第33話 アンネ様を呼び出しました
ネイサン様との結婚が早まってから、数週間が過ぎた。ついに私の誕生日まで、半年を切った。引き続き、お父様の様子を確認したり、書類の映像をまとめたりはしているが、やはり1人ではどうしても間に合わない。
そもそも、私はこういった仕事は苦手なのだ。
それに、こんな情報で大丈夫なのだろうか?準備が少しずつ進むにつれて、不安になって来る。やっぱり協力者が欲しいわ…
こうなったら、ダメ元でアンネ様に手紙を書こう。そんな思いから、早速手紙を書き始めた。実はネイサン様と婚約破棄をしたいと思っている事、そのために父親の不正情報を集めて断罪しようと考えている事、アンネ様の家が第二王子派を率いていると聞いて、協力して欲しいと思った事を素直に書いた。
さらに、3日後の放課後、貴族学院の裏庭に来て欲しい事も記載した。さて、後はこの手紙をアンネ様に渡すだけなのだが…
どうやって渡そう。日本みたいに下駄箱があれば、そこに入れておけるのだが、生憎この世界には靴を脱ぐ習慣はない。アンネ様の机に入れるという方法もあるが、彼女の席が分からないし…
ええい、こうなったら、強硬手段よ!
翌日、いつもの様に貴族学院に向かった。そして、アンネ様の姿を見つけると、通り過ぎるふりをして体当たりをする。
「キャァ」
悲鳴を上げて倒れるアンネ様。
「ごめんなさい、大丈夫ですか?」
そう言って、彼女の手を取ったと同時に、手紙を握らせる。その瞬間、大きく目を見開いて、かなり驚いた表情をしているアンネ様。隣ではネリソン殿下が私を睨んでいる。
「ジェシカ、大丈夫かい?」
やって来たのはネイサン様だ。アンネ様とネリソン殿下を睨んでいる。
「おい、僕の婚約者に何をした?」
怖い顔でネイサン様が叫んだ。これはマズイ。
「ネイサン様、私がアンネ様にぶつかってしまっただけですわ。アンネ様、本当にごめんなさい。それでは失礼します」
ネイサン様の腕を掴み、その場を足早に立ち去る。
「本当に大丈夫なのかい?あいつ、君を睨んでいたよ。本当に身の程知らずな奴だ」
あいつとは、きっとネリソン殿下の事だろう。とにかく、手紙は渡せた。あとは彼女が3日後に、校舎裏に来てくれるかどうかだけね。
そして、3日後。
私はアンネ様が来てくれることを願って、映像の一部を持って学院へと向かった。もし彼女が来てくれなければ、もう腹をくくり、1人で頑張るしかない。それでも、やっぱりアンネ様に協力して欲しい。そんな祈る様な思いで、授業を受ける。
そして、待ちに待った放課後。
「ネイサン様、今日も結婚や王妃になる為の準備を行いたいので、図書館に向かいますね」
「ああ、わかったよ。君は本当に僕との結婚が楽しみなんだね。でも、王宮にも色々と本はあるよ」
「ええ、そうなのですが、ここの図書館の方が、私好みのものがたくさんございまして…」
「ふ~ん、わかったよ。それじゃあ、今日も気を付けて帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
ネイサン様はあまり本がお好きではない様で、私が図書館に行くというと、結構すんなりと帰ってくれる。以前は一緒に付いて来ていたが、暇だったようだ。
ネイサン様を見送った後、急いで校舎裏へとやって来た。アンネ様、来てくれるかしら?今のところ、姿が見えない様だが、とにかく待つしかない。
あぁ、なんだか緊張してきたわ。私、上手く自分の気持ちを伝えられるかしら。手に変な汗までかいているし…
その時だった。
「ジェシカ様、お待たせして申し訳ございません」
いつの間にか目の前には、アンネ様が立っていた。燃えるような真っ赤な髪とは対照的に、優しいブルーの瞳をした美しい女性。緊張しているのか、瞳が少し泳いでいる。
「アンネ様、来てくださったのですね。ありがとうございます」
嬉しくて、ついアンネ様に深々と頭を下げた。
「あの…ジェシカ様。正直私は、あの手紙の内容があまりにも突拍子過ぎて、まだ信じられていないのです…でも、一度あなたと会って話がしたいと思い、ここに来ました」
どうやら私の事を疑っている様だ。まあ、疑われる気持ちもわかる。いくら親が嫌いでも、親を断罪すれば自分自身も路頭に迷うのだ。特に私の場合、黙っていれば王妃という地位が待っている。どんなにネイサン様が嫌いでも、親を断罪してまで婚約破棄をしたいなんて、普通に考えたらおかしいと思うわよね…
「私の事を疑っているのは当然ですわ。だって私は、ネイサン様の婚約者ですもの。でも、私はどうしても父親とネイサン様が許せないのです。私の大切なヴァンを殺した、あの人たちが…」
「ヴァン?」
不思議そうな顔で、アンネ様が聞き返した。私は真っすぐに、アンネ様の顔を見つめたのだった。
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