第14話 どうして、私のこと、意識してくれないのよ…

 校舎裏のベンチに座っている響輝ひびきは、莉緒が作ってきてくれた弁当を口にしていた。


 莉緒りおが作ったサンドウィッチは大分美味しい。

 昨日よりも程よく感じる。

 味付けの具合も濃くなく薄くもなく丁度いいのだ。


 莉緒は料理が下手だと話していたが、一日二日程度と考えれば、腕の上達の仕方は早い方だろう。


 響輝は隣に座っている莉緒の方を向き、率直な感想を口にした。

 彼女は嬉しそうに微笑みを返してくれたのだ。


 校舎の裏側で、二人っきり。

 誰からの視線もないのだ。


 響輝は学校一の美少女と共に昼休みを過ごしていた。こんな状況を、クラスメイトにでも見られたらと思うと罪悪感に押し潰されそうになる。

 だが、莉緒とは正式に付き合っているのだ。

 問題はないはずである。

 しかしながら緊張は抑えられなかった。


「響輝君。私ね、もっと響輝君の……こと知りたいの。それとね、誰も見ていないし、私のこと。もっと、妹のように愛してもいいからね……」


 莉緒からの積極的なアプローチもあり、響輝はドキッとした。


 実質、莉緒は妹である。

 彼女は、あの妹系ラノベに登場するような妹を演じているのだろう。


 莉緒は学校でも自宅でも、容姿や外面イメージが一人歩きして気疲れしている。

 だから、彼女は、あのラノベのように兄から優しくされたい。

 そんな一心でアプローチをしてきているのだろう。


 ラノベ内では、妹の想いは兄へは伝わっていない。ただ、鈍感な兄が妹に優しくするからこそ、妹は兄に対して、もっと強く愛情が欲しいと思うようになった。

 そういった描写が、あのラノベにはあったはずだ。


 ……あれ? じゃあ……。そういうことなのか?


 刹那、響輝は妹を演じている莉緒の姿を見て、何かを感じたのである。




 響輝には思うことがあった。


 妹の唯が、もし本当に兄である響輝のことを心の底から意識していた場合、あのラノベのように和解できる可能性がある。

 本心がわからない以上、なんとも言えないわけだが、遠回しな感じに探りを入れた方がいいだろう。


 響輝は一旦、深呼吸をし、莉緒を見やる。


 莉緒は、急に視線を向けられたことで、ドキッとした感じに戸惑っていた。


「突然、どうしたのかな……?」

「いや、なんていうかさ……」


 響輝も彼女と面とむかってやり取りをすることに戸惑う。

 なんせ、キスをしたからだ。


 しかも、昨日のお昼休み時間にキスしたベンチに、今日もいるのだから、意識すると余計に心臓の鼓動が早くなる。


「明日、土曜日だと思うんだけど、一緒に出掛けない?」

「一緒に?」

「もし、用事があるっていうなら無理強いはしないけどさ」

「いいよ。明日だよね、多分、時間空けられるよ。私も、久しぶりに気楽なプライベートな時間を楽しみたいし。逆に、誘ってくれてありがと」


 莉緒はもじもじしたまま言う。


 大勢の人がいる前では、クールな感じに立ち振る舞っているのに、今の莉緒は本当に、あのラノベに登場する妹と重なる。




「それで、どこへ連れて行ってくれるの?」

「じゃあ、どこにしようかな」


 響輝は返答に迷う。

 ついさっき、突発的に誘った感じであり、そこまで決めてはいなかった。


「だったら、今日の夜に連絡するよ。決まったら連絡する感じでいい?」

「うん、いいよ。私、響輝君からの返答待ってるから」


 莉緒は満面の笑みを見せ、ベンチから立ち上がる。

 彼女はサンドウィッチが入っていた弁当箱を片付け。じゃ、また後でねと軽く言い、裏庭から立ち去って行くのだった。






「ん?」


 響輝がベンチから立ち上がった直後、どこからか視線を感じる。

 何かと思い、誰もいないはずの裏庭を見渡すが、視線の正体は見つからなかった。


 なんだったんだろ……。


 でも、なんでもないのなら、別にいいと思い、軽く走って、その場所から響輝も立ち去るのだった。






「……お兄ちゃん、また、莉緒先輩と、イチャイチャしてるし……本当に、付き合ってたなんて」


 ゆいは校舎の裏庭にいた。

 響輝が一人でベンチに座っている時から、ずっと建物に隠れていたのだ。

 息を潜め、兄である響輝の事ばかり見つめていた。


 いつ響輝にバレてもおかしくない。けど、運が良いことにバレなかったのである。


 唯の胸の内は、まだドキドキとしていた。


「……どうしたら、お兄ちゃん。私の事、意識してくれるのかな。私、お兄ちゃんと一緒に普通に会話したいだけなのに」


 唯は、響輝と兄妹の間柄だが、彼氏彼女のようにデートをしてみたいのだ。

 休日は街中に行ったり、映画館に行って好きな作品を見たり、ハンバーガーショップで好きなものを食べ合ったり。

 血の繋がった以上の関係になりたいとも思っていた。

 けど、それは今のところ難しいようだ。


「……お兄ちゃんのバカ……どうして、私の気持ちに気づかないのよ……」


 響輝がいなくなった今、裏庭の建物に隠れたまま、唯は胸の自身の手を当てていた。

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