第16話 私の16歳の誕生日を迎えます
「ジェシカ、来週は君の誕生日だね。君は僕の大切な婚約者だ。侯爵には盛大に誕生日パーティーを開くように頼んでおいたよ。僕からも君にドレスや宝石のプレゼントがあるんだ」
貴族学院が終わると同時に、王宮に連れてこられた私。ネイサン様が何やらプレゼントを準備してくださったようだ。
すかさずメイドが、大きな箱を持ってきた。その中には、水色のドレスが入っていた。さらにアクアマリンをあしらったネックレスにイヤリングもある。
「どうだい?素敵だろう?僕の瞳をイメージして作らせたんだ。ドレスも宝石も、人気のデザイナーにデザインさせて作らせた、とても貴重な品なんだよ」
どうだ、すごいだろう?と言わんばかりにそう言ったネイサン様。確かにこれはすごい。今までの私の誕生日は、適当な宝石を1つ与えられていただけなのに…
とにかく、お礼を言わないと。
「ネイサン様、こんなにも素晴らしい贈り物を、ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいな。でも僕は王太子なんだ、この程度、大したことはないよ。君が望めば、もっとすごい物だって、贈ってあげられるんだよ。なんたって僕は、王太子なのだから」
くっ、やっぱり私、この人無理だわ…
なんだかどっと疲れが出てきたわ。頭がクラクラして来た…
そのまま椅子に座り込む。
「ジェシカ、どうしたんだい?あまりにもドレスや宝石が立派すぎて、めまいがしたのかい?でもわかるよ、いくら侯爵家の令嬢でも、こんな立派な物はそうそうありつけないものね」
なぜか見当違いな勘違いをしている。どこをどうすれば、そんな勘違いを引き起こすのかしら?
「殿下、申し訳ないのですが、今日は少し体調が思わしくない様です。これで失礼いたしますわ」
「そうかい?それは残念だ。それじゃあ、馬車で送っていくよ」
そう言うと、なぜか私を抱きかかえたネイサン様。ちょっと、何をするのよ!
「自分で歩けますので、大丈夫ですわ」
そう伝えたのだが…
「僕はこれでも体を鍛えているからね。君を抱っこするくらい大丈夫だよ」
そういう問題じゃない。そもそも私は、あなたに触れられたくないのよ!そう言いたいが、きっとこの人に何を言っても無駄だろう。
結局侯爵家に送り届けてくれたネイサン様にお礼を伝え、自室でゆっくり休むことにしたのだった。
「お嬢様、大丈夫ですか?本当に顔色があまり宜しくはなさそうですよ」
ヴァンが心配そうな顔で私の傍に飛んできてくれた。そんなヴァンの手をそっと握る。やっぱり私は、この手が一番落ち着く…
「心配をかけてごめんなさい。でも、大丈夫よ。最近色々とあったでしょう?だからきっと、少し疲れているのよ。寝ればきっとよくなるわ」
「そうですか…それならいいのですが…」
とにかく寝よう、そう思っていたのだが…
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
このタイミングでお父様に呼び出されたのだ。仕方なくお父様のところに向かう。すると最近機嫌がよかったお父様が、珍しく不機嫌な顔をしている。
「ジェシカ、今日体調が悪くなって、殿下に送ってもらったそうじゃないか!王妃様から文句を言われたぞ。“たかが少し体調が悪いくらいで、ネイサンをこき使うなんて何事か”と。いいか、あの女は口うるさいんだ!俺に迷惑を掛けるな!どんなに体調が悪くても、笑顔で過ごせ。わかったな!」
そう怒鳴られてしまった。きっと王妃様に文句を言われたことが、気に入らなかったのだろう。
「そうでしたか。それは申し訳ございませんでした」
深々とお父様に頭を下げた。
「いいか、ジェシカ。殿下は今、お前に惚れている様だ。このまま殿下のご機嫌をとり、寵愛を勝ち取れ。そうすれば、殿下はお前の言いなりだ。いいな、これはお前の為に言っているのだからな」
何がお前の為よ。私がネイサン様に愛されれば、私を通じで王政にも口を挟めると思っているのでしょう。それでもこういう場合は
「はい、わかりました」
こう答えておいた方がいいだろう。
「分かればいい。それにしても殿下がお前に贈って下さったドレスと宝石、超高級品じゃないか。グレサが欲しがっていたから、お前の誕生日パーティーが終わったらお継母様にあげなさい。お前はまた殿下に買ってもらえばいいから、問題ないだろう」
「はい、承知しました…」
そう伝え、部屋から出た。
継母は人のものを何でも欲しがる。お母様のドレスも宝石も何でも自分のものにしたのだ。私の為にお母様が準備してくれたドレスや宝石も、全てあの女に持って行かれた。それでも唯一とられなかったもの。それは…
首にかかっているネックレスを取り出す。
このネックレス、私が5歳の時、お母様が亡くなる少し前に一緒に大好きな海に行った時に拾った貝殻で作ったネックレスだ。あの時とても綺麗な貝殻が見つかったので、嬉しくてお母様にあげたのだ。
どうやらその貝殻を加工し、ネックレスとして持っていてくれたらしい。その事実を知ったのは、お母様が亡くなってからだ。
継母は宝石以外興味がない。その為、ネックレスを捨てたのだが、こっそり私が回収した。これは私の大切な物、お母様の形見なのだ。
思い返してみれば、前世でも私は両親との仲は良好とは言えなかった。両親はともに仕事人間で、子供よりも仕事を優先するタイプだった。その為、ずっと寂しい子供時代を過ごした。
大人になってからは“フリーランスだなんて。せっかく大手の会社に就職できたのに。辞めるなんて許さない”と、なぜか私に干渉してくるようになった。きっと私が自分たちが思い描いていた人生と違う人生を選んだことが、気に入らなかったのだろう。
「私って、あまり親には恵まれていないのね…」
なんだか無性に悲しくなって、部屋に入ると同時に静かに泣いた。そんな私に気が付いたヴァンが、黙って私の頭を撫でてくれる。
その温もりが、やっぱり嬉しくて落ち着く。
その後もヴァンは私が泣き止むまで、ずっと頭を撫で続けてくれたのだった。
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