第34話 協力者が出来ました

私は、今までの出来事を丁寧に話した。幼いころに母親を亡くしてから、酷い扱いを受けていた事。そんな中、ヴァンを助け、従者にした事。ずっと1人だった私をいつも優しく見守り、辛いときには助けてくれた事。私の生きる希望だったヴァンが、ネイサン様の醜い嫉妬で、父親によって殺されてしまった事。


途中、涙を耐える事が出来ずに、泣いてしまった。そんな私に、ハンカチを渡してくれたアンネ様。


今まで溜め込んでいた思いを、一気にアンネ様にぶつけた。


「だから私は、ヴァンを殺したあの人たちが、どうしても許せないのです。それで、父の部屋に映像型録音機を設置しました。父の不正となる書類も、全て撮影済みです。この映像型録音機は、ヴァンが私の為に残してくれたものなのです。ヴァンは本当に、私にとって唯一の支えで…ごめんなさぃ…私、本当は辛くてたまらなくて…」


これ以上は話せなかった。今まで張りつめていた糸が、プツリと切れ、その場で声を上げて泣いた。こんな見苦しい姿、年下のアンネ様に見せたくはなかった。でも…


「ジェシカ様は、ずっと1人で戦ってこられたのですね。そのヴァン様の為に…よく頑張りましたね」


そう言って抱きしめてくれたアンネ様。彼女の瞳からも、いつの間にか涙が流れていた。


「ジェシカ様の気持ちは分かりました。それにしても、ジェシカ様がこれほどまでに情熱的な方だったなんて。それで、お父様を断罪するとして、婚約者のネイサン殿下はどうなさるおつもりですか?」


真剣な表情でアンネ様が訪ねて来た。


「ネイサン様とは、とりあえず婚約破棄が出来ればいいと考えております。出来る事なら、ネイサン様にも痛い目を見ていただきたいと思っております。カミラ様とも約束しましたので…」


「カミラ様とは、ネイサン殿下と恋仲にあった男爵令嬢ですよね?」


「はい、実はカミラ様が修道院に旅立つ前に、お話をしましたの。そこで、約束したのです。ネイサン様を一泡吹かせると。そもそも婚約者がいるくせに、他の令嬢にうつつを抜かすような殿方は、私はどうしても受け入れられませんの。その上、あんなにも“愛しているのはカミラだけ”と言っていたのに、自分の立場が悪くなったら、あっさり捨てたのですよ。本当にネイサン様は、最低以外何者でもありませんわ。私とカミラ様は、ネイサン様の被害者なのです!」


つい興奮してしまった。そんな私を見たアンネ様が、急に笑い出したのだ。


「恋敵だったカミラ様とそんな約束をするだなんて、ジェシカ様は少し変わっていらっしゃいますわね。それにカミラ様のせいで、辛い思いも沢山した事でしょうに。でも、私はジェシカ様のそういうところ、素敵だと思いますわ。さて、それでは本題に入りましょうか」


急に真剣な顔になった。


「ジェシカ様、私たちはネイサン殿下を廃嫡させ、第二王子でもあるネリソン様を王にしたいと考えております。ネイサン殿下は王妃様に甘やかされて育ったせいか、非常に我が儘で、民の事を全く考えておりません。正直ネイサン殿下が王になったら、この国はきっと悪い方向に進みますわ」


「それは私もそう思いますわ。あの人は民の事など、これっぽっちも考えていません。それに、公平さもありません。きっと暴君になるでしょうね」


「私たちもそう考えております。実は今、ネイサン殿下と王妃様の悪事を洗い出しているところです。王妃様の方は、裏取引に関わっているという証言を手に入れましたが、未だ決定的な証拠は手に入れておりません。残念ながらネイサン殿下の方もただ出来が悪いくらいで、これという断罪材料がないのです…ただ、王妃様の裏取引に関与している証拠を手に入れさえできれば、きっと王妃の座から引きずり下ろす事が出来るはずです。そうなれば、ネイサン様の普段の出来の悪さで、廃嫡できるのではと考えておりますわ」


なるほど!王妃様を王妃の座から引きずりおろすか…確かに王妃様がいなくなれば、ネイサン様は後ろ盾を無くす。


「あの、アンネ様、王妃様なら騎士と親しい仲の様ですよ。これが映像です。それから、ネイサン様と学期末休みに別荘に行ったのですが、そこで民に暴言を吐いたり、クマに襲われそうになった私を置いて逃げたりしている映像もありますわよ」


せっかくなので、その時の映像をアンネ様に見せてあげた。本当にあの時の事を思い出しただけでも、吐き気がする。あんなのがやっぱり王になる事は、この国の民の為にも、阻止した方がいいだろう。


「ジェシカ様、これは素晴らしいですわ!まさか王妃様が騎士とそういう関係だったなんて。これは完全に断罪材料になりますわね。それにしても、ネイサン殿下は酷いですわね…ジェシカ様が、お命を懸けてでも婚約破棄したい理由が分かります…」


心底哀れんだ目で私をみるアンネ様。自分でもわかっているが、やっぱり私、可哀そうな子よね…


「アンネ様、他にも父の不正を証明するデータを数多く持っております。どうか父の断罪に協力して頂けないでしょうか?もちろん、私が出来る事は何でもします。ですから、お願いします」


アンネ様に改めて頭を下げた。


「ジェシカ様、頭をお上げください。もちろん、協力させていただきますわ。そのデータを頂けましたら、私たちで編集いたします」


「本当ですか?これがデータの一部です。今日持ってきたものは、私の方で別でデータを保管しておりますので、どう使って頂いても大丈夫ですわ」


やったわ!協力してくれるみたい。


「これはまた凄いデータ量ですわね。これで一部だなんて…わかりました、一度家に持ち帰り、父に相談いたします。それから、あまり頻繁に私たちが会っていては、ネイサン殿下に怪しまれてしまいます。これからは、こちらの映像型通信機で、連絡を取り合いましょう」


アンネ様から手渡されたのは、直径20センチくらいの大きめの通信機だ。ボタンがいくつかついていて、画面もある。大きめの携帯電話みたいなものね。


早速アンネ様に使い方を教えてもらう。


「それではジェシカ様、今日の夜、必ず通信機に連絡をいたしますわ」


「ええ、お待ちしております。今日は来ていただき、本当にありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとうございます。まさかジェシカ様が、こんなにも素晴らしい令嬢だとは知りませんでしたわ。それではまた」


そう言うと、アンネ様は一礼し去って行った。


ヴァン、私にも協力者が出来たわ。後半年しかないけれど、必ず私、婚約破棄して見せるからね。

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