第23話 実妹との恋愛とか、ファンタジーじゃないのか⁉
「……なんで、そんなことを聞いてくるんだ?」
同じソファに座っている妹の
急な問いかけに、
ど、どうしたんだ……?
響輝は頬を軽く染めている妹をまじまじと見る。
今は自宅リビングに、響輝と唯しかいない。
両親は基本的に、仕事の都合で別のところに住んでいるのだ。
響輝が高校生になってから両親の仕事が忙しくなったこともあり、その頃から二人っきりで過ごすことが多くなった。
唯が中学生時代の時、体育祭や学校のイベントがあれば、積極的に出向いたりもしたのだ。
両親が行ってやれない時は、響輝が保護者代わりになることもあった。
でも、その頃から、唯の態度が少しずつ変わってきたような気がする。
心の距離を次第に感じるようになり、妹からの当たりが強くなったのも、その時期だったはずだ。
「お兄ちゃんって、あの莉緒先輩の方がいいの?」
「いいっていうか。まあ、一緒に居て楽しいから……」
「そうなんだ……」
唯の反応が少々おかしい。
昔から一緒に過ごしていることもあり、何となく雰囲気的な変化を察することができた。
「唯は、嫌なのか……? 俺が莉緒と関わっているのが?」
響輝は恐る恐る問う。
真実を知りたいという気持ちもあるのだが、同時に知りたくないという思いも、心のどこかにはあった。
「私……」
唯の口元が震えているのがわかる。
何かを言いたそうな表情。
響輝は唯の様子を伺い、何を話すのか、色々と思考してしまう。
「私、お兄ちゃんと関わりたいの……」
ようやく、セリフを吐いた。
響輝は一瞬、何のことかわからなかった。
いつも一緒に関わっている妹。そもそも、兄妹なのだ。関わりたいと改まって言われても、今まで生活を共にしている。
何を言うのかと思えば、よくわからない発言であった。
「関わりたいって。俺ら、今までずっと一緒にいるし。えっと……どういうこと?」
「その……お兄ちゃん……なんで、そういうの、わからないのよ……」
唯は頬を膨らまして、ジーッと響輝を見やっている。
睨んでいるようにも見えなくもない。
「そ、そんなに怖い顔するなって」
「……お兄ちゃんが、そういうところ鈍いから、よくないんだよ」
唯からなぜか怒られた。
視線を合わせることなく響輝から距離をとると、妹はムスッとした顔をするなり、横目でチラ見してくるのだ。
「鈍いって?」
「……そういうところだよ。私……その……」
唯の歯切れが悪くなり、次第に声質が小さくなっていく。
「だ、だから……お、お兄ちゃんのことが好きだったから……」
「⁉」
響輝はビクッと体を震わせた。
小さくなった声が急に大声になったことで驚いてしまう。
唯は勢い任せで発言したこともあり、少々息を切らしていたのだ。
頬が真っ赤であった。
唯の視線は、響輝の方に向いており、どんな返答が返ってくるのか、瞳を潤ませながら黙り込んでいる。
無言の主張を強く感じたのだ。
次第に、夕暮れ時になってきている。
リビングの窓から入り込んでくる日差しが薄暗くなったような気がした。
……好き?
唯が?
なぜ?
――という、疑問ばかりが、響輝の脳内を襲う。
妹が兄のことを好きになるのは、あのラノベと同じである。
響輝は既視感を覚えてしまった。
物語が進んで行けば、本音を話さない妹が、兄へ告白するシーンがある。
それと、今の状況が重なって見えたのだ。
「お、お兄ちゃんは……」
「え?」
「え、じゃなくて……お兄ちゃんは、私の事、どう思ってるの?」
「え、あ、ああ……そういうことか」
まさか、実の妹から告白まがいのことをされるなんて、あり得ないと思っていた。
そういったシチュエーションは、ファンタジーだと。二次元でしかない展開だとばかり思いこんでいたのだ。
響輝は唯の方を見やるが、妹の恥じらった表情が瞳に映ると、逆に羞恥心に襲われる。
響輝は返答することに戸惑い、少々言葉に詰まってしまうのだった。
「俺は……唯のことを、そういう風な目で見たことはないからさ……なんていうか。なんだろうな。どういう風に返答すればいいのかわからなくて」
響輝は視線をキョロキョロさせ、真っ正面から唯の姿なんて見れなかった。
というか、なんで、唯が……。
響輝はただ、唯とは仲を取り戻そうとしていただけである。
決して、あのラノベのような関係性にはなろうとは考えていなかった。
響輝が唯の方を見ると、まだ瞳を潤ませていた。
好きだと言ってほしいと、言わんばかりの表情。
けど、実の妹に対して、好きだとはさすがに言えなかったのだ。
兄妹同士の恋愛は、ファンタジーではないのか?
自分が、その当事者になると反応に困るものだ。
「お兄ちゃんは、私の事、嫌いなの?」
「そうじゃないけど……急すぎて、ちょっと考えさせてほしいんだ」
響輝は俯きながら、申し訳なく言う。
「……本当は、すぐに返事してほしいんだけど……」
唯はボソッと話すと、テーブルに置かれた箱に入ったチョコクッキーを手にし、無言で食べていたのだ。
響輝はなんて話を続ければいいのかわからず、気まずさを紛らわすために、テーブルにあったジュースを飲むのだった。
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