第15話 ネイサン様が絡んできます
ヴァンへの気持ちに完全に気が付いた私。その日はなんだか変に緊張して、眠れなかった。前世では、3年付き合った男性に浮気されて以降、男の人とは一線を置いて生きて来たのだ。
正直人を好きになるのは怖い。また裏切られたら…そんな思いが襲う。でも、ヴァンはあの男とは違う。ヴァンは誰よりも優しいし、ずっと私に寄り添ってくれている。
ただ…
私はヴァンの事を何も知らない。どこの国から来たのか、かつてはどんな生活をしていたのか。今いくつなのか。そう、ヴァンは自分の事を一切話さないのだ。昔ヴァンにそれとなく聞いたことがあるが、上手くかわされてしまった。
きっと私には、過去の事を話したくはないのだろう。
もしかしたらヴァンは、いつか私の元を離れて行ってしまうのかもしれない。そう思ったらまた、胸が締め付けられるような苦しさが襲った。結局そんな事ばかり考えていたから、あまり眠れなかったのだ。
眠い目をこすりながら、学院に行く準備をする。
「お嬢様、どうされたのですか?顔色があまり良くない様ですが」
寝不足の私に気が付いたヴァンが、私の顔を覗き込んできた。ちょっと!近い、近すぎるわ。
「大丈夫よ、ちょっと寝不足なだけだから…」
スッとヴァンに背を向けた。ちょっと感じが悪かったかしら?でも、急に私の顔を覗き込んできたヴァンが悪いのよ。
一度気になりだすと、やっぱり駄目ね。変に意識してしまうわ。
急いで支度を整え部屋から出ようとした時だった。
「お嬢様、殿下がお迎えに来てくださっています」
普段あまり私に興味がないメイドが、息を切らしてやって来たのだ。
「なんですって?ネイサン様が?」
急いで玄関に行くと、確かにネイサン様が待っていた。
「おはよう、ジェシカ。今日から君との時間を少しでも増やそうと思って、迎えに来ることにしたんだよ」
そう言うと、ネイサン様がこっちに近づいて来た。
「殿下、わざわざ娘を迎えに来てくださるなんて、ありがとうございます。さあ、ジェシカ、お前からもお礼を言いなさい」
「…ネイサン様、わざわざありがとうございます」
相変わらずなお父様に促され、私もお礼を言った。正直言って、迎えに何て来て欲しくない。1人で馬車に乗っていた方が、ずっと気楽でいいのだ。
「お礼なんて必要ないよ。僕は君の婚約者なんだから。さあ、行こう」
嬉しそうな顔をして、私をエスコートするネイサン様。ふと後ろを見ると、ヴァンも見送ってくれていた。
「ヴァン、行ってくるわね」
「はい、いってらっしゃいませ。お嬢様」
ヴァンにもいつも通り挨拶をする。そして、王宮の馬車に乗り込んだ。
「ねえ、ジェシカ。いつも君の傍にいるあの男は、確か従者だったよね?随分と仲が良いみたいだね」
「ええ…ヴァンは私の良き理解者ですので」
「良き理解者か…それにしても、随分と親しげだよね…」
この男は何を言っているのだろう。もしかして、ヴァンと私の事を疑っているのかしら?自分がカミラ様と浮気をしていたからって、私まで同じだと思わないで欲しいわ。
「ヴァンはただの従者です。それから私は、あなた様の様に婚約者がいる身で、他の異性にうつつを抜かしたりは致しませんわ」
そうはっきりと言ってやった。
「その事は悪いと思っているよ。でも、もうカミラもいないし。男爵には色々と難癖をつけて、カミラを修道院から出さないようにしようと思っているんだ。少なくとも10年は修道院にいてもらおうと思っているよ。あの女のせいで、僕の評価は落ちてしまったのだからね」
相変わらず自己中な男。本当にクズね。
カミラ様や男爵の事を考えたら、体中から怒りがこみ上げてきた。
「殿下、どうかその様な事はお止めください。カミラ様もきっと今回の件、後悔していると思いますわ。それにカミラ様は、わざわざ私に謝罪の手紙を送って下さったのです。どうかご慈悲を」
ネイサン様の手を握り、少し上目使いでそう訴えた。昔カミラ様がネイサン様にやっていたことを思い出しながら。すると、なぜか急に頬を赤らめたネイサン様。
「君がそう言うなら、そうしよう。それにしても、ジェシカは優しいね。こんなに優しくて美しい君の魅力に気が付かないなんて、本当に僕はどうかしていたよ」
そう言ってうっとりと私を見つめてくる。いいえ、私は優しくなんてないですわ。ある意味カミラ様以上に腹黒で、性格の悪い女ですわよ!なんてことは言えない。
それにしても、男って意外と単純なのね。いいや…そんな事を言ったら全世界の男性に申し訳ないわね。この人が単純なだけなのだろう。
ネイサン様に呆れている間に、学院に着いた。
「さあ、僕がエスコートしてあげるからね」
私の手を取り、なぜか腰に手を回すネイサン様。ちょっと、近いわよ!
ヴァンのときと違い、嫌悪感しか感じない。
その後もなぜかずっと私の傍にいるネイサン様。もちろん帰りもネイサン様に送ってもらう事になり、いつも以上に疲れてしまったのであった。
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