第42話 決着がつきました

「陛下、話がそれてしまいましたが、ネイサン殿下は次期国王にふさわしくはありません。これをご覧ください」


気を取り直したダスディー侯爵が、再び映像を流し始めた。そこには、別荘に行った時に領民たちに暴言を吐く姿や、クマに襲われかけた時、私を置いて一目散に逃げる姿。メイドを庇った私に暴力を振るう姿が映し出された。


他にもメイドや護衛騎士に、暴言や暴力を振るう姿まで映し出されていた。こんな映像、いつ撮ったのかしら?


「陛下、ご覧の通り、ネイサン殿下は傍若無人で、民の事はもちろん、自分の婚約者ですら大切にすることはできないお方です。そんなお方が国王になればどうなるかくらい、あなた様もおわかりでしょう?」


必死にダスディー侯爵が訴える。


「確かにネイサンより、ネリソンの方が優秀で王に向いている。口うるさい王妃もいなくなった。そもそも、ネイサンは本当に私の子供だったのだろうか…」


何やらブツブツと言い出した陛下。


「父上、待って下さい。僕は母上の様に犯罪に手を染めていません。確かにジェシカやメイド、護衛騎士たちに暴言や暴力を振るった事はありましたが、それは彼らへの躾の一環です」


何が躾よ!頭に来て文句を言おうとした時だった。


「何が躾ですか!これはれっきとした暴力です。そもそも令嬢を殴るだなんて、1人の殿方として最低な行為ですよ。第一、ジェシカ様がどれほど辛い思いをして来たか知っているのですか?あなた様と婚約破棄をしたい一心で、実の父親でもある侯爵を断罪したのですよ。それほどまでにあなたは、ジェシカ様に嫌われている事を自覚しているのですか?本当に、最低ですわね」


なぜかアンネ様が私の代わりにネイサン様に文句を言ってくれた。


「君には関係ないだろう。第一…」


「いい加減にしないか、ネイサン。ダスディー侯爵令嬢の言う通りだ。お前は男として最低だ。私は何度もお前に忠告した。それなのに、まだこんなバカな事をしていたなんて、本当に情けない。ただ、私1人で決めるのも良くない。ここは多数決で決めようではないか?」


そう言うと、貴族たちに向かって叫んだ。


「今日は幸いなことに、この国の貴族たちが集まってくれている。そこで皆の者に聞きたい。国王にはどちらがふさわしいかを!ネイサンの方がふさわしいと思うものは挙手を」


陛下が貴族たちに向かって叫んだ。誰も手を挙げる者はいない。


「それでは、ネリソンがふさわしいと思うものは挙手を」


ダスディー侯爵を始め、ほぼ全員の貴族が挙手をする。私も一応手を挙げた。


「これで決まったな。ネイサン、お前は今日を持って廃嫡とし、新たにネリソンを王太子とする。王太子就任式は後日王宮にて、正式に執り行う事にしよう」


その瞬間、大きな拍手が沸き起こる。もちろん、私も拍手をした。これでこの国も安泰ね。私も心置きなく、この国を出られるわ。


ただ…納得できない男がここに1人…


「皆、待ってくれ。どうして僕が廃嫡されないといけないんだ。そうだ、ジェシカと婚約破棄をしたからいけないんだね。ジェシカ、僕とまた婚約を結び直そう。やっぱり僕には君が必要な様だ」


何をどうすればそうなるのだろう…


周りの皆もあきれ顔だ。陛下に至っては、めまいがするのかフラフラと倒れそうになっているのを、騎士たちが支えている。


「ネイサン様、いいえ、ネイサン殿下、私は先ほど没落した元ファレソン侯爵家の娘です。このままいけば、私は平民になりますわ。私とこのまま婚約を結んでいても、あなたにいい事などありません。それに、私はあなたが大っ嫌いなのです。もう二度とあなたの顔は見たくない程嫌いなので、たとえ何があっても、あなたと婚約を結び直すなんて御免です!」


