第15話 ワタクシ、あなたに宣言しますわ!

「お兄ちゃんって、どうして、私に興味を持たないのよ、もう……。んん……私が書いてるラノベの妹には、興味ある癖に……」


 学校の裏庭にいるゆいは、校舎の壁に背をつけ、大きな溜息を吐いていた。


 唯が今人気の妹系ラノベを書き始めて、一年ほど経過したのである。

 実のところ、あのラノベに登場する妹は、唯自身が元になっているのだ。だから、服装や言動が似ている。


「はあぁ……今はいいや、あんな鈍感なお兄ちゃんなんかさ……でも、ちょっとくらいは強引になってもいいのに……」


 唯は地面の土を軽く蹴りながら、不満げな口調を零す。


「というか、私、何してんだろ……お兄ちゃんのことを想い続けても何の変化なんて期待できないし……そもそも、兄妹同士、結婚とかもできるわけないのにね」


 唯もそんなこと知っている。

 けど、昔、兄である響輝のことを意識してしまったことがきっかけで、今更ながら諦めることもできなかった。


 唯は、先ほどまで響輝ひびきが座っていたベンチへと向かい、そこに腰を下ろす。


「……お兄ちゃんが座っていた暖かさが残ってる♡」


 唯は軽く頬を染め、一人っきりの時間を堪能していた。

 皆がいる学校の敷地内。

 そこで、血の繋がった兄のことを想いながら、その温もりを感じているひと時が一番、心地良いまである。


「そういえば、お兄ちゃん。明日、莉緒先輩と一緒にデートに行くんだよね……」


 唯はつまらないといった表情を浮かべている。

 自分の好きな人が、学校一の美少女と一緒に街中へと行くところを想像するだけで心が痛む。


 できれば、嘘であってほしかった。

 つい最近までモテなかった響輝に彼女が出来たこと。それがどうしても、唯は受け入れることができなかったのだ。


「このままだと絶対、お兄ちゃんって、莉緒さんと……んん、そんなの絶対にダメだよ」


 唯は、響輝が莉緒りおと恋人以上の関係になることを望んではいない。


「私、お兄ちゃんの尾行するし。絶対、お兄ちゃんは、莉緒先輩には渡さないんだから」


 唯はベンチから立ち上がり、両手で拳を作ると気合を入れ始める。

 明確な目的を心に抱き、教室に戻っていくのだった。






「というか、お兄ちゃん。明日どこに莉緒さんと一緒に行くかだよね。昼休みの時は、後で決めておくとか言ってたし」


 唯は、一人考え込みながら通学路を歩いていた。


 今日は金曜日。いつもなら土日用の買い出しをするために、スーパーに行くのが定番なのだが、そういう気分ではない。

 今はとにかく響輝と莉緒のことが気になってしょうがないのだ。


 そもそも、唯と響輝は兄妹である。

 だから、素直に聞けばいいだけ。

 しかしながら、今は響輝とは距離を置いている身なのだ。


 急に笑顔で接触を図っても、変な疑いを抱かれるだけである。


 どうしようかと、唯の悩みはそうそう解決されそうはなかった。




「ねえ、あなた。あなたよね、あの人気なラノベ作家って」

「⁉」


 唯は考え込んでいたこともあり、急に話しかけられ、体がビクッとなった。


「私、あなたに宣言しますわ。今度の小説の勝負、絶対に勝ちますから」

「……誰?」

「誰って、私よ、私ッ、あの有名な悪役令嬢系の小説を書いてる、リリカよッ」

「……ごめん、知らないんだけど」

「もう、なんでよ! 私、一生懸命に宣伝までしているのに。なんで、あなたは私のことを知らないんですのッ」

「知らないものは知らないから……」


 唯からしたら初対面なのである。

 リリカは本当に強引で、自分の意見を押し通そうと必死であった。


 リリカは誰呼ばわりされ、不満を感じている。

 自分の存在が知れ渡っていないことに納得がいかず、リリカは唯に近づき、人差しで指差すのだ。


「私、あなたがラノベを書き始める前から小説を書いてたの」

「……それが?」

「それがって。デビューはあなたの方が最初かもしれませんけど。私の方が一足先に小説投稿サイトに小説を掲載していたのよ。だから、私の方が先輩ってこと」

「私は、あなたを敬えばいいの?」

「そうよ。理解が早くて、助かりますわ」

「でも、小説は最初に始めたよりも、実力があるかどうかが重要な気がするけど」

「んッ……そ、そういうのは、どうでもいいんですのッ、本当は私の方が最初にデビューする予定だったのに、あなたの方が小説投稿サイトの大賞に受かって、私は落ちたの。その気持ちが、あなたにわかりますの? あなたがいたせいで……私の書いた小説の方が面白いに決まってますのに」

「……相当な自信ね」


 唯はほぼ初対面の子から威圧的な話し方をされ、先早に、この場所から立ち去りたいと内心思う。

 面倒な人に出会ってしまったと考えてばかりだった。


「だから……私の方が……私の小説の面白いって、証明してやるんですの」


 ――と、リリカはついに、ライバルだと考えている唯に、宣戦布告発言をするのだった。

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