第24話 もうあなたの言いなりにはなりません

夕方、王宮の馬車に乗り込み、家まで送ってくれるネイサン様。


「送って頂き、ありがとうございました。それでは」


そう伝えたのだが、なぜかネイサン様も一緒に降りてきた。


「せっかくだから、侯爵に君への暴力を抗議しよう」


どうやら私が今朝言った事を、覚えていた様だ。


今日1日、チラチラとアザを見せ、痛そうなそぶりをしていた為、さすがのネイサン様でも覚えていたのだろう。


ズカズカと屋敷に入って行くネイサン様の後ろを付いていく。ネイサン様が一緒にやってきたため、急いでお父様を呼びに行くメイド。


「殿下、わざわざジェシカを送って頂き、ありがとうございます」


お父様が満面の笑みで、ネイサン様に話しかけている。隣で継母も作り笑いを浮かべている。


「侯爵、一体どういうつもりだ。ジェシカのこのアザ、聞けば侯爵に暴力を振るわれて出来たというじゃないか!僕の婚約者でもあるジェシカに暴力を振るうなんて、いくら自分の娘でも止めていただきたい!」


「それは…その…申し訳ございません。あの、この傷は、ジェシカがどこかでぶつけて出来たものでして」


「そんな訳がないだろう。ならどうしてこんなに沢山のアザがあるんだ。ぶつけただけなら、こんなに沢山出来ないではないか!嘘ばかりつくな!」


ネイサン様は思い込んだら突き進むタイプだ。カミラ様の件で、嫌というほどそれを見せつけられてきた私。たとえ自分が間違っていたとしても、その事を絶対に認めない。


本当に無駄に自信家で頑固なのだ。ただ…自分が不利になるとコロリと考えを変えるという、卑怯さも持ち合わせている。


「とにかく、これ以上ジェシカを傷つけるようなら、国家反逆罪で侯爵を訴えるからな」


さらにお父様に厳しく詰め寄るネイサン様。


「大変申し訳ございませんでした。これからはジェシカに手を上げるような真似は致しません」


さすがのお父様も、必死に頭を下げて謝っている。でも本来、お父様が謝るべき相手は私なのだが…まあいいわ。


「ジェシカ、これで君を虐める人はもういなくなったよ」


「ありがとうございます、ネイサン様。さすが私の婚約者ですわ、頼りになります」


そう言っておだてておけば、ネイサン様は機嫌が良くなる。


「僕は婚約者として、当然の事をしたまでだ。もしまた侯爵に酷い事をされたら、すぐに僕に報告するんだよ」


ほら、この通りだ。


「それじゃあ、僕はもう帰るよ」


そう言うと、ご機嫌で帰って行ったネイサン様を、笑顔で見送る。ネイサン様の姿が見えなくなった時だった。


「おい、ジェシカ。お前、よくも殿下に告げ口したな。ただじゃ置かないからな」


拳を振り上げ、私を殴ろうとしているお父様。



「お父様、私を殴ってもよろしいのですか?次にもし何かしでかせば、ネイサン様が国家反逆罪で訴えるとおっしゃっていましたよ。そもそも、王太子殿下でもあるネイサン様の婚約者の私に手を出しているなんて、他の貴族に知られたら一体何と思われるのでしょうね」


ニヤリと笑ってお父様にそう伝えてやった。


「お前、私を脅しているのか?」


「脅しているなんて、人聞きの悪い事を言わないで下さい。私はただ、真実をお伝えしたまでです。それでは、失礼いたしますわ」


そう伝えると、さっさと部屋に戻ってきた。なんだか少しだけ心がすっきりした。これからはもう、お父様の言いなりにはならない。そう決意した。


翌日、今日も貴族学院に向かうため、部屋から出た時だった。


「ジェシカ」


話しかけてきたのは、お父様だ。


「何でしょうか?」


「殿下に…その…あまりある事ない事吹き込まないで欲しい。お前も実の父親が、殿下に責められている姿を見るのは辛いだろう。だからその…」


別に私は、お父様がネイサン様に何を言われようと知ったこっちゃない。


「私は真実しか話しませんのでご安心を。ただ、また理不尽な暴力を振るう様でしたら、その時はネイサン様に報告させていただきますわ」


そう伝えた。

今はまだ、お父様といがみ合うつもりはない。ただ、暴力を振るわれることがないだけでも、私は助かるのだ。


それに、お父様には法の下裁きを受けて欲しい。その為にも、お父様の悪事を暴かないと!


その日も図書館に向かい、各国の情報を集めるとともに、この世界のお金の価値なども調べる。私は今まで、侯爵令嬢として生きてきたため、今世になってから一度もお金を使った事がない。


お金の価値が分からないと、旅に出た時に苦労する。そう思ったのだ。その後も、色々と旅について調べた。


そんな日々が1ヶ月続いた。


「よし、この辺りの国はある程度調べ終わったわ」


ノート5冊分、ぎっしり書かれた各国の情報。次は、お父様の悪事を暴く事よね。


ここからが本当の意味での戦いだ。


ノートを抱きしめ、気を引き締めたのであった。

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