第24話 今日、お兄ちゃんの部屋に行ってもいい、かな…?

 夕方、自宅にいる響輝ひびきは、どういう風に関わっていけばいいのか。そういうことで、頭を抱え、自室の椅子に座っていた。


 響輝には元々悩みがあったのだ。

 やっとの思いで、妹のゆいとは距離感が近づいたのである。

 そこに関してはよかったのだが、唯から告白紛いのことをされたのだ。


 唯からは言い寄られている。

 なんて返答をすればいいのか、響輝は自室に引きこもり、ひたすら考え込んでいた。


「……どうすればいいんだろ」


 まさか、心の距離を感じていた実妹からの本音のセリフ。


 今まで唯に対して、恋愛的な感情を抱いたことなんてない。

 ラノベによる創作上の中であれば、妹キャラに恋愛感情を抱いたことはある。


 けど、現実の妹に恋愛感情を抱くなんて、あり得ないと思う。

 どうしても、唯の想いをすんなりと受け入れることはできなかったのだ。


 やっぱり、断った方がいいような気がする。

 両親に、血の繋がった妹と付き合っているとか、そんなこと言えない。


 だからこそ、ここは今まで通り、兄と妹として生活していこうと思う。


 響輝は勉強机前の椅子から立ち上がり、自室を後にする。


 階段を下り、先ほどチョコクッキーを食べていたリビングへ足を踏み入れた。


 辺りを見渡すが、唯の姿はなかったが、キッチンの方から料理を作る音が聞こえ、響輝はそちらの方へ向かったのだ。




 自宅キッチンにて、響輝の視界には料理中の唯の背が映る。


 響輝がやってきたことに気づいたのか、唯はふと背後を振り向き、視線を合わせてくれた。

 唯はエプロン姿であり、結構似合っていたのだ。


 今までは、エプロンとかつけるような子ではなかった。


 響輝に対して想いを打ちかけたことで、唯の中にある何かが変化したのかもしれない。


 唯は料理する手を止め、響輝の元へ歩み寄ってくるのだ。

 キッチン内は、カレーの匂いが漂う。


「今日の夕食はカレーだから。お兄ちゃんも好きでしょ?」

「う、うん……」

「でも、できるまで時間がかかるから、ちょっと待っててね。ソファに座ってテレビでも見ていたら、いいんじゃないかな……」


 唯は恥じらう表情を見せるが、響輝の顔を直視することなく言い切ると、再び背を向け、カレーの具材を煮込んでいる鍋の方へ戻って行った。




 この感情をどうしたらいいのだろうか?

 さっきまでは、唯に断りの言葉を伝えようと思っていた。

 そのつもりだったのだが、やはり、妹からの優しさに触れてしまうと、なかなか、口から言葉を出せないものである。


 本当に、あのラノベに登場する妹のように可愛らしく思えてきたのだ。


 ラノベで描かれている妹と、実妹はどこか似ている。

 重なって見えるというか、同じように思えて仕方なかった。


 まさか、本当に、唯がモデルになっているのか……。

 でも、なぜ?


 響輝は、唯からソファで待っているように言われたのだが、すぐには動けなかったのだ。

 その場に佇み、楽し気に料理を続けている、エプロン姿の唯の背を見つめていたのだった。






「……」


 響輝はまだ、唯が料理しているキッチンから移動できずにいた。

 ただ、妹の後ろ姿を見つめていたのだ。


 唯の気持ちも何となくわかる。

 妹系のラノベを読んでいることもあり、唯の気持ちに敏感になってしまう。


 今、唯は何を考えて料理をしているのだろうか?

 ずっと、響輝のことを考えて、愛情込めて料理を作っているのかもしれない。

 そう考えてしまうと、響輝は唯の想いを蔑ろにすることなんて猶更できなかった。


 これは受け入れた方がいいのか?


 兄妹同士の関係性。

 恋人のように付き合ってはならないことくらいわかっている。

 だから、余計に心が締め付けられるように痛むのだ。




「お兄ちゃん……? まだ、そこにいたの?」

「え、いや、今から行くから」

「……お兄ちゃんって……あのラノベ。今でも読んでるの?」

「あのラノベ?」


 最初に、脳内に浮かび上がってくるのは、妹系のラノベである。

 以前、唯からキモいとか言われたことがあり、その時のセリフが心に突き刺さるようだった。


「それがどうしたの?」

「私ね……私も、そのラノベ知ってるよ」

「知ってるって。俺の部屋に勝手に入って見たとか?」

「ち、違うから……私、お兄ちゃんのことが好きでも、そこまではやらないから。でも、お兄ちゃんから許可が出れば……」

「出ればって。俺が許可したら勝手に入るのかよ」


 響輝は動揺しながらも、自然な感じにツッコんだ。


「……うん。私、お兄ちゃんの事、もっと知りたいし。今日、お兄ちゃんの部屋に入ってもいい?」

「急に……そんなこと。というか、あのラノベについてはいつ知ったんだよ」

「……それは、内緒♡」


 唯は愛らしく返答してきたのだ。

 そんな言動に、響輝はドキッとして、一瞬時間が止まったかのように押し黙ってしまうのだった。


「お兄ちゃんが、私を部屋に入れてくれるなら教えるけど。色々とね」


 唯は普段は見せないような愛らしい表情をすると、意味深な話し方をする。


 誘惑されているのだろうか?


 そう思ってしまうほどに、今の唯の態度が魅力的に、響輝に瞳に映ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る