第16話 私の方を見ないでよ、キモいんだけど…

「んん、どこに行こうかな……まず、それが問題だよな」


 響輝ひびきはすでに自宅に帰宅していた。

 今は、妹のゆいが家にはいない。

 だから、気が楽になる。


 唯のことは元々、嫌いではなかった。

 けど、今は好きかと言われると、頷けない心境である。


「それより。莉緒さんって、どういうのが好きなんだろ。というか、妹のように扱ってほしいとか言ってたけど。それに関しては嬉しいけど、なんか、複雑だな……」


 勉強机前の椅子に座っている響輝は、苦笑いを浮かべながら、莉緒りおがどういう場所で遊びたいのか、ひたすら考え込む。


「……やっぱ、何も思い浮かばないな」


 莉緒は基本的に無表情で学校内では、本心を現さないのだ。感情を掴み辛いところがある。

 彼女が楽しめるような場所に連れて行きたいとは思うものの、趣味嗜好がいまいち把握できていなかった。


 響輝は莉緒のことが好きではあるが、なかなか良い提案ができないのである。

 莉緒に直接聞くという手段もあるが、やはり、ここは恰好をつけたいと思う。


「こういうのは、デートに誘った方が決めないとな。じゃないと莉緒さんも気分が落ち込んじゃうよな」


 響輝は椅子から立ち上がり、ベッドの方へと向かい、仰向けで横になった。

 考えることに疲れを感じたら、ベッドで休息をとるのが一番いい。


 疲れているのに、真面目に椅子に座って考えるとか、碌な結論には辿り着かないだろう。

 今、莉緒はいないのだ。だから、ダラッとした態勢で考えても不快には思われないはずである。




 響輝はベッドで横になり、手にしているスマホで、デートスポットと検索をかけて調べていたのだ。


 ここら辺で一番都合のいい場所って言ったら、街中?

 でも、街中だと普通過ぎるんじゃないのか?

 んん……しかしな、定番の方が安心できるかもしれないし……。


 初めてのデートなのである。突飛なデートプランを考えるよりも、安定した場所が良いだろう。

 響輝の中で、そういう風な結論に至った。


 響輝は上体を起こすと、スマホをガン見しながら、画面上に表示されたデートスポット10選という記事を読むことにしたのだ。




「初デートであれば、喫茶店から初めた方がいいか……落ち着いた場所の方がいいのか……」


 喫茶店といえば、学校近くの通学路に一件ほどあったはずだ。

 後は、街中に数件ほど。


 喫茶店でいいのか?

 もう少し別なところは……。


 響輝はもう少し深く追求する。

 画面をタップしたり、スライドさせながら他の情報も探るのだ。


「……映画館とか、水族館か」


 そういった場所もデートプランとしては丁度いい。


 そういえば、水族館は女の子受けがいいと聞いたことがある。


「だったら、水族館の方がいいのかな……」


 ふと思う。

 あのラノベに登場する兄と妹のデートも水族館だったはず。

 むしろ、そういった場所の方が、妹を演じてくれる莉緒にとっても都合がいいかもしれない。


「じゃあ、その水族館で。あとは、どこにあるのか地図アプリで調べないとな。でも、その前に、キッチンからジュースでも持ってくるか」


 響輝はベッドから立ち上がり、自室から出る。

 階段を降り、リビング隣のキッチンへと向かうことにしたのだった。






 ん……。


 いや、なんで、このタイミングで。


 響輝が階段を下った直後。玄関の扉を開けて、帰宅した唯とバッタリと出会ってしまう。


 相当気まずい瞬間。

 今日の朝から関係性があまりよくないのに、どういう風に対応すればいいんだと、響輝は自室に戻りたくなった。


 対する、唯はちょっとばかし、動揺しているようで、不自然に視線を背ける。


 兄妹の間柄なのに、すんなりと会話できないのもおかしい話だ。

 でも、他の兄妹だって、うまくいっていない家庭だってあるはず。


 むしろ、どこの家庭も、こんな感じだと、響輝は何度も自分の心に言い聞かせながら耐久していた。


「なに、お兄ちゃん、私の方を見ないでよ。キモいし……」

「ん……別に、そんなに見てないし」

「めっちゃ、ガン見してたじゃん」

「してない」

「あっそ」


 唯は玄関で靴を脱ぎ終わると、響輝の横を素通りするように階段を駆け上って行った。


 次第に妹の足音が遠くなってく。

 そして、扉が閉まる音が響くと、完璧に足音が聞こえなくなったのだ。


「はあぁ……こんな関係、いつまで続くんだろ」


 本当に嫌になってくる。

 反論するようなことはせず、響輝自ら仲直りするように行動すればよかったと、今になって思う。


 響輝は、唯からバカにされ過ぎて、素直に妹へ優しく話しかけられないのである。


「こんなんじゃ、関係性が良好になるまで大分かかりそうだな」


 気の遠い話である。

 でも、唯が、あのラノベの妹と同じことを考えているなら、ラノベに登場する兄のように振舞えばいいだけだ。


「一先ず、今後は、妹系ラノベのように兄の真似でもして、唯の心境を探ってみるか」


 響輝はそう呟き、キッチンにある冷蔵庫へと向かうのだった。

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