これからはずっと一緒です~ヴァン視点~

断罪を終えた10日後、やっとジェシカが旅に出ると言い出したのだ。私はこの日を心待ちにしていた。そう、ジェシカとの再会の時は、彼女が旅に出るときにしようと決めていたのだ。


その前に、ジェシカをあれほどまでに苦しめた元王太子に会いに行った。あの男、かなり公爵に鍛え直されている様で、既にやつれていた。私の顔を見た瞬間、目玉が飛び出るのではないかというくらい驚いていた。


さらに私の正体を伝え、公爵にはあの男が今までジェシカに行った悪行をまとめた映像も提供しておいた。


さあ、準備は整った。ジェシカが旅立つ日、少し早めに港に向かい、ジェシカが来るのを待つ。すると、たくさんの貴族が集まって来た。さらにこの国の新王太子でもあるネリソン殿下も来ている。そうか、ジェシカを見送りに来たのか。


いつの間にかジェシカは、こんなにも沢山の味方を作っていたのだな。でも…なぜだろう、心の奥がモヤモヤする。


“私はヴァンがいてくれたらいいの。あなたは私の唯一の心の支えなのだから”


よく彼女が言っていた言葉だ。ジェシカにとって、私は唯一の味方。でも今は、こんなにも沢山の味方がいる。今更私が姿を現したところで、受け入れてくれるだろうか…


そんな不安が私を襲った。


「殿下、そんな暗い顔をされてどうしたのですか?今日は待ちに待ったジェシカ様との再会の日ではありませんか。きっとジェシカ様も、あなた様が生きていると知ったら、お喜びになられますよ」


執事が私の肩を叩きながら、慰めてくれる。そうだ、ジェシカは私の為に、この1年頑張ってくれたのだ。きっと私が生きていると知ったら、喜んでくれるはず。


しばらく待っていると、ダスディー侯爵家の家紋が付いた馬車がやって来た。馬車からゆっくり降りてきたジェシカ。耳にはしっかりと、私が置いて来たイヤリングも付いている。


最後にダスディー侯爵令嬢やギュリネイ男爵令嬢たちと別れの挨拶をしている。ギュリネイ男爵令嬢はすっかりジェシカと仲良くなった様だ。それでも私は、あの女がジェシカにした事は、未だに許せていないが…


一通り挨拶が終わったところで、ついにジェシカが船へと向かった。そっとジェシカに近づくと


「お嬢様、あれほど私も連れて行ってくださると約束したのに、1人で旅に出るつもりですか?」


そう声を掛けた。


ゆっくりと私の方に振り向くジェシカ。その瞬間。


「ヴァン!!」


そう叫ぶと、瞳に涙をいっぱいに溜め、私の胸に飛びついて来たのだ。もちろん私も強く抱きしめた。1年ぶりに触れるジェシカ、柔らかくて温かい。もう二度と、ジェシカを離さない!そう強く思った。


ジェシカも涙を流しながら、すり寄って来る。その姿が可愛くて、頭を撫でた。断罪の時はあれほどまでに逞しく、立派な姿を見せてくれた。でも、私の前ではこうやって甘えん坊で泣き虫な弱いジェシカを見せてくれるのだ。それが嬉しくてたまらない。


でも…ダスディー侯爵令嬢にも自分の弱い部分を見せていたな…それに、断罪後彼女がジェシカを慰めていた。思い出したらモヤモヤしてきた。どうやら私は、やきもち焼の様だ。まさか令嬢にまで焼きもちを焼くなんて。


とにかく、早くジェシカを連れて一度国に戻り、婚姻届けを出さないと。そんな事を考えていると、急にジェシカが


「どうして生きているの?まさか、幽霊とか?」


そう言って私の足を確認しだしたのだ。それも真剣な表情で!その姿を見た瞬間、笑いがこみ上げてきた。なぜかジェシカは、たまにこういった子供っぽい事をする。その姿もまた愛おしいのだ。


さらに私の正体を伝えると、目玉が飛び出すのではないかというくらい驚いている。でも、すぐに我に返り、私の事をヴァンビーノ殿下と呼び、敬語で話し始めた。


何となく嫌な予感はしていた。ジェシカは前世の記憶を取り戻してから、平民に憧れている節があったからだ。もし私が王族と知ったら、私から離れていくのではないか、そんな不安があった。


それでもジェシカは、私の傍にいてくれると言ってくれた。ただ、今のジェシカは自分の意思をしっかり持って行動をする。そして、仲間まで作ったのだ。少し目を離すと、私の傍からいなくなるかもしれない。


とにかく一刻も早く国に戻り、ジェシカと結婚しないと。


最後にお世話になったダスディー侯爵令嬢たちに挨拶をして、船に乗り込む。必死に皆に手を振り、別れを惜しむジェシカ。そんなジェシカの腰に手を回し、そっと引き寄せた。


もう私たちを邪魔する者もいない、これからはジェシカと共に生きていこう。彼女の横顔を見ながら、改めてそう思ったのだった。



※次回はネイサン視点です。

よろしくお願いしますm(__)m

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