第28話 街は素敵なのですが…

何度も休憩を挟みつつ、別荘を目指す。馬車が進むにつれて、緑が増えてきた。16年間、一度も王都から出た事がない私。前世以来に見る緑に、つい興奮してしまった。


「ジェシカ、王族所有の領地に入ったよ。あの大きな建物が別荘だ」


ネイサン様が指さした先には、それはそれは大きな宮殿が建っていた。さすが王家の別荘、ものすごく立派だ。


「すごい豪邸ですね。さすがですわ」


「そうだろう、王家の別荘はとても立派なんだ。きっとジェシカも気に入ると思うよ」


馬車が停まると、早速外に出た。自然豊かな場所だけあって、空気が美味しい。ゆっくり深呼吸をする。


「さあ、さすがに今日は疲れただろう。ゆっくり休むといい」


ネイサン様が中へと案内してくれた。すると、たくさんの使用人が出迎えてくれる。それにしても、本当に豪華ね。高そうな壺にシャンデリア、それに真っ赤なカーペットまで。


なんだか王都にある王宮にいるみたいだわ。


「ここが君の部屋だよ。それから後ろに控えているのが、君付きのメイドだ」


ネイサン様に案内された部屋は、これまた立派な部屋だった。それに私の為に、専属メイド3人も付けてくれたのだ。


「何から何まで、本当にありがとうございます」


私の為に色々としてくれたのだ、素直に感謝の気持ちを伝えた。その日は疲れているとの事で、別荘でゆっくり過ごし、翌日街を見学する事になった。今世で初めてゆっくり街を見学できることが楽しみすぎて、なかなか寝付けなかったのだった。



翌日、今日も水色の服を着せられた。と言っても、今日は街に出るので、ドレスではなくワンピースだ。そもそも私は、ドレスが苦手だ。締め付けがきついし、とても苦しい。それに歩きにくいのよね。やっぱりワンピースは楽だわ。本当はズボンを履きたいが、さすがに令嬢でもある私が、ズボンを履く事は許されない。


でも、無事お父様を断罪し、婚約破棄出来た暁には、ズボンを履こうと思っている。


「ジェシカ様、準備が整いましたよ。とてもお美しいです」


メイドが私を褒めてくれた。たとえお世辞だとわかっていても、やっぱり褒められると嬉しいものね。つい頬が緩んでしまった。


着替えが済むとネイサン様と一緒に朝食を食べた。そしていよいよ街に出るため、馬車に乗り込む。今日は王太子とその婚約者という身分を隠して街に出るため、護衛は最低限で向かう。もちろん、馬車もシンプルなものだ。


「なんなんだ、この窮屈な馬車は。僕は王太子なのに」


早速馬車に対して文句を言っているネイサン様。この人は本当に…


隣に座っていた執事が、なぜか必死に謝っている。そもそも今日は、お忍びで来ているのだから、馬車がいつもより狭いのは当然なのに。大体この男の我が儘を許すから、つけあがるのよ!そんな怒りがこみ上げてきた。


「ネイサン様、今日はお忍びで来ているのです。あなた様はいずれ王になるお方なのですから、少しは我慢してくださいませ!」


ついネイサン様に向かって、そう叫んでしまった。すると、何を思ったのか黙り込んだ。これはもしかして、反省している?それならいいのだけれど…


しばらく走ると、街の中心部に来た。早速馬車を降りて、街を歩く。


なんだか中世のヨーロッパみたいな雰囲気ね。珍しくてつい色々と見てしまった。


「ジェシカ、確か金を買いたいと言っていたね。おい、金が売っている店に案内しろ」


近くに控えていた執事に、すかさず指示を出すネイサン様。いくら執事だからと言って、もうちょっと口の利き方は気を付けた方がいいのでは…念のため、今回の様子を録画しておくことにした。


まず最初に向かった先は、金が販売されているお店だ。さすが純金が発掘されるだけの事はある。物凄い数の金が並んでいる。よくわからないが、お父様に言われた通り、金をたくさん買った。もちろん、継母に言われたネックレスも購入する。


あまりの買いっぷりに、店主が固まっていたが、気にしないようにしよう。


「さすがジェシカだね、買いっぷりが豪快でいいよ」


なぜかネイサン様に褒められたが、私はただ買い物を頼まれただけなのだ。そもそも私は、どちらかと言うとつつましい性格なのだが…


そう思っていると


「僕もジェシカに負けていられないね」


そう言うと、ものすごい勢いで金を買いあさり出したのだ。それを見た店主が再び固まっている。


「あなた様達は、どこかのご貴族様なのですか?」


ポロリとそう呟いた店主。すると


「お前は何を言っているんだ。僕はこの国の王太子だぞ。僕の顔も知らないなんて、失礼な奴だ。国家反逆罪で捕まえるぞ。おい、この無礼者を捕まえろ」


何を思ったのか、かなりおバカな事を言いだしたネイサン様を、執事と一緒に必死にとめた。その後も、行くところ行くところで“僕は王太子だぞ”と威張り散らかすネイサン様。


そのたびに私の執事で必死にとめていた為、街をゆっくり見る時間なんてなかった。最後には


「この街の住民はどうなっているんだ!王太子の顔も知らないなんて。僕が王になったら、ただじゃ置かないからな」


そう怒っていた。この街の住民の為にも、なんとかこの男を王にする事を阻止しないと。

そう強く思ったのであった。

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