第5話 今日は都合がいい日だと思いたい…
学校一の美少女と、イチャイチャしろって……。
しかも、学校の中庭で、そんなこと、できるわけないだろ。
――とは、口が裂けても、唯に言えるわけもなく、学校に到着した今、朝のHRが始まるまで、一人で自身の席に座り、暇を持て余していた。
周りにいるクラスメイトらは、いつも通りといった感じに仲間内同士で会話している。
ただ、
ブックカバーで覆われたラノベ。
それにしても驚きなのは、
でも、この妹系のラノベがきっかけとなり、莉緒から話しかけられたのである。
響輝は一人でニヤニヤとしながら、ラノベを読み続けるのだった。
今、読んでいるラノベは妹系なのだが。いわゆる義妹であり、成り行きで同居することになった変わった兄妹系のラブコメ。
莉緒は、そのラノベのシチュエーションを意識して、妹にしてほしいと言ってきたのだ。
自ら妹になりたいとか、いつも読んでいる妹系のラノベと同じ展開に、響輝はワクワクが収まらない。
これぞ響輝が求めていたシチュエーション。
ショートヘアがよく似合う莉緒は美少女でかつ、クールで大人びている。二人っきりの時は本音を口にしてくれるのだ。
莉緒の表向きのイメージが先行して、彼女は本当の意味で学校には馴染めていないところがある。
気分が億劫になり、本心も曝け出せないんだと息も詰まるというものだ。
莉緒の要望で、今のところは兄と妹という間柄であり、恋人としても付き合っている。
できる限り、二人っきりでいる時くらいは、莉緒に対して兄らしく振舞おうと思う。
響輝は一人で考え込み、ラノベを読んでいると辺りが騒がしくなってきた。チラッと教室の扉を見ると、莉緒が入ってくるのが分かったのだ。
朝のHRが終わった頃合い。
教室にいた響輝はスマホを手に、莉緒にメールを送信した。
後で話したいことがあると、メールで伝えたのである。しかし、莉緒からの返答はなかった。
休みの時間帯は、他のクラスメイトと関わっている多く、なかなか返信するタイミングがないからだろう。
午前の授業中。莉緒とはよく視線が合っていたこともあり。多分、伝わっていると思い、今日の昼休みになるまで過ごすのであった。
午前最後の授業のチャイムが鳴った頃。
大半のクラスメイトが席から立ち上がる。教室から出、購買部に向かったり、学食へ足早に移動する人らを多く見かけた。
今日、学食では限定名ニューがあるとかで皆、必死になっているのだ。月一の限定メニューに、学食は大方、成績の競い合いよりも激しい激戦区になるだろう。
だが、それでよかったこともある。
学食や購買部辺りが賑わうということは、学校の中庭に人が集まり辛いことを意味しているからだ。
響輝は人が少なくなってから教室を後にする。
莉緒よりも一足先に階段を駆け下り、中庭へと向かう。
中庭に到着し、辺りを見渡すと人の数が極端に少ない。学食の特別メニューというのは本当に凄いと思う。
実のところ、響輝も限定メニューには興味がある。
けど、激戦区でありどうせ食べられない。それが運命というものだろう。
響輝は中庭のベンチに腰を下ろす。すると、丁度よく、誰かが近づいてくる気配を感じた。
響輝がそちらの方へ視線を向けると――
「お兄ちゃんッ、莉緒先輩はどうしたのかな?」
「……⁉ な、なんで、ここに⁉」
中庭のベンチに座っていた響輝はドキッとし、胸の内を掴まれたように苦しくなった。
なぜ、
「私ね、お兄ちゃんが莉緒先輩とイチャイチャしているところを見せてくれるっていうから来てあげたんだよ。感謝してよね、お兄ちゃん」
「……そ、そうかよ」
響輝にとって、衝撃的な瞬間であり、まさか、中庭に直接来るとは思ってもみなかった。
嫌な展開だ。
早く時間が過ぎ去ってほしいとさえ思う。
「そういえば、今日は中庭に人が少ないね。どうしたのかな?」
「月一の限定メニューが学食であるんだよ」
「学食で? へえぇ、そうなんだ。だから、今日は少ないんだね。あーあ、これじゃあ、お兄ちゃんと莉緒先輩がイチャイチャしているところを皆に見せられないじゃん。詰まんないの」
妹の唯は不満そうな態度を見せている。
むしろ、そっちの方が好都合だ。
というか、そろそろ、どっかに行ってほしい。
これから、莉緒に話さなければいけないことがあるからだ。
待ち合わせ場所は中庭だが、実際にやり取りをする場所は裏庭としている。
そろそろ莉緒が来てもいい頃だとは思うのだが……。
「莉緒先輩は? ここにいるってことは待ち合わせとかしてるんでしょ?」
「そんなことより、唯は友達のところに行けばいいだろ。俺にかまってないで」
「それもそうなんだけど。今日はお兄ちゃんが本当に莉緒先輩と付き合ってるか見たくてしょうがなかったの。だからよ。むしろ、お兄ちゃんのために、こんなに時間を割いてるんだから」
唯からの偉そうな態度を見せつけられ、内心、イラっとする。が、それを表に見せることはしなかった。
そんな姿を晒したら、絶対によくない。もっと妹からからかわれてしまう。
「響輝君? その子は?」
美少女らしくもクールな言葉遣い。
中庭に新たにやってきたのは莉緒であった。
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