第10話 これでよかったのかな?
「コラ、ジェシカ。せっかく殿下がそう言ってくださっているのだ。お前も返事をしないか。殿下、申し訳ございません。娘は少しどんくさいところがありまして」
「侯爵、いいんだよ。きっと今まで僕に愛されてこなかったから、どうしていいのか分からないのだろう」
そう言うと満面の笑みで、まだこちらを見ている。この男は…
「とにかく、今回の件はさすがに問題だ。明日緊急会合を開き、その場で再度話し合いをしよう。それからネイサン、今回の件、お前にも責任がある事を忘れるなよ。それでは皆の者、わざわざ学院に集まってもらって申し訳なかったな。ジェシカ嬢、本当に今回の件、すまなかった」
再度私に頭を下げ、去って行った陛下。他の貴族たちも、次々と教室から出て行った。
「ジェシカ、僕たちも帰ろうか?」
何を思ったのか、ネイサン様が私に手を差し出してきたのだ。ふとカミラ様の方を見ると、まだ泣きじゃくっていた。そんなカミラ様を必死に宥めるギュリネイ男爵。
「お父様、私はただ、ネイサン様が好きだっただけなの。それなのにどうして…」
「カミラ、いくら殿下に好意を抱いていたとしても、お前がしたことは間違っていたのだ。ほら、もう帰ろう」
「嫌よ…どうして?私はあんな女より、ネイサン様を愛しているのに」
私をキッと睨み、そう叫んだカミラ様。この子、性格は悪いが、ネイサン様が好きだったことは本当の様ね。それに、父親にあんな風に意見が出来るなんて、きっとカミラ様はお父様から大切にされていたのだろう…
困った顔で娘をなだめる男爵の姿を見たら、少しだけ胸が痛んだ。
「さあ、ジェシカ。帰ろう」
私の手を握ろうとしたネイサン様をそれとなくかわした。
「ネイサン様、もう一度、きちんとカミラ様とお話をされた方がよろしいのではありませんか?少なくとも放課後までは、あなた様はカミラ様を愛していたのでしょう?あのまま放っておくのは、どうかと思いますわ。男なら、しっかりとケジメを付けるべきです」
せめてもう一度、2人で話し合ってほしい。そう思って伝えたのだが…
「もう僕たちは終わったんだ。僕はもうカミラを愛していないとはっきり伝えたし。さあ、カミラの事は男爵に任せて、帰ろう」
そう言うと、さっさと歩きだした。本当にどうしようもない男だ。きっとこれ以上何かを言っても無駄だろう。そんな思いから、後ろ髪をひかれつつ教室を後にした。
「ジェシカ、カミラの事、本当に悪かったね。明日は貴族学院がお休みだから、僕も会議に参加するよ。心配しなくても大丈夫だよ、必ずあの女を厳罰に処すからね」
嬉しそうに私に話しかけてくるネイサン様。つい数時間前まで愛していた女性を、そんな風に言うなんて、本当にクズね…この男の話を聞いていると、頭痛がするわ。
そうしている間に、校門までやって来た。
「それではネイサン様。ごきげんよう」
「あっ、待って…」
まだ何かネイサン様が言いかけていたが、さっさと馬車に乗り込んだ。これ以上あの男と話なんてしたくなかったからだ。今回の件で、ますます婚約破棄をしたくなったわ。
家に着くと、上機嫌なお父様が待っていた。
「ジェシカ、でかしたぞ。あのにっくき男爵令嬢も、これでおしまいだ。それに殿下、お前に興味を抱いていた様だ。これで一気に殿下の心を掴め。いいな」
「あの…お父様。カミラ様はどうなるのでしょうか?」
「そりゃ殿下の婚約者を陥れようとしたのだから、国外追放が妥当だろう。最悪、極刑という事もありうるな。もちろん、私も厳罰を望むつもりだ」
何ですって…
確かにカミラ様が行った事は、最低な行為よ。でもだからって、極刑はないわ…それに、もし万が一カミラ様が極刑になったら、きっとギュリネイ男爵が悲しむだろう。
あんな事件を起こした娘の事を、それでも心配そうに見つめていた男爵の顔が、頭に浮かんだ。
「お父様…あの…厳罰を求めるのはどうかと…確かにカミラ様がやった事は良くないですが、ここでカミラ様を庇っておけば、“あんな酷い事をしたのに、何て懐の広い方だ”と、きっと我が家の株も上がりますわ」
お父様は我が家の評判の事を、非常に気にするタイプの人間だ。そういえばきっと、食いついてくると思ったのだ。
「お前、私に意見するのか!だが…お前のいう事も一理あるな…それに今日、殿下も“ジェシカはなんて優しいんだ“と言っていたし。よし、あのにっくき男爵令嬢を苦しめる事が出来ないのは残念だが、それでも慈悲を与えた方が我が家に利益がありそうだな。しかたない、今回だけはお前の意見を聞いてやろう」
よかった、これで極刑は免れそうね。
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