第6話 やっぱ、イチャイチャなんてできないって…
その二人とは、妹の
響輝は戸惑い、どうすればいいのか迷う。
「ねえ、響輝君。この子は誰?」
莉緒の冷たい口調。無表情で言われるものだから、余計に怖く感じる。
「もしや、莉緒先輩ですか?」
唯が言葉を切り出すと、莉緒はなんで私の名前を知っているのといった顔を浮かべていた。
「ごめんなさい。初めに言っておかなかったのが悪かったですよね。この人とは、兄妹関係なんです」
「兄妹関係……?」
「はい」
「まさか、あなたも……」
刹那、莉緒は飛んでもない発言を口から零す。
響輝は咄嗟に立ち上がり、二人の話に割り込む。
「えっとさ、この子は唯っていうんだけど。この子は俺の妹なんだ。それとな、唯。この人が、今付き合ってる彼女の莉緒さんなんだ」
この流れだと、莉緒が、響輝の妹だとか、ラノベのシチュエーションと同じことを言いそうで話題を変えたのである。
今、心臓の鼓動が早くなっていた。
ギリギリのところで、意味不明な莉緒の発言を回避できたのだが。そのついでに、莉緒とは付き合っていると、唯がいる前で告げることとなった。
「そんなの知ってるよ。というか、お兄ちゃんどうしたの? そんなに息を切らして」
「あ、いや、なんでもないというか。んん、それより、これでわかっただろ。俺には彼女がいるって」
響輝は、勢いですべてを押し切ろうとした。
「でも、恋人らしいところ、私見てないし」
「いや、やっぱさ、そういうのは、学校でやるもんじゃないし、な」
響輝は唯と向き合い、注意深く言う。
「私は見たいなって」
「いや、もういいだろ。俺は、ちょっと彼女と秘密の話をしたいんだ」
「秘密の話? それ、私も聞きたいッ」
「いや、いいから、本当にどっかに行ってくれ」
「いーや。絶対に、お兄ちゃんと莉緒先輩の話聞きたいもん」
唯は頑なに、この場所から立ち去ることを拒んでいた。
本当に面倒だ。
どうにかならないのかと悩んでいると。
「唯ちゃんだっけ」
「うん。そうだよ。先輩は、お兄ちゃんのことが好きなの?」
直球過ぎるだろ。
と、響輝は内心、ツッコミを入れた。
「うん、響輝君のことは好きだよ」
「……本当に? どこが?」
「それは、私と共通の趣味を持っていることとか。一緒に居て安心するから」
莉緒は、真面目な表情でありつつ、ちょっとばかし頬を赤らめ言う。
直接、どこが好きなのか聞くと、逆にこちらの方が急に恥ずかしくなってくる。
「へえ、そうなんだね。そんなに好きなら……お兄ちゃんよ、イチャイチャできる?」
突飛な発言をする唯。
対する莉緒は一瞬、無表情へと戻り、ドキッとした感じに目を丸くすると軽く後ずさっていた。
「……ここで、イチャイチャ……響輝君と⁉」
衝撃的なものを見るかのような顔をする莉緒。
激しく動揺している。
普段は無表情で何を考えているのかわからない女の子なのに、今まさに心の中身が透けて見えるほど、わかりやすい仕草をからだ全体で表現しているかのようだ。
「えっと、それは……どういう意味でイチャイチャと?」
莉緒は視線をキョロキョロさせながら、響輝と唯を交互に見やっていた。落ち着きのない彼女の態度に心配になってくる。
莉緒の頬は真っ赤に染まり、熱でもあるんじゃないかってほどだ。
本当に大丈夫なのか?
「イチャイチャって言ったら、定番として学校のベンチに二人で座って、手製の弁当を食べさせたりすることです」
唯は迷うことなく、ハッキリとした口調だった。
「手製の弁当を皆に見える前で……? そ、それはちょっと恥ずかしいっていうか」
「莉緒先輩、恥ずかしいんですか?」
この唯の口調。次第にメスガキみたいな話し方になりつつある。
これは厄介なパターンだ。
「唯。莉緒さんだって嫌がってるし、無理に強要させるなって。別の方法はないのか?」
「んん……ダメ。絶対に、イチャイチャして。じゃないと、お兄ちゃんと莉緒先輩が付き合ってる認めないし」
唯はニヤニヤとした笑みを浮かべ、この環境を支配し始める。
本当に勘弁してほしい。
「彼女として認められない? 響輝君が私とイチャイチャとしないと、唯ちゃんには恋人同士って認められないの?」
「え、あ、うん……その事なんだけど、本当であれば、この昼休みに時間に相談しようとしてたんだよ」
「そうなの……」
「うん」
「……」
響輝は頷く。
莉緒は真面目そうな顔つきになり、彼女は頬を触り、考え込んでいた。
「じゃ、じゃあ、私、ひ、響輝君と、い、イチャイチャする」
「え?」
響輝は二度聞きしてしまう。
なんて言ったのか、最初わからなかったが、莉緒の真剣な眼差しを見て、彼女のセリフを理解するのだった。
「莉緒先輩、本当にやるんですね。では、ここで」
「わ、わかったわ。でも、時間を頂戴」
「というか、本当にやるのか? そんなに無理しなくてもいいからな」
響輝は莉緒に心配をかけさせないようにするのだが、彼女は手を震わせながらも勇気を見せている。
「私、やるから……でも、手製の弁当がないから。明日……明日だったできるから……」
莉緒は真剣だ。自分の言葉で唯に主張していた。
本当にそれでいいのかと響輝は思う。
だがしかし、莉緒から弁当を食べさせてもらえるのである。
響輝は心配しつつも、明日の昼休み時間に期待を膨らませていた。
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