第35話 アンネ様たちと作戦を練ります
その日の夜、部屋でソワソワして待っていると、通信が入った。急いで通信機をオンにする。すると、アンネ様とアンネ様のお父様が映っていた。さらに下の方には、ネリソン殿下と何人かの貴族も映っている。
どうやら下に映っている人たちは、それぞれの屋敷から通信を繋いでいる様だ。なんだかWeb会議みたいね。私もフリーランスになってからは、よくこうやってWeb会議をしたものだわ。
“ジェシカ様、お待たせして申し訳ございません。せっかくなら、私たちの協力者も一緒に紹介したいと思いまして。ここに映っている貴族たちは、皆ネリソン様を国王にするために、協力してくださっている方たちです”
「アンネ様、皆様、急に集まって頂き、ありがとうございます。まあ、こんなにも沢山の協力者がいらっしゃるのですね。心強いですわ」
“ジェシカ嬢、娘から話は聞いたよ。それにしても、随分と貴重な映像を集めたんだね。それも1人で。これだけ証拠があれば、きっとファレソン侯爵を断罪できる。でも、ファレソン侯爵を断罪したら、君の家は取り潰しになってしまう。そうなったら君も路頭に迷うだろう。それでだな、もしよければ、家の養子にならないかい?”
きっと私の行く末を心配してくれているのだろう。優しいダスディー侯爵。でも…
「お心使い、ありがとうございます。でも、私は父の断罪後は、この国を出て、世界をみてまわろうと思っているのです。その準備も、今進めております」
ヴァンと約束した夢。世界中を旅するという事。これだけは、絶対に成し遂げたいのだ。
“旅にかい?ジェシカ嬢は、随分と壮大な未来を見据えているんだね。本来なら令嬢が1人で旅だなんて危険すぎると反対するのだが…でも、君の覚悟は相当なものなのだろう。わかったよ、せめて金銭的な援助はさせてくれるかい?”
「まあ、金銭的な援助をして頂けるのですか?それは助かります。ありがとうございます」
宝石を売って資金を作ろうと思っていたが、ダスディー侯爵が援助をして下さるなら、有難い。ここは遠慮なくお願いしよう。
“それじゃあ、ここからが本題だ。陛下やネイサン殿下は、君の17歳の誕生日のタイミングで、君たちを結婚させ、ネイサン殿下を国王にすると発表している。その為、それまでに彼らを断罪する必要がある。今急ピッチで君が送ってくれデータを分析しているところだよ。かなり時間が掛かりそうだが、君の誕生日には間に合いそうだ。それから、侯爵の部屋にカメラを仕掛けてあると言っていたね。そのデータも、定期的に送って欲しい”
「分かりましたわ。カメラは全部で5台設置してありますので。後は私は何をすればよろしいでしょうか?」
“これだけ の情報を提供してくれたら十分だ。どうやらファレソン侯爵と王妃も繋がっていそうだし。後々そのデータも纏められるだろう”
「その様ですね。王妃様はお父様と同じく、裏取引にも関与していた様です。そのデータは既にまとめてありますので、お渡しいたしますわ。他にもお渡し出来ていないデータもたくさんありますから」
私もこの数ヶ月で、それなりにデータをまとめた。ヴァンを殺すために雇った裏の人間の情報もだ。どうやらヴァンは、山に連れていかれて殺されたらしい。
ダメだ…思い出したら涙が…
“ジェシカ様、辛い事を思い出させてしまったのですね。ごめんなさい。あなたの命がけの思い、絶対に無駄には致しませんわ”
「ありがとうございます。アンネ様。やはり私は、今後も何か協力をしたいのですが」
これだけたくさんの協力者がいるのだ。皆で協力しながら行った方がいいだろう。
“ジェシカ嬢は、婚約破棄した後の準備に専念してほしい。それから、映像を分析し次第、君に報告するつもりだが、もしかしたら辛い事実も出てくるかもしれない。その時は、君はどうしたいかな?”
ダスディー侯爵が私に語り掛けて来た。きっと私に気を使ってくれているのだろう。辛い事実か…
「私は既に、最愛の人を殺されています。それ以上辛い事実がもしあったとしても…私は全てを受け入れようと思っております。それがどれほど残酷で、辛い事実だったとしても…」
お父様が行った悪事のすべてを知りたい。そもそも、断罪を行うと決めた時点で、どんなに辛い事実が隠されていたとしても、私は受け入れるつもりだったのだ。
“分かったよ…それにしても君は、本当に16歳なのかい?あまりにも肝が据わっているというか、なんと言うか…でもきっと、それだけ辛い思いをして来たのだろう…実の娘にこれだけ恨まれるなんて、ファレソン侯爵は相当な人物なんだろう。私たちの手で、必ず断罪しよう!”
ダスディー侯爵の言葉が、心に響く。それに、とても優しい瞳をしていた。まるで、ギュリネイ男爵の様に…
“とにかく、まずはデータの分析を進めよう。それから、この通信機を通して、こまめに連絡も取り合おう。ジェシカ嬢、明日の朝、残りのデータを校舎裏においてもらえるだろうか。アンネに取りに行かせるから。きっとアンネと君が交流する事を、ネイサン殿下は快く思わないだろうし、下手をすると君まで疑われてしまうかもしれないからね”
「お心使いありがとうございます。では、早速明日の朝、校舎裏に置いておきますわ」
とりあえず、話はまとまった。そう思った時だった。
“ジェシカ嬢、僕たちに協力してくれて、ありがとう。僕にお礼を言われても嬉しくはないかもしれないが、それでも君が僕たちに協力してくれることが、僕は嬉しいんだ”
ずっと黙っていた第二王子のネリソン殿下が、急に話しかけてきたのだ。
「お礼を言うのは私の方ですわ。ヴァンを殺されてから、私はずっと1人で戦って参りました。でも、今はこんなにも心強い味方が出来たのです。本当にありがとうございます。それに、ネイサン様がこのまま国王になったらきっと、この国はおしまいですわ。本当に酷いのですよ、あの人…」
王以前に、1人と男性として最低な人なのだ。思い出しただけで、ため息が出る。他の人たちも苦笑いしていた。
“ジェシカ嬢の気持ちは分かったよ…でも、君が僕たちの為に危険を冒してまで手に入れたデータを譲ってくれるのは確かなんだ。僕が約束しよう。君の父親を断罪した後も、必ず君の身を守ると”
画面越しに真っすぐ私を見つめ、そう伝えてくれたネリソン殿下。その瞳は真剣そのもの。その瞳を見た時、この人は国王になるべくして生まれて来た人物なのだろう、そう感じた。やっぱりこの人が、国王になるべきね。改めてそう思ったのだった。
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