第32話 これはマズイことになりました

陛下、今なんて言った?私の誕生日に結婚?それと同時にネイサン様を王にする?あり得ないわ…


さすがのお父様も混乱している様で


「あの…陛下、ジェシカも殿下もまだ学生ですが…」


「ああ、そうなのだが…」


すると今まで黙っていた王妃様が口を開いた。


「別に学生でも構わないでしょう?この国では17歳から結婚が認められているし、結婚したら王位を継げることになっているの。とにかく、今のままだと、あのにっくき女の息子に、王位まで奪われてしまうかもしれないわ」


王妃様がそう叫んだ。にっくき女の息子とは、きっと第二王子のネリソン殿下だろう。


「そういえば、今ネリソン殿下派の貴族が、活発に動いていると聞いたことがある…」


ボソリとお父様が呟いた。なるほど、あまりにも頭の弱いネイサン様ではなく、聡明で有名なネリソン殿下を国王にしたいと考えているのね。そりゃそうだろう、誰だって、聡明な人間が国王になって欲しいと思っているはず。


「とにかく、貴族たちを黙らせるためにも、早く結婚をしないといけないのよ!」


そう叫んだ。なるほど、そういう事か。


「…わかりました。私どもは、陛下の言う通りにいたします」


「ありがとう、助かるよ」


心底ほっとした表情を浮かべる陛下。その後は、今後の事を詳しく話し合っていた。でも、私は話が全く入ってこなかった。まだ1年近くあると思っていた時間が、後半年と少ししかなくなってしまったのだ。


家に帰ると、すぐに動画の整理に取り掛かった。でも…


正直貴族学院卒業までに断罪できなくても、すぐには結婚しないと思っていた。だから頭の片隅には、そんなに焦らなくてもいいだろうという考えがあったのだ。でも今は!


本格的に時間が無くなって来た。それに、私1人で本当にうまく出来るのかしら?そんな不安が頭をよぎる。


考えれば考えるほど、どうしていいか分からなくなってきた。


「ヴァン、どうしたらいい?私、1人じゃあやっぱり不安だよ…それに、こんな膨大な量の映像を、どうやって私1人で誕生日まで編集しろというの?無理よ…絶対に…」


気が付くと涙が溢れていた。一体どうすればいいの?


その時だった、映像型録音機が急に再生され始めたのだ。この声は…お父様?


「第二王子派が活発に動いている事は知っていたが、まさかここまでとはな。でも、そのお陰で、ジェシカが王妃になるタイミングが早まった。それは結果オーライだ」


どうやら誰かと話をしている様だ。


「第二王子派を引きているのは、ダスディー侯爵だ。それに、最近ギュリネイ男爵もダスディー侯爵と頻繁に交流している様だ。あの男、娘の事できっと殿下に恨みがあるのだろう」


ダスディー侯爵…確か正義感が強く、心優しい侯爵だと聞いたことがある。1学年下に、アンネ様というお嬢様がいたわね。もしダスディー侯爵が協力してくださるなら、こんなに心強い事はない。


でも、私は敵でもある、ネイサン様の婚約者でファレソン侯爵家の令嬢。いくら私が訴えても、信じてもらえないかもしれない。それでも、このまま1人で戦うよりかは、やっぱり仲間が欲しい…


結局答えが出ないまま、その日は眠れぬ夜を過ごした。翌日、貴族学院へと向かう。すると


「ジェシカ様、おめでとうございます。ジェシカ様の17歳のお誕生日に合わせえて、殿下と結婚なされるのですよね」


「17歳で結婚、そして王妃様だなんて、羨ましいですわ」


令嬢たちが話しかけてきたのだ。どうやらもう話が伝わってしまっている様だ。


「ありがとう、皆。ジェシカは世界一幸せ者だね」


何を思ったのか、急に話に入って来たネイサン様。私は今、世界一の不幸者よ!そう叫びたいが、もちろんそんな事は叫べない。


とりあえず苦笑いをしておいた。


さて、どうしたものか…


授業中も集中できなくて、色々と考えてしまう。そうしているうちに、放課後になった。


「ジェシカ、今日も王宮でお茶を飲んでいこう」


相変わらず私を誘ってくるネイサン様。


「ごめんなさい、今日はちょっと図書館で色々と調べたくて。ほら、結婚も決まったでしょう。だから…」


「ジェシカはそんなに僕との結婚が楽しみなんだね。いいよ、分かったよ。それじゃあ、気を付けて帰るんだよ」


そう言って、帰って行くネイサン様を見送る。早速図書館に向かおうとした時だった。


あれは…アンネ様とネリソン殿下だわ。


2人の姿を見つけたのだ。つい後を付けてしまった。でも…


途中で姿を見失ってしまう。一体どこにいったのかしら?もしかしたら今のって、アンネ様と話す絶好のチャンスだったんじゃない?


もう、私ったら何をしているのよ。ただでさえ時間がないというのに…


結局その日は、調べ物も出来ずに、1人で屋敷に戻った。


その日から、密かにアンネ様の事を調べ始めた。彼女は非常に優秀だが、少し気が強いところがあるらしい。恋人でもあるネリソン殿下を非常に大切に思っており、いつも傍に寄り添っているのだとか。


これらの情報は、情報通のクラスメートの令嬢から仕入れた。実は私、親しい友人は居ないが、親切にしてくれる令嬢たちは居るのだ。特に私が王妃になる事が今の時点では決まっている為、少し私が話しかけると、親切に色々と教えてくれる。


本当に有難い存在だ。


ただ…やはりまだアンネ様に話しかける事は出来ていない。それにどうやら私がアンネ様に興味がある様だと知ったネイサン様に


「彼女にはあまり近づかない方がいい」


と、注意を受けた。これでアンネ様に増々話しかけ辛くなった。さて、どうしたものか…

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