第4話 作戦開始です
翌朝、いつもの様に目覚めると、そのまま着替えを済ませ、学院に行くための準備を行う。お父様たちと顔を合わせると、また面倒だ。急いで馬車に乗り込み、学院へと向かった。
「お嬢様、お気をつけて」
「ありがとう、ヴァン。それじゃあ、行ってくるわね」
ヴァンに挨拶をして、馬車に乗り込んだ。貴族学院には、基本的にメイドや従者などを連れていく事は出来ないのだ。
しばらく走ると、貴族学院が見えてきた。ゆっくり馬車から降りると、深呼吸をする。さあ、行きましょうか。
前を向き、胸を張り教室へと向かう。教室に着くと、ネイサン様とカミラ様が楽しそうに話をしていた。そんな2人を無視して席に付く。すると
「おはよう、ジェシカ。昨日の話、考えてくれたかい?」
カミラ様を連れたネイサン様がやって来た。改めてネイサン様を見る。ネイサン様と初めて会ったのは、私が12歳の時。既に家族から疎まれていた私。さらに人づきあいが苦手な私は、話しかけてくれる友人すらいなかった。
そんな中、ネイサン様が優しく話しかけてくれたのだ。それが嬉しくて…ネイサン様との婚約が決まった時、天にも昇る気持ちだった。でも今は…
「申し訳ございませんが、私の一存では婚約破棄は出来ませんわ。私ではなく、父や陛下に申し出て下さい」
彼の目を見て、はっきりとそう告げた。本当は嫌味の1つでも言ってやりたかったが、今の状況でそんな事を言うのは逆効果だろう。そう思い、ぐっと堪えた。
「ジェシカ様、申し訳ございません。私がネイサン様を愛してしまったから…」
お得の涙を流して同情を誘うカミラ様。昔いたわね、こういう女。友人の彼氏を片っ端から奪っていったくせに、いざ友人たちから攻められると、訳の分からんお涙頂戴の演技をする子…
この子、相当腹黒ね。絶対に性格が悪いわ。そもそも、悪いと思っているなら、婚約者がいる男に手を出さないものよね。案の定、周りからはカミラ様を庇う声が聞こえる。本当に人間なんて、他人の事になると簡単に流されるのだから、嫌になるわ。
でも、私だって負けないんだから!
「カミラ様、あなた様は悪くはありませんわ。私はカミラ様とネイサン様の恋を、応援したいと思っておりますの。でも…父が許してくれなくて。本当に申し訳ございません」
そっちが泣き落としなら、こっちだって。そんな思いを込めて、涙を流し、何度も頭を下げて謝ってやった。実は私、目に力をこめると泣くことが出来るのだ。ただ、前世の私は泣くことが嫌いだった。だから、こんな特技を持っていても仕方ないと思っていたが、まさかこんなところで役に立つなんて。
ポロポロと涙を流し、頭を下げる私を、目を丸くして見ているカミラ様とネイサン様。周りの貴族たちも、ざわめいている。どうだ、私の演技力は!
「ジェシカ、頭を上げてくれ。君は…僕たちの恋を邪魔していたわけではないのか?」
「邪魔?私には家での発言権はありませんので。昨日もネイサン様に婚約破棄を申し出された事で、顔を思いっきりぶたれたくらいですし…」
昨日叩かれた頬は、随分マシになってきたが、それでもまだ腫れているのだ。
「まさか、侯爵から暴力を…」
目を大きく見開き、固まっているネイサン様。本当に、何不自由なく生きて来た王族は嫌だわ。
「でも、いつもの事ですので気にしないで下さい。殴られようが蹴られようが、食事を与えられまいが、私は慣れておりますので」
そう笑顔で伝えてやった。固まっているネイサン様に対し、私を怖い顔で睨んでいるカミラ様。ほら出た、あれがきっとカミラ様の本性なのだろう。
その後すぐに先生が来たため、授業が始まった。その後はいつも通り1人で過ごし、その日は何事もなく過ぎて行った。
今日は言いたい事が少しだけ言えて、すっきりしたわ。軽い足取りで屋敷に戻ると、お父様に呼び出された。
「ジェシカ、陛下に今日話をして来た。陛下も、男爵令嬢を王妃には出来ないとおっしゃってくださった。いいな、私がここまでお膳立てをしてやったんだ。お前も殿下に愛してもらえる様、精進しろ」
何が精進しろ!よ。あんな浮気男と誰が結婚なんてしたいものですか。それでもお父様が、私に暴力を振るわず話をした事は、少しはましな方向に進んでいるのかしら?
自室に戻ると、ヴァンが紅茶を入れてくれた。
「お嬢様、学院で何かありましたか?」
「ええ、今日はね、ネイサン様とカミラ様に、少しだけ反撃したのよ。ヴァンにも見せてあげたかったわ。やっぱり私は、あの浮気男とだけは結婚したくないわ…」
「うわき?ですか…お嬢様、それは一体なんですか?」
ヴァンが不思議そうに訪ねて来た。そうか、この国では浮気という言葉は存在しないのね。
「恋人や奥さんがいる人が、別の女性を好きになり、関係を持つことを“浮気”と言うのよ。私が前世で住んでいた日本では、浮気は外道がする事として、嫌われているの。浮気は離縁や婚約破棄、破局の原因にもなるの。浮気をする人間は、異性からも嫌われるわ」
「なるほど、浮気。覚えておきます。それでは、お嬢様はいずれ殿下と婚約破棄をされたいとの事ですよね?」
「そうね、私は浮気をする男だけは許せないの。あぁ、考えただけで、虫唾が走る」
前世では、大好きだった彼氏がいた。でも、親友だと思っていた女性に彼氏をとられたのだ。それも、私と付き合っていた3年間のうち、1年間親友とも付き合っていたのだ。
あの男のせいで、私は男性不信になった。本当に、浮気する男だけは生理的に受け付けない。だから何が何でも、ネイサン様とは婚約破棄をしたいのだ。これだけは、絶対に譲れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。