第20話 誰なんだよ、俺を監視している奴は…⁉

 誰かの視線を感じる。

 響輝ひびきは嫌な予感を察してしまった。


 魚が泳いでいる巨大な水槽近くの通路を歩いていると、背筋に謎の視線が直面するのだ。


 響輝は、背後をふと見る。


「何かあったの?」


 隣を一緒に歩いている莉緒りおの声。


「え、いや……なんか、誰かから見られているような……気がしてさ」


 響輝は注意深く辺りを見渡すが、一般的な家族ずれの客や、カップルなどの姿が視界に入る。


 なんでもなかったのか……。

 まさか、誰かに後をつけられているとか?


 この頃、怪しい存在がいるとか、クラス内でも話題になっていたことを思い出す。

 もしや、そういった人物の視線なのかと思う。


 だが、ストーカーされるようなことはしていないし。最近のことを考えれば、リリカという、傲慢な女の子のことしか知らない。


 リリカという子ならあり得るが、彼女もそこまで暇人ではないだろうと思う。


 やっぱり、怪しい人の存在は見当たらなかった。




 別になんでもないと思うことにして、響輝は正面へと視線を向け、莉緒と共にお土産売り場へと向かうことにしたのだ。


 でも、さっきの視線は何だったのか気になるところだが、実害があったわけではなく問題はないのかもしれない。

 さすがにストーカーされていても、周りには人がいることもあり、大きな事件にはならないだろう。


「響輝君、あっちに、お土産売り場って看板が見えるよ。早く行こ」


 莉緒はテンションを上げ、早口になったり、駆け足になる。

 彼女は妹のような感じに、目的地へと移動するのだった。




「響輝君は、この中だったら、何がいい?」


 水族館内のお土産売り場。

 その中には、魚関係グッズが丁寧に並べられている。


 キーホルダーやぬいぐるみ。その他には、クッキーなどの、イルカのデザインが模されたお菓子の箱があるのだ。

 どれも魅力的に視界に入り、どれにしようか響輝も悩んでいた。

 あまり訪れることのない水族館であり、莉緒と共通の思い出として、何かを購入したいと思う。


 響輝は棚に置かれたクッキーやグッズを簡単に見渡したのち、キーホルダーでもいいような気がしてきた。


「これなんかどうかな?」


 響輝はイルカのキーホルダーを手にする。思い出にするのなら形に残る方がいい。


「いいね、私、それが好きかも」


 莉緒は寄り添ってくるなり、響輝の腕に彼女のおっぱいの膨らみが接触する。

 今、響輝からしたら、自分が手にしているキーホルダーよりも、彼女のおっぱいが気になってしょうがなかった。


「でも、ペンギンとかの方がいいかな……私、イルカも好きなんだけど、このキーホルダーに関しては、ペンギンの方かも」


 莉緒は響輝の腕から離れ、新しくペンギンのキーホルダーを手にする。

 そんな彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 莉緒が、そっちの方が好きならば、別に否定はしない。莉緒が欲しいものを購入した方が、彼女にとっても幸せだろう。


 響輝は他に何かを買いたいと思い、店内をチラッと見渡す。

 すると、誰かに似た女の子と一瞬、視界があったような気がした。


 え……唯?


 いや、まさかなと思い、響輝は瞼をこすり、再び見やると、先ほどの場所に佇んでいた女の子の姿はなかった。


 別人……?

 気のせいだったとか?


 ゆいには、水族館に行くとは一言も告げていないのである。

 まさか、こんなところに唯が来ているわけなんてない。


 そう思い、楽し気な笑みを見せている莉緒へと視線を向けるのだった。




「響輝君は、何か買いたいものってある?」

「一応あってさ。ちょっと別のコーナーに行かない?」

「うん、いいよ」


 莉緒は優しく頷いてくれる。

 二人で、お土産売り場の店内を回って歩く。


 莉緒とは一緒に歩いているだけで、本当に妹のように思えてきて、内心楽しくなった。

 実の妹である唯とは、休日に出かけるとかはない。

 彼女とは新鮮な気分でデートを楽しめている感じはあった。


 響輝はクッキーが売っているところに到達すると、イカのデザインがされた箱を見る。

 それを手に取り、裏面を見ると、イカのせんべいであることが分かった。


「響輝君、そういうの好きなの? せんべいとか」

「いや、何となく手に取っただけだよ。でも、こういう風なのでもいいかもな」

「唯ちゃん用には買っていかなくてもいいの?」

「……買った方がいいのかな」


 今はそこまで唯のことを思い出したくはなかった。先ほど、一瞬だけ視界に映った妹の姿が脳裏をよぎる。


 あの子は唯だとは思いたくない。まさか、自分のことをストーカーしているとかあり得ないからである。


 唯とは仲が好ましくなく、心には距離感があるのだ。

 でも、お菓子を買っていけば、少しでも、距離を縮められる機会を得られるかもしれない。そう考え、莉緒のおすすめ通りに、ペンギンがデザインされたチョコ味クッキーを購入することにしたのだ。

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