第13話 カミラ様とある約束をしました

「ねえ、カミラ様。愛するネイサン様を失う原因を作った私を、恨んでいるかしら?でも、私は謝るつもりはありませんわ」


ちょっと意地悪だったかしら?でも、あれほどまでに私を苦しめて来たのだ。最後くらい、少し意地悪を言わせてほしい。


「そんな、滅相もございません。恨むだなんて。自業自得なので…。あの…ジェシカ様は殿下の事を…その…」


私の顔色を伺いながら、何かを迷っている様子のカミラ様。


「ええ、大っ嫌いですわ。今回の事件で、ますます嫌いになりました。私、婚約者がいるくせに、他の令嬢に手を出すようなふしだらな男性は大嫌いです。それに、あれほどまでカミラ様を愛していたのに、自分の都合が悪くなったら、手の平を返すだなんて、本当に最低だと思いませんか?あなた様も、もっと怒っていいのですよ」


「怒ってもいい?」


「ええ、そうです。だってカミラ様は、ずっとネイサン様から“君だけを愛している”と言われていたのではなくって?」


「はい…こんな事を申し上げてもいいのか分かりませんが、“僕が愛しているのはカミラただ1人だ”“どんなことがあっても、僕が君を守るからね”って。私、その言葉が嬉しくて、それで…つい…」


ポロポロと涙を流すカミラ様の背中を、優しくさする。


「それなのにあの男は、簡単に裏切った。たとえあなたがやった事が間違っていたとしても、最後までカミラ様を庇うくらいの男気を見せるべきではなくって?だって、一度は本気で愛した女性なのですよ。それなのに、あの変わりよう。はっきり言って、思い出しただけで吐き気がしますわ」


「ジェシカ様もそう思いますか?私も実はそう思っていたのです。何があっても守ると言ったくせに。それも私を極刑にしようとしたのですよ。本当に、酷い男ですよね」


涙を流しつつも、そう言ってカミラ様が怒っている。


「ねえ、カミラ様。私たち、よく似ていると思いませんか?お互いネイサン様に傷つけられたところとか」


「確かにそうですわね。ジェシカ様…本当に申し訳ございませんでした。もしもジェシカ様と別の形で出会っていたら…あの…その…」


「私たち、お友達になっていたかもしれませんね」


「はい!」


嬉しそうに返事をしたカミラ様。


「ジェシカ様…あの、こんな事を申し上げるのは図々しいかもしれませんが…修道院でしっかり反省して、そしてまた王都に戻ってこられた暁には、今度こそお友達になってくださいますか?」


少し恥ずかしそうにそう言ったカミラ様。ええ、もちろんよ!そう言いたいところだが…


「ごめんなさい。カミラ様が王都に戻ってくる頃には、きっと私はもう、この国にはいないはずですから…」


「どういう事ですか?」


「実は私は、ネイサン様と婚約破棄出来た暁には、世界中を旅しようと思っていますの。カミラ様には想像も出来ないでしょうが、家の父親は私の事を政治の道具としか考えていません。だから、もしネイサン様と婚約破棄したら、きっと勘当されるでしょう。でも、私はそれでもいいと思っています。もちろん、どうしたら婚約破棄が出来るのかとか、課題も多いです。それでも私は必ず婚約破棄して、ネイサン様からも父親からも解放されるように頑張るつもりですわ」


「あの…以前お父様に顔を殴られたというのは、本当だったのですね…」


「ええ、体もよく殴られますから、このようにアザが」


腕にあるアザを見せると、口を押え固まってしまったカミラ様。ちょっと驚かせてしまった様ね。


「暗い話をしてごめんなさい。でも、必ずネイサン様と婚約破棄をして、自由を手に入れてみせますわ。そうだわ、もし無事ネイサン様と婚約破棄出来て、国を出る事が決まった時には、カミラ様の修道院に顔を出しますわね」


「それは本当ですか?ジェシカ様、それでしたら、殿下をこれでもかというくらいジェシカ様に惚れさせて、その上で思いっきり捨ててやってください!その方がすっきりしますわ。ああ、考えただけでワクワクしてきました。ジェシカ様、無事婚約破棄出来たら、必ず修道院に寄って、色々と話を聞かせて下さいね」


そう言うと、それはそれは嬉しそうに笑ったカミラ様。やっぱりカミラ様も、性悪ね。でも、あれだけ手のひらを返されたら、少しはギャフンと言わせたいわよね。


「分かりましたわ。ただ、私にはあまり魅力がございませんので、ネイサン様が私に惚れるかはわかりませんが、出来る限り頑張りますわ。だからカミラ様も、修道院で頑張ってくださいね」


「ありがとうございます、ジェシカ様。あなた様が来てくれたお陰で、なんだか頑張れそうな気がします。実は私、もう何もかもが嫌で、どうにでもなれって思っておりましたの。でも、ジェシカ様の気持ちを知れて、私も生きる希望が湧きました。ジェシカ様が修道院を訪ねて来てくださる日を心待ちにして頑張りますわ」


今までに見た事のないほど、可愛らしい笑顔を見せてくれた。やっぱりこの子、可愛いわね。


「お嬢様、お話し中申し訳ございません。そろそろ出発しないと…」


申し訳なさそうに話しに入って来たのは、男爵家のメイドだ。


「ええ、わかったわ。ジェシカ様、ごめんなさい。そろそろ行かないと」


「こちらこそ、引き留めてごめんなさい。カミラ様、これからお互い大変でしょうが、頑張りましょうね」


「はい」


その後、胸を張って馬車に乗り込むカミラ様を見送る。きっと彼女なら、修道院でもうまくやっていくだろう。


ゆっくり走り出した馬車から、カミラ様が顔を出した。すると


「ジェシカ様、それでは行ってきます。必ず修道院に会いに来てくださいね」


そう叫んだのだ。すかさず私も叫び返す。


「ええ、もちろんですわ。いい報告が出来る様、頑張ります」


姿が見えなくなるまで身を乗り出し、手を振り続けてくれるカミラ様。私も手を振り返す。カミラ様、あなた様の無念、私が晴らして見せますわ。ですから、楽しみにしていてくださいね。


うまく行くかもわからないし、一生叶わないかもしれない。それでも、恋敵?でもあったカミラ様との約束を守りたい、そう強く思ったのだった。

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