第30話 俺は、唯の笑顔を撮りたい

 日曜日。

 響輝ひびきは外出することになった。

 朝、九時ごろになると、妹のゆいと共に、電車で少し行ったところにある遊園地へ向かう。


 現地に着いたのは、十時半過ぎであり、今日は日差しがよく、外で遊ぶにはグッとタイミングだった。


 唯とのデートを祝福してくれているかのようだ。

 今日はこのデートが終わったら、唯に伝えないといけない。


 本気で付き合うかどうかについてである。


「お兄ちゃん、行こ。早くしないと遅れるよ」

「遅れるって。そんなに急がなくてもいいのに」


 唯は先早に遊園地に入り口を通過していく。入り口近くに受付するところがあり、唯は、そこで響輝の分のチケットも購入していた。


「はい、これ、お兄ちゃんの分ね」


 響輝が唯の元へ近づいた時には手続きを終わらせていたようで、妹から一枚のチケットと遊園地案内用のパンフレットを渡された。


「ここの遊園地、改装されたところがあるんだって。だから、新しいアトラクションもあるみたいだよ」

「へえぇ、そうなのか」


 響輝は手にしているパンフレットを広げ、一通り見てみる。確かに、ちょっとだけ、印象が違う。パンフレットのデザインもそうだが、昔来た時と比べ、遊園地内で経営している店屋の雰囲気も変わっている。それに、お化け屋敷もリニューアルされたみたいだ。


「お兄ちゃん、何から乗る? 私はジェットコースターでもいいけど」

「それは急すぎる気が……」

「そうかな?」

「それに、後、一時間くらいでお昼だし。控えめなアトラクションにしない?」

「んん……そうかも。じゃあ、メリーゴーランドとか、コーヒーカップとかにする?」


 二人は共に、遊園地内を歩き出し、隣にいる唯は問いかけてくる。


 まあ、最初はそういうのがいい。

 このシチュエーションを小説の内容に落とし込むことになるのだ。序盤から激しかったら、最後らへんの見栄えが悪くなる。

 物語は小さいところから大きい方へ移行した方が、達成を感じられて、読者的にも楽しめるだろう。


 響輝はメリーゴーランドへ、唯と向かった。






 今日は日曜日だけあって、遊園地内には人が多い。

 子供ずれのお客が多く見受けられた。


 ここの遊園地は、都会にある大きなところではなく、地方にあるような小さな場所。

 でも、まったく何もないということはなく、気軽に訪れる遊園地としては十二分に楽しめると思う。

 それに、料金も安いのである。

 財布にも優しいところは素晴らしかった。


「お兄ちゃん、ちゃんと見てる?」


 遠くの方から、比較的小さな声が聞こえる。

 その微かな声に反応するかのように、響輝は唯の方へと視線を向けた。


 今、唯はメリーゴーランドの馬の背中に跨っている。

 唯は恥ずかしそうに、小さく手を振っていたのだ。

 響輝も手を振り返す。


 本当は、響輝も一緒に乗ろうとしたのだが、場の空気感に耐えられなかった。

 小学生の頃だったら気恥ずかしくなく乗れたとは思うが、高校生になった今は難しい。


 だがしかし、唯の方は違い。周りに知っている人がいないためか、比較的楽しめているようだ。


 響輝は昨日、唯とのやり取りで、小説用に遊園地内の写真を撮ることになっていた。

 響輝は、今を楽しんでいる唯の姿をカメラに収めることにしたのだ。


 数分後、メリーゴーランドは止まり、唯は響輝の元へ駆け足でやってきた。


「お兄ちゃん、さっき、私の事、撮ってなかった?」

「え? でも、小説用に撮影するって」

「だからって、急に撮らないでよ……あれは、遊園地の風景とかの撮影ってこと」

「そう……だったな」


 響輝は今になって思い出した。

 メリーゴーランドに乗っていた唯の笑顔が魅力的過ぎて、つい撮影してしまったのだ。


「じゃあ、削除する?」


 響輝は手にしていたカメラの保存履歴を見せた。


「……別にいい」

「なんで? 嫌じゃないの?」

「そのままにしておいて……そ、それより、別のところに行こ。次はコーヒーカップね。今度はお兄ちゃんも一緒に乗ってよね」


 唯は頬を紅葉させたまま、兄である響輝の腕を掴んで、コーヒーカップのある場所へと誘導するのだった。

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