第13話 唯と、本当の意味で、心の距離を縮められるのだろうか?

 ゆいとは、長年一緒に過ごしているが、妹が何を考えているのかわからなくなる時がある。

 わからないというか、それは、唯が中学三年の頃からなのだが、どういう風に距離を詰めればいいのだろうか?

 そこに関しては真剣に悩むところだ。


 元々唯が、響輝ひびきのことをバカにするようになったのは、一年ちょっと前からである。

 その頃から何かがあったに違いないが、その真意が不明だ。


 誰とも付き合っていないことをネタに、バカにしてくるということは、何かしらの想いがあっての事だろう。


 唯とは兄妹であり、一番直接聞ける立場でありながら、そうじゃない。近いようで、最も心の距離感が遠いのである。




 今は、やっと昼食の時間になり、ゆっくりとできる時間帯。

 唯との寄りを戻す方法を考えるには打ってつけである。


 多分、このラノベに答えがあるはずなんだ……。


 響輝は校舎の裏庭のベンチに座り、食事をとり終わった後、普段から好んでいる妹系ラノベを読んでいた。


 妹系のラノベに登場する妹キャラは、本当に容姿から言動まで、唯に似ている。唯がモデルになってるんじゃないかってくらいだ。


 誰かに盗撮されているとか。それが、このラノベの妹キャラに反映されているのだろうか?

 まさか、とは思うが、誰かにストーカーされているとか?

 いや、それは考え過ぎかもしれない。あの唯をそこまで執着する奴を見たことはないからだ。


 だがしかし、ここ最近、不審者情報もあり、あながち嘘じゃないかもしれない。

 と、すれば、あの不審者は、リリカって子ではないのか?


 不審者情報には、まだ不確定なことが多く、勝手にリリカを犯人として決めつけるのはよくない。今は唯について考えようと思い、一旦、リリカのことは忘れようと思った。




 普段から読んでいる妹系ラノベ。

 物語に登場する、その妹は、実の兄のことについてばかり考えている。

 そういう子なのだ。


 血の繋がった存在同士。結婚することができず、世間の目を気にしなければ、ギリギリ、デートくらいはできる感じだ。


 けど、物語に登場する妹は、自発的に兄へと告白することはしない。本当のことを言ってしまったら、関係性が崩れてしまうと恐れているのだ。


 でも、その代わりに、その妹は兄に対して、遠回りなアプローチをしたり、兄に関するものを収集したりしている。


 本当の気持ちを晒す事が出来ないからこそ、心の中では熱烈な想いを別の方向性に向けているのだ。


 兄が身に着けている衣服など、そういったものを洗ったり、兄のために夕食を作ったりしている描写があったりする。

 兄の身の回りのことをやる理由は、少しでも兄の身近なものと接点を持ちたいからだろう。


 兄の前では本心は見せないが、誰よりも兄のことを考えている妹なのだ。




 唯も、もしかしたら、そのラノベの妹のように、兄である響輝から言い寄られたいと思っているのだろうか?

 いつもバカにする態度を見せる、あの唯が、兄に対して恋愛感情を抱いているとか。想像すればするほど、あり得なく感じる。


 今日の朝だって距離を取られていたのだ。それに、唯はラノベに登場する妹のように、デレるようなタイプではないと思う。

 ごちゃごちゃと思考しても、年上である響輝の方から積極的に距離を詰めていかないと、そうそう解決しない問題である。


 響輝は頭を抱えるのだった。


「……唯と思い出のある場所か……」


 ベンチに座っている響輝は、ラノベを閉じ、そう呟くのだった。






「響輝君……」

「んッ……り、莉緒さん……ど、どうしてここに?」


 響輝がベンチに座っていると、気が付けば、近くには学校一の美少女――莉緒りおが佇んでいた。

 唯の事ばかり考え込み過ぎて、全然気づかなかったのである。


 というか……昨日の件もあるし……結構、気まずいんだが……。


 響輝がチラッと恥ずかし気に、莉緒の方を見やる。


「響輝君……その、隣いいかな?」

「い、いいけど……」

「……」

「……」


 何とか会話はできているが、ぎこちないやり取りのオンパレードだった。


 響輝はベンチの右側の方へ移動し、彼女を隣に座らせるのだ。


「響輝君って……ご飯食べた?」

「えっと……」


 ここは食べていないと言った方がいいだろうか?

 あわよくば、この流れ的に、莉緒の弁当を食べられるような気がする。


 味付けには問題はあるが、莉緒が作る弁当には、愛情がこもっているのだ。口にしていて、不快な感情にならないのである。


「食べていないけど」

「……そうなの……今日も作ってきたの。出来はよくないかもしれないけど、食べてくれないかな? もう一度、響輝君からの感想を聞きたいの……」


 莉緒も昨日のことを気にしているような面影があり、少々低めのトーンで頬を紅葉させて俯きがちに言う。


 響輝も頷く程度で、内面から湧き上がる熱い感情を抑えながら、莉緒の弁当を食べることにした。

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