あなた達を見返して必ず幸せを掴んで見せます
@karamimi
第1話 何もかもが嫌です
「ジェシカ、悪いが僕と婚約破棄をしてもらえないだろうか?僕は彼女を、カミラを心から愛してしまったんだ」
私に向かってそう言い放ったのは、この国の王太子で私の婚約者、ネイサン様だ。隣には綺麗なピンク色の髪に青色の瞳をした男爵令嬢、カミラ様もいる。ネイサン様に寄り添い、不安そうな顔で見つめるカミラ様は、私の目から見ても、本当に美しい。
「ジェシカ様、本当に申し訳ございません。私が…ネイサン様を愛してしまったばかりに…」
そう言うと、瞳からポロポロと涙を流すカミラ様。
「カミラは何も悪くないよ。僕が君を愛していしまったからいけないんだ。そもそもジェシカの事なんて、本当はこれっぽっちも好きではなかったんだ。いわば政略結婚なんだよ。誰が好き好んで、こんな何を考えているか分からない根暗な令嬢を好きになるものか!」
カミラ様に向かって、必死に訴えているネイサン様。
何を考えているか分からない根暗な令嬢か…
確かに私は昔から、自分の意見を言うのが苦手だった。それでも、私なりにネイサン様を愛して来たつもりなのだけれど…
「とにかく、僕が愛しているのは、カミラただ1人だ。ジェシカ、お金ならいくらでも払おう。だから、僕と婚約を破棄して欲しい」
「…申し訳ございません。私の一存では決められませんので…」
「ああ、分かっているよ。君の父上にも今日話をした。ただ、やはりあまりいい返事は頂けなくてね…でも僕は、君を愛するつもりは一切ない。もし君と結婚しても、僕はカミラを側室として迎え、君には指一本触れるつもりはないから。だから、なんとか父親を説得して欲しい」
父を説得か…
そんな事、出来る訳がない…
だって私は、父にとって道具でしかないのだから…
「とにかく、頼んだよ。さあ、話はおしまいだ。さっさと出て行ってくれるかい?」
そう言うと、シッシッと私を追い出すネイサン様。王宮にいても仕方がない、本当は帰りたくはないけれど、家に帰るか。
トボトボと王宮内を歩いていると、王妃様に呼び止められた。
「ジェシカ嬢、ちょっといいかしら?」
仕方なく王妃様に付いていく。席に座るや否や
「あなた、一体どういうつもりなの?ネイサンはあんな男爵令嬢に夢中になっているじゃない。そもそも、あなたがしっかりとネイサンの気持ちを、繋ぎとめておかないからいけないのよ」
「申し訳ございません…」
「毎回毎回、謝る事しか能のない女ね。あなたみたいな暗い令嬢じゃあ、確かにネイサンが他の女に目が行くのも仕方ないわ…だから私はあなたとネイサンを婚約させるのは、嫌だったのよ。でも、侯爵がどうしてもっていうから、仕方なく婚約させたのに…」
そう言うと、王妃様はため息を付いた。
私は人づきあいが苦手で、口下手だ。さらに人見知りも酷い。そんな可愛げのない私を、王妃様が好きになる訳もなく。こんな感じで、毎回責められているのだ。
「とにかく、あんな男爵令嬢が王妃になるなんてあり得ない事なのよ。と言っても、あなたではやはり王妃は務まらないわよね。今からでも、王妃候補を選び直した方がいいかもしれないわ。それにしても、侯爵家は一体あなたにどんな教育をしたのかしら?見れば見るほど、暗い女ね。あなたを見ていると、こっちまで気持ちが暗くなるわ。さあ、さっさと出て行って」
自分で引き留めておいて、出ていけだなんて…
でも、もちろん口答えをする勇気なんて、私にはない。
「はい、申し訳ございませんでした。それでは、失礼いたします」
王妃様に頭を下げ、その場を後にする。そして、王宮の門に停まっている馬車に乗り込んだ。
今日は疲れたわ。でも…もっと疲れる事がこれから待っているのね。
だって、ネイサン様がお父様に、私との婚約を解消して欲しいと言ったのだから…
「お嬢様、大丈夫ですか?顔色があまり良くないですよ」
私に声を掛けてきたのは、従者のヴァンだ。
「ありがとう、ヴァン。大丈夫ではないけれど…でも、全部私が悪いのだから、仕方ないわ」
そう、婚約者でもあるネイサン様に嫌われ、まんまと他の女性に取られてしまった私が全て悪いのだ。
「ねえ、ヴァン。もし私が、もっと明るくて社交的だったら、ネイサン様は私を愛してくれたかしら?」
ついそんな事を口走ってしまった。
「お嬢様は、今のままでも十分魅力的ですよ」
そう言ってヴァンが慰めてくれる。私が魅力的な訳がない。だって私は、現に皆に嫌われているのだから…
そんな事を考えているうちに、屋敷に着いてしまった。重い足取りで、屋敷に入る。
すると
「ジェシカ!お前という奴は!」
私を見るなり、真っ赤な顔をしたお父様に頬を打たれた。お父様の隣には、私を睨みつけている継母と、同じく軽蔑の眼差しを向けている異母弟が目に入る。
「今日ネイサン殿下に呼び出された。お前と婚約破棄をしたいと言われたよ。そもそも殿下は、男爵令嬢に熱を上げているみたいじゃないか!男爵令嬢に殿下を奪われるなんて、恥を知れ!」
「あなた、落ち着いて。よく考えて下さい、いつも俯いていて何を考えているか分からないジェシカを、殿下が愛してくださる訳がないではありませんか?本当に、あの女の産んだ子は、役立たずなのだから…」
「母上の言う通りだ。異母姉上のせいで、僕の評判まで下がっているのですよ。異母姉上は、本当に疫病神でしかない。いっその事、どこかで野垂れ死んでくれたらいいのに…」
お父様に続いて、継母や異母弟たちまで、私にそう言い放った。これもいつもの事、とにかく、皆の怒りが収まるのを必死に待つ。
「俯いていないで、なんとか言いなさいよ」
私を怒鳴りつける継母。
「申し訳ございません…」
「謝ればいいってもんじゃない。とにかく、なんとかして殿下のご機嫌を取り、正室として置いてもらえる様頼んで来い。いいな、今すぐ王宮へ向かって殿下に頼むんだぞ。それまでは屋敷には入れないからな!」
お父様に怒鳴られ、屋敷から追い出されてしまったのだった。
~あとがき~
新連載始めました。
少し暗めな話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
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