第19話 こんな私でもいいのかな…

 莉緒りおは大人っぽい印象がある。

 けど、それは、見た目がクールだから、そう見えているだけだろう。

 本当の彼女は、そこまで真面目とかではないのだ。


「響輝君、あっちの方に行かない?」


 子供っぽくもある彼女。響輝ひびきは、莉緒に誘われながら水族館を歩くことになる。

 土曜日ということもあり、それなりにお客の数は多い。


 たとえ、無邪気だったとしても、それは莉緒である。

 見た目だけですべてが決まるわけではないと思う。

 けど、大半の人は第一印象で、その人の内面を決めがちなのだ。


 確かに印象は大事だということは、わかっている。

 でも、見た目だけを重要視してしまうと、本当に見なければいけない現実から背けているだけに思えてくるのだ。


 好きな人がどんな想いを抱いていても、それを受け入れることが、大切な時だってある。


 なんでも受け入れてばかりではよくないが、内面を見ることに真実がある気がするのだ。


 妹のゆいと、距離感が出始めてから、そう思うようになっていた。




 莉緒は普通に生活したいだけ。

 彼女が思う普通というのは、本心を受け入れてほしいということ。


 すんなりと話せば、わかってくれる人もいるだろう。

 しかしながら、それを受け入れられない人がいることも事実。


 外見からわかる容姿と、内面に隠れた本心の相違によって、人間同士の言い争いが生じることがあるのだ。




 響輝も思うのだが、人間関係が一番難しい。

 だからこそ、妹の唯と、昔のような関係性を築くことができないのだろう。


 どこの家庭でも兄妹なんて、そんなものだと言われれば、そうかもしれない。が、やはり、いつまでも距離を感じてばかりではいないと思う。


 今、水族館で莉緒と楽しい時間を過ごせているが、なぜか、唯の顔が脳裏をよぎるのだ。


 なんで、こんな時に……唯を……。






「私ね、あまり水族館には来ないけど。やっぱり、楽しいね……なんだろうね。普段は家族とも、こんな場所に来ないからかな……それとも、響輝君と一緒にいるからかな」


 水族館内を回って歩いていると、莉緒は自然な感じに恥じらった表情を見せるのだ。

 彼女は頬を紅葉させていた。


 急に見せられると、響輝はドキッとし、軽く後ずさってしまう。


 女の子から、急激に言い寄られたのも莉緒が初めてである。


 そういうことにあまり抵抗のない響輝は、サッと彼女から視線を逸らしてしまった。

 やはり、彼女の方を見ることに恥じらいが出てきてしまったのだ。




「私、響輝君からもっと妹扱いをしてもらいたいの」


 あのラノベの件もあり。だからこそ、莉緒は響輝に告白してきたのだ。


 ラノベに登場する妹のように、響輝と関わりたい。

 そんな思いが、莉緒の心の奥にはある。


 家庭では、実の兄とうまくいっておらず、そういったところが満たされていないからなのだろう。


「……へ、変だよね。今日の私」

「そんなことはないよ。それが莉緒の本心なら、俺、普通に受け入れるから……」

「本当に?」

「うん……だからさ、こうして付き合ってるんだよ」


 響輝は慰めるように、莉緒に言う。

 そして、勢いで、響輝は莉緒の右手を触った。

 触るというよりも優しく包み込み、安心させるような対応の仕方。


 でも、響輝は突飛な言動をしたことに気づき、ドキッとした。

 水族館にいることを忘れ、他人からの視線を受けながら我に返ったのだ。


「ご、ごめん……」


 響輝は莉緒から距離をとり、申し訳ない感じに言う。

 でも、正面にいる彼女は嫌そうな顔を見せてはいなかったのだ。




「別にいいよ……それより……私ね、水族館に来た記念に響輝君とお揃いものモノを買ってみたかったの」

「お揃いの?」

「うん……水族館内に、お土産売り場的な場所があると思うんだけど。そこにもいかない?」


 莉緒は、響輝から手を触られたこともあり、気まずげに視線をキョロキョロさせながら言う。

 緊張感が湧き上がっているのが、一目瞭然である。


 響輝も胸の内が熱かったが、莉緒に歩み寄ったのだ。




「じゃあ、行こうか」

「うん」


 響輝の発言に、莉緒は頷き、答えてくれる。

 響輝は、学校ではあまり見せない彼女の可愛らしさを身に沁み込ませた。

 そして、彼女と共に、大きな水槽がある通路を通り、お土産売り場へと向かう。


「莉緒さんって、どんな魚が好きなの?」


 何も話さないというのも、無の空気感に圧倒されるため、響輝は咄嗟に質問を投げかけた。


「私は、イルカとかペンギンとかが好きだけど……普通過ぎるかな?」

「そんなことないと思うけど。俺も、多分、イルカとか、ペンギンが好きかな。でも、何が好きでもいいんじゃないかな?」


 響輝は彼女の様子を横目でチラッと見ながら口にした。


 隣を歩いている莉緒は、好きなものを好きだと言っても問題はないよね。と、軽くはにかみながら、自分に自信をつけるように呟いていた。


 誰にどう思われてもしょうがない。批判する人はいるし、本心を晒さずに生活する方がよっぽど辛いと思う。


 響輝は唾を呑み、莉緒と手を繋ぐのだった。

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