ただ…まだ正式に婚約破棄していないが、まあいいか。


「嘘を付け!君のバックには、ダスディー侯爵が付いているではないか?そうか、アンネ譲と婚約すれば、僕は王太子になれるのだな、アンネ嬢…」


「お断りいたします。私は、ネリソン様を心から愛しております。それにネイサン殿下の様に令嬢に暴力を振るったり、他の令嬢にうつつを抜かす殿方なんて、絶対に嫌ですわ」


プンっとそっぽを向いたアンネ様。そんなアンネ様の肩を抱き、心底軽蔑した表情でネイサン殿下を見つめるネリソン殿下。それにしても本当にこの男は、誰でもいいのね…呆れてものも言えないわ。


「ネイサン、お前という奴は…少し…いいや、かなり甘やかしてしまった様だ。お前は、ネイールの元に養子に出すことにしよう」


「ネイールの叔父上の元にですか?それだけは嫌です」


「ダメだ!ネイールのところは、子供がいない。あいつならお前を立派な人間に育てなおしてくれるはずだ」


「そんな…」


真っ青な顔をして跪くネイサン殿下。ネイール公爵と言えば、陛下の実の弟で、非常に武術に優れていると聞いたことがある。曲がった事が大嫌いで、厳しい人物とも…確かに、ネイール公爵の元に行けば、あの腐った根性を叩き直してもらえそうだけれど。あんなのが公爵になって、大丈夫なのかしら?


「ジェシカ嬢、本当にネイサンがすまなかった。ネイサンとの婚約は破棄し、私からも慰謝料を渡そう。それから、君が望むなら、どこか有能な貴族の元に、養子に入ってもいい。例えば、ダスディー侯爵の家とか」


「ありがとうございます。でも私は、この後旅に出る予定でございます。ですので、養子のお話は結構ですわ。ただ、慰謝料は頂きたいです。旅の資金にいたしますので」


予算は多い方がいいものね。


「旅だって!ジェシカ、僕も連れて行ってくれ。あんな鬼の様なネイールの叔父上の家になんて連れていかれたら、1週間もしないうちに殺される!頼む、僕を見捨てないでくれ」


何を思ったのか、私の足にしがみつくネイサン殿下。さすがに気持ち悪いわ…


「ネイサン殿下、放してください!気持ち悪いです。それに旅と言っても、あなたの様な甘ったれには耐えられませんわ。どうか、ネイール公爵の元で、根性を叩き直してもらってくださいませ」


足にしがみついたネイサン殿下を、必死に蹴り飛ばしたのだが…


「嫌だ!頼む、僕を見捨てないでくれ。もう僕には君しかいないんだ!」


なぜそこで私しかいないと思うのよ。本当に気持ち悪い。


「いい加減にしろ!さっきから黙って見ていたが、本当にお前はどうしようもない男だな!俺が骨の髄まで叩き直してやる。さあ、こっちに来い!」


私たちの元にやって来たのは、ネイール公爵だ。かなりご立腹の様で、ネイサン殿下の首根っこを掴むと、そのまま連れていく。と思いきや、クルリとこちらを振り向いた。


「ジェシカ嬢、本当にネイサンが申し訳ない事をした。兄上はどうやら子供の教育に失敗した様だ。でも、安心して欲しい。ネイサンの腐りきった根性は、俺が徹底的にたたき直すから。それじゃあ、騒がせてしまって悪かったね」


そう言うと、再びネイサン様を連れ、ネイール公爵がホールから出ていく。


「待ってくれ、ジェシカ。僕を見捨てないでくれ、ジェシカァァァ」


子供の様に泣き叫びながら退場していったネイサン殿下。何とも言えない複雑な気持ちになる。


「ジェシカ様…あの、こんな事は申し上げにくいのですが、本当にネイサン殿下と婚約破棄出来てよかったですわね…」


心底軽蔑するような眼差しでネイサン殿下を見つめたアンネ様が、私に呟いた。


「ええ…本当にそう思いますわ」


何なのかしら、この何とも言えない気持ちは。でも、これでカミラ様に報告できるわ。


全ての断罪が終わり、ホッと胸をなでおろすのであった。

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