言いだしたのだ。残念な事に、なぜかネイサン様は私によく絡んでくる。あわよくば、高貴な身分の貴族とまた恋に落ちてくれればいいと思っていたのだが…
あんなにカミラ様を愛していたのに、都合が悪くなった途端、180度態度を変えたネイサン様の姿に、さすがの令嬢たちもドン引き。いくら王太子でもあれはないとの事で、ネイサン様は実は令嬢たちに非常に不人気なのだ。
「おい、私の話を聞いているのか!」
私が返事をしなかった為、お父様が怒鳴りつけてきた。相変わらず、短気な人だ。
「特に嫌われる様な事をした覚えはございませんが」
「あなたに覚えがなくても、無意識に何かをしているのではなくって。あなたは人をイラつかせる天才だものね」
すかさず継母が話に入って来た。そもそも、どうしてこの人まで付いて来たのかしら?なんだか頭痛がしてきたわ…
やっと王宮に着き、陛下や殿下の元へと向かう。
「ファレソン侯爵、夫人、ジェシカ嬢、よく来てくれたね。さあ、座ってくれ」
案内された部屋に入ると、笑顔の陛下に案内された。同じく笑顔のネイサン様と、私を睨みつけている王妃様もいる。
「陛下、王妃殿下、王太子殿下、今日はどういったお話でしょうか?」
珍しくお父様が、不安そうな顔で陛下に話しかけている。
「そうそう、本題に入る前に、1ついいだろうか。ジェシカ嬢、別荘の件、執事から聞いた。本当にネイサンがすまなかったな。令嬢の君を狩りに連れ出しただけでなく、クマに襲われそうになった君を1人残し、一目散に逃げて行ったそうじゃないか…本当に申し訳ない」
そう言って、陛下が私に向かって頭を下げたのだ。
「陛下、頭を上げて下さい。私はこの通り、何ともありませんでしたので」
頭を下げる陛下に、必死に訴えた。さすがに国王でもある陛下に、あまり頭を下げさせられない。それにしてもあの執事、いい仕事をするわね。本当に。
「侯爵や夫人にも謝らないとな。大切なお嬢さんの命を危険に晒させてしまい、申し訳なかった。前回の冤罪事件といい、本当に面目ない」
「陛下、頭をお上げください。ジェシカも元気に戻って来ましたので。ただ私どもにとって、娘は目にいれても痛くないくらい大切な存在です。そんな娘が、まさかクマに襲われ、置き去りにされていたんて、さすがにその様な扱いでは困ります」
何が目にいれても痛くないくらい大切な娘よ。散々暴言と暴力を振るって来たくせに。どの口が言っているのだろう。
「侯爵のいう事は最もだ。今回の事件の報告を受け、さすがに大臣たちも不満の声を上げ始めていてな。“ネイサン殿下が王になるのは不満です”と言っているんだ。それで、なんとか大臣たちを黙らせるために、少し早いのだが、ジェシカ嬢の17歳の誕生日と同時に、ネイサンとジェシカ嬢を結婚させ、ネイサンを国王にしようと思っている」
えーーー!なんですって!
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