第25話 なんで、あのラノベに詳しいんだよ…

 先ほど夕食を食べ終えた響輝ひびき

 ゆいが作ってくれたものを、口にするのは初めてかもしれない。

 今まで関係性がよくなかったというのもある。


 両親が仕事の都合で自宅にあまり戻らなくなってから、あと少しで三年が経過しようとしていた。

 唯と二人っきりで生活するようになった頃は、響輝がネットで調べた料理アプリを見て作ることが多かったのだ。


 さすがに、妹にすべてをやらせるわけにはいかない。兄である響輝が率先して、何事にも積極的に取り組んでいたのだ。

 そのこともあり、忙しさはあった。


 けど、次第に唯から遠回しに距離を取られることが増え。そして、響輝が高校生になった頃には、バカにしてくるようになったのだ。


 最初の内は反抗期とか、そういうものだと思っていた。両親が不在なことが多く、学校でのストレスを吐き出しているのだと。


 でも、何度もバカにされてばかりだと、さすがに心に負担がかかる。


響輝は日に日に唯から距離を置くようになり、その時期から、個々で料理を作り食べるようになった。


 心に距離感があったとしても、一応は同じリビングで食べていたわけだが、基本的に食事中の会話なんてなかったのだ。


「お兄ちゃん……今まで、ごめんね……私、お兄ちゃんのことを意識するようになってから、素直になれなくて……、私、どういう風に話しかければいいのか……わからなくなってたの。そういうのダメだよね。お兄ちゃんには両親が不在の時から、色々と頼ることが多かったのに……」




 今、二人は響輝の自室にいる。

 横に並ぶようにベッドの端に座り、妹の唯は本音を口にしていた。


 唯は辛かったのだろう。

 今まで誰にも相談することもできず、一人で抱え込んでいた妹のことを考えると、心が痛む。


 それでも、ようやく本音を口にしてくれたのだ。兄妹として、少しは前進できた気はするのだが……。

 やはり、血の繋がった者同士が付き合うことに関しては、まだ抵抗を感じていた。




「でも、どうして……俺なんかと付き合いたいって思ったんだ?」


 響輝は左に座っている唯に、恐る恐る問いかけた。


「私……お兄ちゃんの事ばかり考えるようになってからね。次第にお兄ちゃんのことが好きになったの」


 実の妹から関心を持たれることはいいのだが、さすがに恋愛前提で好意を抱かれるのは厳しいものがある。

 妹とは結婚できるわけでもなく、世間の目も気になるところだ。

 そもそも、響輝は童貞であり、つい最近までモテたこともなかった。

 学校一の美少女から告白されるようなことがあって、日常生活が一変した感じである。




 響輝がモヤモヤと思考していると隣にいる唯の様子が違う。

 気になったことで、響輝は彼女の方を見やることにしたのだ。


 すると、唯は頬を紅葉させ、何かを話そうと必死な表情を見せている。

 妹は緊張しているようで、本気で告白してくるんじゃないかと、ドキッとしてしまうほどに、響輝は焦り始めた。


「ちょっと、落ち着いた方がいいよ。な……やっぱり、兄妹同士で、そういう恋愛的な話はよくないし」

「……べ、別にいいじゃん……」

「な、なんで」

「だって、お兄ちゃんだって、妹系のラノベを読んで、変態っぽくニヤニヤしてたじゃん」

「それは……まあ、言い訳できないな……」


 響輝は言葉に詰まった。


「お兄ちゃんにとって、現実の妹と空想上の妹は別物なの?」

「別っていうか。そういうものだと思うけど。二次元と現実は同列に見てはいけないと思うんだけど。二次元は空想上で感じるものであって」


 響輝は軽く力説し始めた。

 だが、それを耳にしている唯は、納得している顔つきではなかったのだ。


「お兄ちゃん……そういうのずるいよ」

「ずるいって、どういうこと」

「差別だから」

「いや、そういう話で、差別ってないと思うけど」

「んん……」


 唯は頬を真っ赤に染め、膨らましている。まだ、妹の中で納得がいっている様子ではなかった。


「じゃ、じゃあ、私……お兄ちゃんのために、あのラノベのように、妹キャラを全力で演じるから」

「え……」


 どこかで聞いたことのあるようなセリフ。

 それは、今付き合っている莉緒りおの発言を同じだったことに気づき、響輝は、よくわからないタイミングで納得するのだった。




「いいよ、そういうの……というか、唯は元々、妹じゃんか」

「そうだけど……二次元の妹と同列に思われないのは、私が妹らしくないからでしょ。だから、お兄ちゃんのためなら、なんでもするよ」

「な、なんでも?」


 唯の真剣な対応に戸惑い、反応に困るというものだ。


「お兄ちゃん……私にどういうことをしてほしい?」

「急に言われても」

「あのラノベのシチュエーションでもいいし」

「……シチュエーションか……ん? そういや、あのラノベの妹って、唯と似てるんだよな」


 唯と似ているのならば、実際にやらせてみるというのもいいかもしれない。


「似てるんじゃないよ」

「な、何が……?」

「私だし」

「えっと、急にどうした?」

「私をモデルに、あのラノベを書いているから」

「あのラノベ? なんで、そんな詳しいことを?」

「私……あのラノベの作者だから」

「……⁉」


 響輝は衝撃を受け、なんて返答をすればいいのかわからない。

 視線をキョロキョロさせ、今、何が起きてるんだと、一瞬、理解できなかった。


 けど、心の中で、抱いていた疑問が解消された気がした瞬間である。

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