第25話 中々うまく行きません
ヴァンを失ってから、3ヶ月が過ぎた。お父様の悪事を調べるためには、どうすればいいのか、自分なりに色々と考えたが、未だにいいアイデアが浮かんでいないのだ。
こっそりとお父様の部屋に侵入しようとしたのだが、この家は使用人が沢山いるうえ、普段お父様の部屋には鍵がかかっている。その為、部屋に入る事すら出来ないのだ。
万が一部屋の鍵を開けられたとしても、きっとまた鍵のかかった部屋に、悪事の証拠の書類などは隠されているだろう。
運よく持ち出せれたとしても、きっとすぐに持ち出されたことがバレてしまう。
「う~ん、コピー機がこの世界にもあればいいのだけれど」
生憎そんな機械はこの世界には存在しない。それに、コピーではきっと意味がないだろう。
各国に関する情報を仕入れた後、こっそりと犯罪に関する書類を読み漁っていたのだが、やはり原本が重要な証拠になるとの事。さらに、音声や映像なども有効らしい。
「録音機能が出来る機械か…」
そんなもの、私は持っていない。もちろん、買いに行く事も出来ない。
「あぁ、スマホがあればボタン一つで購入できるのに…」
ポツリと呟いてしまった。
ダメよ、弱音を吐いたら。ヴァンの為にも、カミラ様の為にも頑張らないと!
ん?カミラ様?そういえば、カミラ様の悪事を暴くため、ヴァンが映像型録音機を準備してくれた。
“もしかしたら今後も必要になるかもしれませんので、クローゼットの奥に入れておきますね”そう言って、クローゼットの奥にヴァンがしまってくれたのだったわ。
急いでクローゼットの中を開けた。確かこのあたりに…あった!
箱の中に、映像型録音機が入っていた。確かこれがカメラなのよね。あら?これもカメラかしら?
カミラ様の時に使った物よりも、さらに小さなカメラを発見した。他にもいくつかカメラがある。そうか、このカメラをお父様の部屋にいくつかセットできれば、もしかしたらお父様の悪事を暴けるかもしれない。
万が一録画に失敗しても、いくつかカメラをセットしておけば、1つくらいはうまく撮れるだろう。でも、どうやってお父様の部屋に忍び込もう。う~ん…
お父様の部屋には鍵がかかっている。鍵はきっと、お父様が持っているはずだ。そういえば、昔アパートの鍵を無くした時、業者の人が器用に開けていた。確かその時、特殊な道具を使って開けていた。
でも、特殊な道具なんて、まず私が手に入れられる訳がない。それに、たとえ手に入れたとしても、使いこなせないわ…
でも、このまま諦めるなんて出来ない。何かないかしら?何か…
部屋にあるものを物色する。すると、髪を止めるためのシンプルなピンを発見した。
「ピンか…」
そういえば、ピンを伸ばして鍵穴にさして開けるシーンを、テレビドラマで見た事がある。もしかしたら、ピンで開けられるかもしれない。
考えていても仕方がない。早速ピンを伸ばし、私の部屋にある鍵付きの箱を取り出した。この鍵がピンで開けられたら…
ガチャガチャやってみたものの、うまく行かない。
「やっぱりヘアピンでは鍵は開かないわよね…でも、私のやり方が悪いのかもしれない。そういえば!」
急いで部屋から出て、侯爵家の図書室へと向かう。確かこの辺に…あった!これだわ。
早速お目当ての本を手に取り、急いで部屋に戻ってきた。この本は、万が一誘拐されたときなどの対処法が書いてあるのだ。
例えば縄で縛られたときの解き方や、窓から逃げる方法などだ。子供の頃、たまたまこの本を見つけたが、こんな本、私には関係ないと思い読むことはなかったのだ。
早速本を広げる。鍵の開け方も記載されているといいのだけれど…
1ページずつ丁寧に探していくが、中々お目当てのページが見つからない。結局この日は諦め、翌日に改めて探すことにした。
そして翌日、今日もネイサン様にお茶に誘われてしまったため、帰って来たのは夕方になってしまった。急いで本を開き、再び丁寧に探していく。
「あった…これだわ」
2時間くらい読み進めたところで、やっと見つけられた。そこには針金を使った鍵開け術。さらに、ヘアピンを使った鍵開け術も乗っていた。
「なるほど、ヘアピンの場合は、2本使って鍵を開けるのね。それから…」
本に書いてある通りに、丁寧に進めていく。ただ…思う様に鍵を開ける事が出来ない。
「これは大変だわ…」
2時間くらい格闘したが、やっぱり鍵を開ける事が出来なかった。
翌日も、その翌日も鍵開けの練習に励む。既に何本ピンを無駄にした事やら。
「もう…私にはこんな作業無理よ!」
鍵開けの練習を始めて、既に1ヶ月。どうしてもうまく出来ないのだ。気が付くともう後少しで2年生も終わり。
「後1年しかないわ…こんな事で、私はお父様を断罪して、婚約破棄出来るのかしら?」
そんな不安が私を襲う。こんなにもうまく行かないなんて…
「ヴァン、私、やっぱり駄目よ。だって、鍵開けすらうまく出来ないのですもの…」
気が付くと、ヴァンの名前を呼んでいた。もしヴァンが生きていたら“お嬢様、そんな事では婚約破棄は出来ませんよ。私もお手伝いしますから”そう言って手を差し伸べてくれるだろう。
でも、もうヴァンはいない。あいつらに殺されたのだ…
「私、何を弱音を吐いているのかしら?こんな事で、諦めるなんて!」
再びヘアピンを握った。まだあと1年もある。大丈夫だ、きっと大丈夫。そう自分に言い聞かせながら、ただひたすら鍵開けの練習に専念するのだった。
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