第8話 反撃のときです
「先生、またジェシカが、カミラに酷い事をしたのです。この机、見て下さい」
先生に鼻息荒く詰め寄るネイサン様。
「これは酷いですね。王太子殿下、どうしてこんな酷い事をした人が、ファレソン嬢だと思うのですか?もちろん、証拠がおありなのでしょう。ぜひ、ご提示お願いいたします」
「証拠…ですか?そんなものはありません。でも、ジェシカは僕の婚約者だ。僕の恋人でもあるカミラを恨んでいてもおかしくはない。それがれっきとした証拠です」
この王太子、馬鹿なのかしら…そんなもの、証拠になる訳がない。
「殿下、それは証拠とは言いませんよ。皆さん、誰かファレソン嬢がギュリネイ嬢の机に落書きをしたり、傷つけていた姿を見た者はいますか?」
先生の問いかけに、誰も答えない。そりゃそうだろう、私は何もしていないのだから。さあ、そろそろ動き出しましょうか?
「先生、よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう。ファレソン嬢」
「実は私、あの事件の後、自分が犯人に仕立て上げられたことが悲しくて、真犯人を見つけるため、映像型録音機を教室に設置していたのです。多分犯人が映っているはずです」
「なるほど、それでは早速その映像を確認しましょう」
よし、これで犯人を特定できる。そう思ったのだが…
「先生、あの、こんな事を申し上げたくはないのですが、ジェシカ様が準備した機械ですよね。でしたら、自分の都合の良い映像が映る様に、映像を偽造しているのではないでしょうか?例えば、別の人間が机を傷つけている映像に差し替えているとか」
とんちんかんな事を言いだしたのは、カミラ様だ。さすがの先生や他の生徒たちも、目を丸くしている。そりゃそうだ、どうやって映像を偽造しろというのだ。そんな技術、この国にはないだろう。
それなのに…
「そうだ、カミラの言う通りだ。ジェシカが準備した映像なんて、信用できない」
ネイサン様までそんな事を言いだしたのだ。本当にこの男は、どこまで馬鹿なのだろう…
「ギュリネイ嬢、それに殿下、映像を編集するならまだしも、映像自体を別の映像に差し替えるなんて、通常不可能です。あまりにもおかしな言いがかりはやめて下さい。でも、そこまで言うなら、機械に詳しい先生を呼んできますので、少しお待ちください」
急いで教室から出ていく先生。何とも言えない空気が流れている。ただ、相変わらずネイサン様は私を睨んでいるが…
しばらくすると、先生が戻ってきた。早速映像型録音機を提示した。
「これは最新のものですね。殿下たちが疑っているとの事なので、今回は私が準備した機械で映像を確認してもよろしいですか?ファレソン嬢」
「はい、構いません」
「殿下たちも、よろしいですね。私の持ってきた機械なら、信用できるでしょう?」
「はい、大丈夫です」
「でも…」
真っ青な顔をしてまだ反論しようとするカミラ様。
「それでは、再生してみましょう」
そんなカミラ様の言葉を無視し、先生が再生を始めた。そこには昨日の授業風景などが映っていた。そして誰もいなくなった教室に現れたのは…
予想通り、カミラ様だった。
周りをキョロキョロと見渡すと、自分の机に落書きをし始めたのだ。さらにナイフを取り出し、机を思いっきり傷つけている。
そして
「これでおしまいね。ジェシカ・ファレソン。ネイサン様は私のものなんだから!」
そう吐き捨て、それはそれは悪い微笑を浮かべながら去って行った。
これは酷いわね…
「こんなの嘘よ。きっと映像を偽造したに違いありませんわ。先生たちもジェシカ様の協力者なのでしょう」
「そうだ、先生。こんな映像は出鱈目だ。こうなったら王家管轄の鑑定士に分析してもらおう。もし偽造が分かったら、先生たちもただじゃおかないからな」
この期に及んで、まだこんなことを言うなんて…クラスメートたちも、引いている。
「そこまでおっしゃるのでしたら、いいでしょう。そうすれば、きっと全てがわかるはずです」
さすがの先生もイラっとしたのだろう。ただ、この映像を王家管轄の鑑定士に分析してもらうという事は、大事になるという事だ。今回の件、あまり大事にしたくはなかったのだが…
「あの…さすがにそれは…」
大事にしてはマズいと思ったのか、カミラ様が止めに入ったが。
「大丈夫だ、僕が君の汚名を返上してあげるからね。早速鑑定を依頼しよう」
こうして私が録画した映像は、鑑定士に依頼されることになったのだった。
放課後
王宮管轄の鑑定士、さらに陛下まで教室にやって来た。他にも数名の貴族と、お父様、カミラ様のお父様も来ていた。ここまで大事にするなんて。既に真っ青な顔をしているカミラ様を、ネイサン様が抱きしめている。
「鑑定結果を報告いたします。細かく分析した結果、この映像に手を加えられていた形跡はありません。あと、このような事は申し上げたくはないのですが…我が国では映像を加工する技術はございません。なぜわざわざ、こんな映像を鑑定依頼されたのか…」
若干あきれ顔でそう伝えた鑑定士。そもそも鑑定士は非常に忙しいのだ。こんなバカげたことで鑑定させられては、たまったものではないだろう。
「おい、君。鑑定を依頼たのは王太子でもある僕だぞ。本当にきちんと鑑定したのか?」
どうやら鑑定士の言葉が不満だった様で、ネイサン様が詰め寄っている。この人、もう救いようがないわね…
あまりの馬鹿さ加減に飽きている時だった。
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