第6話 悔しいです
放課後、職員室に向かった。先生には、私ではない事、そもそも筆跡が違う事を必死に説明し、なんとか分かってもらえた。とにかく、このまま犯人にされてはたまらない。何とか策を練らないと。
屋敷に戻ると、すぐにお父様に呼び出された。
「お前、今日ギュリネイ男爵令嬢の教科書を破いたり、落書きをしたりしたそうじゃないか。殿下から猛抗議を受けたぞ!そういうのはもっとうまくやれ。本当に、どんくさい女だ」
そう言うと、私をボコボコと殴り始めた。やっぱり痛い…
「お父様、殿下もカミラ様も、証拠もないのに私が犯人と決めつけたのです。ですから…」
「いい訳なんて聞きたくはない。とにかく、これ以上殿下に嫌われるようなことは慎め。本当にお前は、母親に似て役に立たない女だ。いいか、これ以上私の顔を潰すようなことはするな!今日は外で反省していろ」
そう言うと、そのまま外に出されてしまった。仕方ない、あそこに行くか。
殴られたところが痛い。それに何より、お母様の事を悪く言うなんて…
悔しくて涙が出る。こんな理不尽な事で、泣いてたまるか。そう思っても、次から次へと涙が溢れて来た。それでも必死に涙をぬぐい、中庭にある小さな建屋にやって来た。ここは庭師たちが道具置き場として使っている小さな建屋だ。
最近ではあまり使われていない。中は真っ暗で何も見えなが、それでも私はここにいるしかない。
カミラ様、わざと私を犯人に仕立て上げたのね。本当に性格が悪い事この上ない。とにかく、このまま泣き寝入りなんて嫌よ。何とかして、汚名を返上しないと。でも、どうやって…
真っ暗な小屋の中で1人必死に考える。
「お嬢様、やはりここにいらしたのですね」
灯りを持ってやって来たのはヴァンだ。どうやら私がお父様から追い出されたと知って、心配して様子を見に来てくれた様だ。
「ヴァン、来てくれたのね」
嬉しくて、つい頬が緩む。ヴァンはどんな時でも、私を心配してこうして駆けつけてくれる。それが嬉しくてたまらない。
「お嬢様、ここは冷えます。毛布を持ってきましたよ。それから、サンドウィッチです、食べて下さい。お可哀そうに、また旦那様の暴力を振るわれたのですね…」
「これくらい大丈夫よ。いつもありがとう、ヴァン。あなたがこうやって心配してくれるから、私も生きていられるの」
「何を大げさな事を。それで、今日はどうされたのですか?」
私の隣に腰を下ろしたヴァンが訪ねてきた。私は今日あった事を、ヴァンに話す。
「なるほど、性格の悪い女だとは思っておりましたが、ついに動き出しましたか。それで、お嬢様はどうなさるおつもりですか?」
どうやらヴァンもカミラ様の事を、性格の悪い女と認識していた様だ。
「どうもこうもないわ。もちろん、このまま汚名を着せられているなんて嫌よ。何とかして反撃したいのだけれど…」
私がいくら訴えたところで、きっと聞き入れてもらえないだろう。正直、どうすればいいのか分からないのだ。
「お嬢様、論より証拠です。ギュリネイ男爵令嬢が自分で自分の教科書を破いたり落書きをしている映像を残せばいいのでは?そうですね、教室に小型の映像型録音機を設置するのはいかがでしょう」
「でも、そんな機械を設置して、バレないかしら?」
確かにヴァンが言う通り、映像を残すことが出来れば、完璧だ。でも、そんなにうまく行くものかしら?
「小型の映像型録音機は私が準備いたしましょう。早速今から準備をしてきますので。それではお嬢様、毛布にくるまって眠ってくださいね。今日は冷えますから。それから食事はしっかり食べて下さい」
「もう、分かっているわよ。私の事、子ども扱いして!でも…ヴァン、いつもありがとう」
「どういたしまして。それでは、行って参ります」
私に微笑みかけると、そのまま建屋から出て行った。ヴァンが持ってきてくれたサンドウィッチを食べ、毛布にくるまる。
「温かい…」
毛布の中はとても温かくて、落ち着く。ヴァン、いつもありがとう。そう心の中で呟きながら、眠りについたのだった。
翌日、朝一番に戻ってきたヴァンに、小さな機械を渡された。
「いいですね、この機械を、出来るだけ教室全体が見渡せる場所に設置してください」
そう言って、指の先位の小さなカメラの様な機械を渡してくれた。こんな小さな機械で、ちゃんと録画できるのかしら?そう思いつつも、教室に着くと、それとなく機械を設置した。
これで大丈夫なのかしら?でも、今はヴァンを信じるしかない。自分の席に付くと、すぐにネイサン様がやって来た。
「ジェシカ、君が昨日カミラに行った仕打ちを、僕は許さないから。君の様な嫉妬に狂った恐ろしい女と、何が何でも婚約破棄をするからそのつもりで」
そう言って私の元を去って行った。
こっちだって、あなたの様な一方的な意見しか聞けない様な器が小さい浮気男、大っ嫌いよ!それにしても、以前の私はあんなにも器の小さな男に、好意を抱いていたのよね。本当に私ったら、男の見る目がないところ、進歩していないわね…
ついため息がでる。
そして周りからは、私の悪口が聞こえる。きっと皆も、私が犯人だと思っているのだろう。それが悔しくてたまらない。目頭が熱くなり、今にも涙が溢れそうになる。
ダメよ、今は泣く場面じゃないわ。
そう自分に言い聞かせ、必死に涙をこらえたのであった。
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