第18話 私、本当はこんな感じなの…
土曜日。
朝から準備をして、
早いこともあり、そこまで人が出歩いていない。
十時くらいにならないと、そこまで人通りが多くなることはないのだろう。
それにしても、
気になるところではあり、内心ワクワクしていた。
響輝は一応待ち合わせ場所である街中にある公園のベンチに座る。
辺りを見渡せば、ランニングをする人や、犬の散歩をする人らが視界に入るのだ。
響輝は新鮮な光景を見、軽く深呼吸をする。
休日に女の子とデートすること自体、初めての経験であり、緊張しているのだ。
本当に莉緒とデートできることに、まだ実感が沸かないところがあった。
響輝は一応、普段よりも洒落た感じの服装をしているが、どう思われるか心配である。
そんなことを思い、響輝は辺りを再び見渡す。
時間的に、そろそろ莉緒が来てもいい頃合いだろう。
彼女とデートするところを想像すればするほどに不安になってきて、ソワソワする。
「ごめん……ちょっと、遅れて……」
少し駆け足で、一人の女の子が近づいてきたのだ。
それにしても、思っていた以上である。
響輝は隣を一緒に歩いている莉緒の方をチラチラと見ながら思うことだ。
学校内では、クールであまり感情を表に出すような美少女ではない。
けど、今はプライベートだということもあり、洒落た服装をしている彼女。
整ったショートヘアに加え、比較的明るい身だしなみ。女の子らしいフリルのついた服装である。
先ほど、公園にいた響輝のところに莉緒がやってきたわけだが、一瞬、誰かと思った。
それほど、莉緒に対するイメージが異なっていたからだ。
いつもと服装が違うだけで、全体的なイメージというものは変わるものである。
普段通りの莉緒も好きなのだが、女の子らしさ全開の彼女の衣装も可愛らしかった。
そんな莉緒と一緒に街中を歩いていても、多分、誰も彼女が莉緒だとは気づかないだろう。
「響輝君、さっきは遅れてごめんね……ちょっと、着替えに手間取ってしまって」
「いいよ。俺は別に気にしていないから。それと、一分くらいなら、俺、大丈夫だからさ」
響輝は全力で彼女をフォローするのだった。
そもそも、水族館に行くならば、現地で待ち合わせすればいい。その方が効率良い気もする。
が、昨日メールでやり取りをしたところ、莉緒は水族館の場所を知らなかったのだ。
響輝も初めて行く水族館であり、互いに間違わないように、二人が知っている街中で待ち合わせをしたのである。
「莉緒さんって……水族館とか、あまり行ったことはない感じ?」
「うん……。昔、学校の課外授業とかでしか行ったことがないからね。響輝君は?」
「俺もそこまでないかな」
二人はやり取りをして街中にある駅へと到着するなり、電車に乗って水族館近くの駅へと向かうのだった。
「これ、凄い」
隣から莉緒の嬉しそうな声が聞こえる。
学校でクールな感じに過ごしている彼女は違う。
本当に、内面から湧き上がってくる感情を表現しているかのようだ。
いつも殻に閉じこもった生活しかできないからこそ、溜まっていた感情が輝いて見えるのかもしれない。
辺りを見渡せば、青色に輝く大きな水槽が視界に入る。水槽の中で泳ぐ魚を見るのは、日常生活ではあまりない光景。
そんな新鮮な気分に浸りつつ、響輝も、莉緒同様に現状を楽しんでいた。
彼女のように感情を晒すようなことはしなかったが、莉緒と一緒にデートできているだけでも嬉しい気分になる。
「響輝君、この魚凄いよ。というか、直接見ると、こんな感じになってるんだね」
テンションの高い莉緒は、響輝に呼びかけながら言う。
魚とかを見るだけなら、ネットや本とかでも十分である。が、水族館に出向いて、直接見ることで、わかることがあるのも確かなことだ。
いつもと違う感性を刺激できたことに、響輝は新鮮さを感じることができた。
「……」
「どうした?」
響輝が近づいていくと、莉緒は急に押し黙ったのだ。
顔色はそこまで悪くはない。
であれば、何があったのだろうか?
響輝は首を傾げるのだった。
「私、ちょっとテンションが変だよね」
「そういうこと? いや、別にいいんじゃないかな。俺、莉緒さんの普段と違う姿を見れて嬉しいし」
「……響輝君から、そう言ってもらえてよかった。もし、変に思われたら、どうしようかなって」
「莉緒さんは、いつも辛そうにしているし。それに、あのラノベのように妹らしく扱ってほしいんでしょ?」
「うん……」
莉緒は頷く。
莉緒には実の兄がいるのだが、いつも指摘ばかりされ、妹らしく振舞うことができないのだ。
その上、学校でも偽りの自分を演じている。
彼女の心の中では大きな葛藤があるのだろう。
響輝は少しでも、莉緒のために何かをしてあげたい。
だから、多少幼っぽく見える、今の莉緒も素直に受け入れようと思ったのだ。
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