第26話 あまり調子に乗っていると痛い目を見ますよ

「ねえ、ジェシカ、今年の学期末休みは、僕と一緒に王家所有の別荘に行かない?自然豊かで、とてもいい場所だよ」


「別荘ですか?でも、私は学期末は王妃教育を受けなければいけないので」


ついに貴族学院2年生も、もうすぐ終わり。来週からは1ヶ月程度の学期末休みが待っている。この学期末休みには、王妃教育を受ける事になっているのだ。


基本的に王妃教育は、貴族学院に在学中は学生生活に集中するため、休みになっている。ただ、王妃様が


「あなたは特に物覚えが悪いのだから、学期休みの1ヶ月間は王妃教育を受けなさい」


と言ったため、私は王妃教育を受けさせられることになっているのだ。本当にあの王妃様には困ったものだ。でも王妃様みたいな姑は日本にも多いみたいだし、どんな時代でも苦労する人はするものなのよね…


もちろん、私は王妃様の義理の娘になるつもりはない。


「王妃教育の事だけれど、母上が特別に3日間だけ、休みをくれると言ってくれたんだ。だから、大丈夫だよ」


3日間だけか…


そういえば、私が王妃様に暴言を吐かれている時も、黙って聞いている様な人だものね、この人。浮気はするし王妃様の言いなりだし、間違いなく不良物件じゃないの…


なんだか頭が痛くなってきた。でも、ここで断るのも良くない。


「分かりましたわ。よろしくお願いいたします」


また面倒ごとに付き合わされるが、これも自由を手に入れるための試練だと思う事にしよう。


重い足取りで家に帰ると、早速鍵開けの練習をする。不器用な私は、まだ成功できていない。


「もう少しで開きそうなんだけれどな…」


そう思い、何度も練習をする。と、次の瞬間。ガチャっと音がしたのだ。


「たったわ、やっと開いたわ」


この1ヶ月と少し、本当に大変だった。そんな中、やっと開けられたのだ。嬉しくてたまらない。


「でも、こんなに時間が掛かっていてはダメよね。最低でも1分以内くらいで開けられる様にならないと。よし、練習あるのみ」


その後も一生懸命鍵開けの練習をした。そうしている間に、学期休みに入り、私は毎日王妃教育を受けるため、王宮へと足を運ぶ。


自慢ではないが、私は学校の成績だけは良かったのだ。王妃教育だろうが何だろうが、何でもこなしてやろうじゃない。そんな思いで、必死に王妃教育を受けた。前日出来かなったところは、夜通し練習したのだ。たとえ無駄になるとわかっていてもだ。


「ジェシカ様、素晴らしいですわ。こうも完璧にこなすなんて」


目を大きく開けて驚いている先生。そりゃそうよ、私がどれだけ頑張ったと思っているのよ。ただ、私の頑張りが気に入らないのは王妃様だ。


わざわざ人払いをし、私と2人きりになったところで、早速嫌味の開始だ。


「ジェシカ嬢、ちょっとくらい王妃教育がうまく行ったからって、調子に乗らないで頂戴。あの程度、出来て当然ですわ。それにあなた、ネイサンという婚約者がいながら、ヴァンとかいう男と仲良くしていたそうじゃない。本当にふしだらな女は嫌ね」


ヴァン…

その言葉に反応する。


「そもそもあんな低能な従者を、ネイサンの婚約者でもあるあなたの傍に置くなんて。本当に侯爵もどうかしているわ」


ヴァンが低能ですって?誰よりも優しくて、思いやりのあるヴァンを。この女、許さない!私の中でプツンと何かが切れる音がした。


「あら、王妃様。男爵令嬢にうつつを抜かし、ろくに調査もしないで婚約者に罪を擦り付ける様な男よりかは、ずっとヴァンの方が優秀ですわよ。それも陛下や貴族まで巻き込んで大騒ぎして。王妃様は一体どんな教育をしたのでしょうね」


「ちょっとあなた、ネイサンを悪く言うなんて、許さないわよ。国家反逆罪で、訴えてもいいのよ」


顔を真っ赤にして怒る王妃様。


「そうですか、どうぞ訴えて下さい。そういえば、王妃様も近くに控えている護衛騎士が、大のお気に入りの様ですね。先日たまたま見てしまいましたの。王妃様と護衛騎士が抱き合って、口づけをしているところを」


どうせならネイサン様も断罪したいと思っている。その為、私はいつも映像型録音機を持ち歩いているのだ。


先日たまたま王宮の建物裏に行ったら、ちょうど2人が抱き合っている姿を目撃して、撮影したのだ。その映像を王妃様に見せた。


「あなた、なんてものを撮っているのよ!恐ろしい女ね。こっちによこしなさい」


もちろん渡すわけがない。スッと映像をしまった。


「まさか陛下を裏切っていらしたなんてね。これは立派な国家反逆罪ですわ。まさかネイサン様も、陛下のお子様ではないとか?」


「ネイサンは陛下の子供よ。そもそも、陛下が先に別の女に手を出したんじゃない。だから私は、やり返しただけよ。それもあっちは、子供まで作ったのよ。本当に、最低だわ」


第二王子のネリソン様の事か。


「確かに結婚しているにも関わらず、別の女性に手を出した陛下は褒められた事ではありませんね。でも、それでやり返すというのもいかがなものかと…」


はっきり言って、どっちもどっちだ。


「うるさいわね。あなたなんかに、何が分かるのよ!」


「わかりますよ。私もネイサン様に同じことをされましたので」


ネイサン様だって、カミラ様と浮気をしていたのだ。


「あれは別よ。だって…その…」


「何が別なのですか?私は婚約破棄まで言い渡されたのですよ。結局あなた様は、自分がされて嫌な事を息子がしたとしても、叱りもしなかった。用は自分や息子が一番可愛いのですね。それって、王妃様としてどうなのかしら?」


「うるさい!こんな事をして、ただで済むと思っているの?侯爵に抗議をするんだから」


「どうぞ、それでしたら私は、陛下とネイサン様に、この映像を提出するまでです。王妃様、ご自分の置かれている状況がお分かりですか?今あなたは、私に秘密を握られているのですよ」


「あなたって人は…」


「それでは失礼いたします。そうそう、この映像を奪い取ろうなんてしても無駄ですからね。この映像は既に私が最も信頼できる者の元に転送いたしました。万が一私に何かあれば、その者がすぐに陛下にこの映像を提出する様伝えてありますので。それでは私はこれで」


悔しそうに唇を噛んでいる王妃様に、満面の笑みを向けた。ヒステリックで傲慢でやりたい放題の王妃様だが、さすがにあれだけ言えば、私に手出しは出来ないだろう。


私に何かすれば、問答無用で映像は陛下の元に行くと植え付けたのだから。もちろん、そんな人はいないから、嘘なんだけれどね。


その日を境に、王妃様は私を避ける様になった。私の姿を見ると、逃げていくのだ。さらに王妃様から


「学期末の間の王妃教育はもうしなくていい」


というお言葉をいただいたので、無事王妃教育からも解放されたのだった。

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