第4話 お兄ちゃん、莉緒先輩と付き合っているところ見せてよ
翌日――水曜日。
自室のベッドで上体を起こすのだが、今日は朝から気が乗らなかったのだ。
やはり、昨日の件がある。
妹の
それが最大級の理由であろう。
めちゃくちゃ気まずい。
それが心に残る。
「……でも、起きないといけないし、どんな顔を見せればいいんだろ……」
昨日から関係性が崩れてしまい、顔を合わせるのすら辛かった。
むしろ、昨日、彼女が出来たとか、あんなことを言わなければよかったと、一日寝て起きても、そう思うほどだ。
響輝は自室を後に階段を降り、自宅一階のリビングへと向かう。
扉を開けると、長テーブル前の椅子に座り、朝食をとっている唯の姿があった。
響輝はサッと、妹から視線をそらし、俯きがちになる。
対する妹は、手にしていた箸をテーブルに置き、ジーッと響輝を見やっているのだ。
「お兄ちゃんってさ。その先輩と本当に付き合いたいの?」
「え?」
まさか、唯の方から話しかけてくるとは予想外である。
てっきり、昨日のことを根に持って、朝も距離を取られると思っていたからだ。
「あ、ああ……うん。俺は好きで付き合うことにしたんだけど」
響輝はおどおどした感じに、チラッと唯の方を見、返答する。
やはり、妹の方を直視することなんてできなかった。
「ふーん、そう。でも、本当かな?」
「な、なんだよ、疑ってるのか……?」
「そうじゃないだけどね。私、昨日の夜、ずっと考えていたの。もしかしたら、お兄ちゃん、あの莉緒先輩に騙されているだけなんじゃないかなって」
「そ、そんなあるわけないだろ」
「へえぇ? 本当?」
唯は席から立ち上がり、リビングの入り口付近に佇んでいた響輝の元へ歩み寄ってくる。
妹は疑り深い表情を見せていると思えば、口元を緩ませ、ニヤニヤとし始める。
「私、お兄ちゃんがモテるなんて、やっぱり、信じられないんだよね。だからね、お兄ちゃん、本当に莉緒先輩と付き合ってるか証明してよ」
「信用してないのか?」
「うん。だって、童貞でボッチで、エッチなラノベの表紙をブックカバーで隠しているようなお兄ちゃんだよ。あり得ないよ」
唯は昨日と同様に、次第に表情が緩やかになっていく。
いつも通りといった、生意気な妹へと戻った感じである。
「じゃあ、どうやって証明すればいいんだよ」
「そんなの簡単だよ。私の前で、莉緒先輩とイチャイチャしているところを見せて。ね、いいでしょ? だって、学校一の美少女である莉緒先輩と付き合ってるんだよね? それくらい簡単だよねぇ? お兄ちゃん?」
「うッ、や、やらないとダメなのか?」
「うん。じゃないと、私、お兄ちゃんの事、信じないもん。お兄ちゃんに彼女が出来るなんて、あり得ないし」
唯の提案に、響輝は後ずさってしまう。
「それと、もう一つ提案があるんだけどさ。お兄ちゃん、莉緒先輩と学校内で付き合ってるところも見せて」
「そ、それは、できないって」
「どうして?」
唯はニヤッとした勝ち誇った表情を見せる。
妹とは一歳しか年が離れていないが、生意気なメスガキのように思えてならなかった。
この妹は……。
響輝は動揺し、次のセリフを吐けない。
硬直した状況に、たじろぐ。
「ね、約束ね、お兄ちゃん。今日のお昼頃でもいいから、皆が見ている中庭とかで、イチャイチャしながら、弁当を食べさせてもらいなよ」
「中庭で?」
「うん。付き合ってるんでしょ?」
「そ、そうだよ」
「じゃ、簡単でしょ。私、皆に伝えておくから」
「は? ちょっと待て、それはやめてくれ」
「じゃあ、莉緒先輩と付き合ってるのは嘘ってこと? お兄ちゃん、やっぱ、強がってただけ?」
「ぐ……」
これはキツい。
全校生徒に喧嘩を売っているような構図。
視界に映る唯は、やりなよといったメスガキのような顔つきをしているのだ。
生意気な妹にわからせるつもりが、逆にわからされてしまったのである。
じゃ、よろしくね、お兄ちゃん、という妹からのセリフが、学校の昇降口に到着した今も脳内で再生されるのだ。
唯は本当のメスガキかもしれない。
ああッ、どうして、こうなってしまうんだよ。
すべて、自分のせいだとわかっているのだが納得がいかなかった。
中履きに履き替えた響輝はしょうがないといった感じに、現実を少しずつ受け入れるようにして廊下を歩き始める。
が、辺りから突き刺さる視線があった。
何かと思い、辺りを見渡すと、廊下の端っこでひっそりと会話している女の子らと視線が合う。
彼女らと目が合うと、不自然にも視線を逸らされるのである。
まさか、莉緒と付き合ってるのがバレてるとかじゃないよな。
自分のことが変な意味合いで話題にされているような気がして、冷静な気分には浸れなかった。
唯は、響輝よりも早くに学校に到着している。だから、妹が、莉緒と付き合っていることを広めていてもおかしくないのだ。
憂鬱だ……。
気分が乗らないまま、校舎の階段を上り、教室へと到達する。
教室内にいるクラスメイトらは得に何かを話してくることはなかった。とすれば、先ほど廊下で感じた視線は、自分の思い込みなのかもしれない。響輝は、そう思い込むことにしたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます