第32話 今の俺には乗り越えなければならないことがある
今日は絶対に言うんだ。
そう決めている。
昨日、遊園地に行った帰り、唯に
唯と約束したことは守る。
それが、今、妹にやってあげられることだろう。
月曜日。
学校に登校し終えた
なかなか、莉緒に話しかけるタイミングがない。
先ほど朝のHRが終わり、一時限目の授業が始まるまで大分時間がある。が、莉緒の席の周りにはクラスメイトが集まっているのだ。
莉緒は仲間と一緒に楽し気に会話していることもあり、接触することは困難を極めた。そもそも、陰キャがクラスの陽キャに話しかけられる勇気を出せるわけもなく。響輝は無言のまま、孤独に席に座っている。
莉緒を振るということを、心に誓っているものの、陽キャという新しい壁に頭を抱えていたのだ。
どうしよ……でも、まだ、一日中時間はあるわけだし……スマホで連絡をとって、呼び出すしかないか。
響輝は陰キャらしく、ブックカバーで隠れたラノベを手にし、一人寂しく読むことにした。
響輝が読んでいるラノベはいつも通りの妹系作品。
今のところ、九巻目まで発売されているのだ。
次、発売されるのは、二か月後になるらしい。
昨日、遊園地にいる際に、
その二か月後に発売される予定の作品を、響輝は唯と共に制作しているのだ。
元々好きだった作品に関われていることに驚き、実感が沸かないところもあるのだが。響輝が経験していることはすべて事実であり。後は下手な作品にならないように真剣に取り組むだけである。
響輝はそのために今一度ラノベを読み返す作業をしていたのだ。同じ巻を数十回と読破している身だが、今より、もっと良い作品に仕上げるため、作家のように瞳を輝かせていた。
「そういやさ、この前の土曜日に、水族館にいなかったか?」
「水族館……⁉」
響輝はドキッとし、今まさに心臓に飛び出しそうだった。
響輝は体育館にいる。
午前、三時限目は移動教室の授業であり、クラスメイトは皆、体操服に着替え、運動の真っ只中だった。
体育の授業と言えども、自由に、どんなスポーツでもできる。が、響輝は陰キャであり、体育館の壁に背をつけ、辺りを見渡しているだけだった。
話しかけられた方を見やれば、そこにはクラスメイトの男子生徒が佇んでいる。彼には、この前、学校の中庭にいる際、莉緒と関わっているところを目撃されかけたことがあった。
嫌な予感しかしない。
この前の土曜日の水族館といえば、莉緒と共にいる時である。
響輝は挙動不審になってしまう。
視線が泳ぎ、なんて返答すればいいのか戸惑うのだ。
「ん? 人違いか? でも、水族館にいたのは、響輝で間違いないと思うんだけどな」
「そう、なのかな?」
「あとさ、誰かと一緒に居なかった?」
「誰かって……」
響輝はわかっている。多分、彼が言おうとしているのは莉緒のことだと思う。
だがしかし、自分からそんな情報を口にしたら、上げ足を取られてしまう可能性がある。
「雰囲気が結構違ったけどさ。もしや、あれは莉緒かなぁ? そんな気がしたんだけど」
「ま、まさか」
「そうか? というか、君には兄弟っている?」
「うん、一応、妹はいるけど」
「へえ……可愛い系?」
「まあ、それなりには」
初見だとわからないと思うが、この頃、兄の響輝の前では可愛らしく振舞っている。それは響輝の視点から見た感想であり、赤の他人が見たら、どう思うかは、その人次第になるだろう。
「どこの学校に通ってるの?」
「ここの学校だけど」
「へえ、そうなのか。まだ、俺も知らない子もいるもんだな」
隣にいる男子生徒は腕組をして、何かを悟った顔を見せた。
彼とはそこまで友人という間柄ではないのに、なぜか親し気に話しかけてくるのだ。
「じゃあさ、その妹に合わせてよ」
「なんで?」
「別にいいじゃん」
「……まあ、一応、妹には相談してみるけど」
多分、無理だろうけど。
――と、響輝は内心、思うのだった。
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