第12話 カミラ様に会いに行きました

事件が起きてから、数日が過ぎた。あの事件以降、なぜか私にやたら絡んでくるようになったネイサン様。はっきり言って、迷惑以外何物でもない。


あろう事か


「ごめんね、ジェシカ。君を苦しめたあの女を極刑にする事が出来なかった」


なんて言って来たのだ。だから私は


「カミラ様の行った事は、確かによくなかったです。でも、あの程度の事で極刑にするというのは、横暴ではございませんか?そもそも、ネイサン様が大事にしたのでしょう?少なくとも事件の時までは、あれほどまでカミラ様にベッタリだったのに。コロッと態度を変え、カミラ様の事を悪く言うのはいかがなものかと!」


そう伝えたのだが…


「ジェシカは優しいね。あんな女の肩を持つなんて。僕はあの女に騙されていたんだよ。ちょっと可愛い顔をしていたからって、まさか僕の婚約者の君を陥れようとするなんて。恐ろしい女だ。そういえば、侯爵が言っていたよ。ジェシカがカミラの罪を軽くしてやって欲しいと言ったってね。本当に君は女神の様な女性だ」


そう言っていた。

この男、自分の行いは棚に上げることが大得意な様だ。こんな男が将来国王になるなんて、この国の未来も真っ暗だろう。


今日もなぜかネイサン様にお茶に誘われたが、やんわりと断りを入れ、屋敷に戻ってきた。


「お嬢様、おかえりなさい。今日も随分とぐったりしておられますね」


「ただいま、ヴァン。ええ、相変わらずネイサン様に付きまとわれていて、困っているのよ…早く何とか手を打たないと…」


「あの…お嬢様。実はギュリネイ男爵令嬢から手紙が来ているのですか…」


気まずそうな顔で私にそう言ったヴァン。


「そう、ありがとう。手紙、見せてくれる?」


「読まれるのですか?」


目を大きく見開き、ヴァンが固まっている。そりゃ手紙が来たら読むのが普通だろう。たとえ恨み節たっぷりの手紙だったとしてもだ。


ヴァンから手紙を受け取ると、早速読んでいく。そこには、私に酷い事をしてしまった事への謝罪と、カミラ様を庇った事に関するお礼の言葉が述べられていた。


さらに、明日の朝、修道院に旅立つ事も書かれていた。最後にどうしても私にお礼と謝罪がしたかったらしい。


カミラ様…


「ねえ、ヴァン。私、明日の朝カミラ様に会ってくるわ」


「お嬢様、あなたは何を言っているのですか?わざわざ会いに行かなくても…」


「いいえ、やっぱり最後にしっかりと話がしたいのよ」


「は~、あなたって人は。わかりました。それでしたら、念のため私も付いていきます」


どうやらまだヴァンはカミラ様の事を警戒している様だが、きっと今のカミラ様なら大丈夫だろう。手紙を読んだ感じ、毒が完全に抜けている、私はそう感じたのだ。



翌日、朝早く目覚めると、準備を整え馬車に乗り込んだ。向う先はギュリネイ男爵家だ。私が男爵家の屋敷に着くと、ちょうどカミラ様が両親と挨拶をしているところだった。


突然の私の訪問だったにも関わらず、ご両親は温かく迎えてくれた。それどころか、今回の寛大な処罰への感謝と、改めて謝罪をされた。


やはりギュリネイ男爵はとても優しい目をしていた。そして夫人も…きっとカミラ様は、愛情たっぷりの中で育てられたのだろう。男爵と夫人の様子を見ていたら、そんな気がした。


「カミラ様、突然押しかけて申し訳ございません。どうしても、あなた様と最後にお話がしたくて」


私の言葉に、目を大きく見開き、驚いた表情をしたカミラ様。それでも


「はい、分かりました。ここではなんです、どうぞこちらへ」


わざわざ屋敷の中に案内してくれたのだ。そして


「ジェシカ様、改めて今回の件、申し訳ございませんでした」


そう言ってカミラ様が頭を下げた。


「もうその事は気にして頂かなくても大丈夫ですわ。ねえ、カミラ様、あなたは本当にネイサン様の事を愛していたのですよね?」


「はい…心よりお慕い申し上げておりました。周りはきっと、私が王妃様になりたいが為にネイサン様…いいえ、殿下に近づいたと思っているでしょう。でも、私は本当に純粋に殿下を愛していたのです…正直、殿下が王太子でなければよかったのに…そう何度思った事か…」


悲しそうにつぶやくカミラ様。


「でも、私自身、つけあがっていたのも事実です。ジェシカ様は殿下に愛されていないのに、どうして婚約者でいられるの?私の方が、殿下に愛されているのに…私の方が、殿下を幸せに出来るのに!と。そんな気持ちがいつしか溢れ出し、お恥ずかしいながら、あの様な醜い事件を起こしてしまったのです。本当に申し訳ございませんでした」


再びカミラ様に頭を下げられた。今のカミラ様からは、もう、以前までの性悪の雰囲気はみじんも感じない。きっと彼女は、本当にネイサン様を愛していたのだろう…恋は盲目と言うが、きっと彼女もネイサン様を愛するがあまり、善悪の判断が出来ずに、暴走してしまったのだろう。


「カミラ様は、ネイサン様を誰よりも愛していたのですね…ネイサン様もカミラ様を愛していたのでしょう。少なくとも、あの事件が大事になるまでは。でも、自分の立場や地位を守る為、彼はあなた様を裏切った…本当に最低な男ですわね…」


「ジェシカ様?」


困惑顔のカミラ様の方を真っすぐ見つめ、私はさらに話を続けた。

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