第33話 俺はどこまで唯の気持ちに答えられるのだろうか?

 体育の時間中。クラスメイトの、あの男子生徒に、妹には言っておくなんて返答したが、実のところ唯には伝える気分じゃない。


 自分からしたら、あそこまで素晴らしい妹を、どこの馬の骨かわからない奴に紹介なんてしたくなかった。


 あの男子生徒自体は、悪い奴には思えないが、やはり、そこまで親しくもない人と、ゆいが関わっているところを見るのは嫌だ。


 そもそも、なぜ、あの男子生徒から急接近されたのかは不明。


 莉緒と、関係性があるんじゃないかと疑われているのは確かなことであり。距離を置きたい存在だった。






「はあぁ……今日の学校は終わったけど、なんか、上手くいかなかったな……」


 色々な事を気にかけながらだと本当に疲れるものだ。先ほど六時限目の授業が終わり、響輝ひびきは溜息交じりに、廊下を歩いていた。

 後は帰宅するだけである。


 今日の昼休み時間中に、響輝はメールで莉緒りおに連絡を取ったものの返答はなかった。


 莉緒は放課後になった直後、焦って教室を後にして行ったのだ。

 最後の最後まで彼女とは話すチャンスなんて一度もなかったのである。


 気づいていて無視しているわけではないと思うが、急に距離を置かれているみたいで悲しくなった。


 まさか……学校の人らに、付き合っているのがバレたとか?

 いや、だとしたら、すでに響輝本人にも実害があるはずである。


 だがしかし、クラスメイトらから、莉緒と付き合っているのかという威圧的な問いかけもなかったのだ。


「……であれば、そういう問題ではないのか? じゃあ、何だろ……」


 響輝はそうこう考えつつ、校舎の昇降口に到着する。

 すると、いつも耳にしているクラスの陽キャらの笑い声が聞こえた。


 胸の内が嫌な意味でドキッとして息苦しくなる。

 響輝は陰キャであるがゆえに、本能的に関わりたくないという心理が働いているのだ。


 響輝は身を隠すように、昇降口近くにあった柱の陰に隠れる。


 薄っすらと、陽キャらの声が遠のいていく。

 響輝は奴らの気配が薄くなってから、昇降口で外履きに履き替え、校門まで向かって歩き出すのだった。




 響輝は一人寂しく岐路についていた。

 いつも通りではあるのだが、つまらなく感じたのだ。


「お兄ちゃん、一緒に帰らない?」

「唯?」


 通学路を歩いていると、背後から問いかけられ、振り返る。そこには妹が佇んでいた。

 唯は駆け足で歩み寄ってくる。


「お兄ちゃん、一人? もしかして、莉緒先輩に、きっぱり言えた感じ?」


 響輝の隣を歩く唯。


「いや、言えてない」


 響輝は気まずげに、妹とは視線を合わせずに答えた。


「え? なんで? 昨日、約束したじゃん。もう、お兄ちゃんの嘘つき」

「違うから。今日は関わる機会がなかったんだ」

「そうなの? でも、莉緒先輩とは同じクラスなんでしょ?」

「それはそうなんだけど。陽キャらがいて」

「お兄ちゃん……そういうの恰好悪いよ。普通に話しかければいいのに」

「それが出来たら、苦労はしないさ」


 響輝は溜息交じりに言う。


 恰好悪いか。

 そう言われてもしょうがない。

 実際に響輝は陰キャであり、人前で何かができるわけじゃないのだ。


 できるとすれば、いつも読んでいる妹系ラノベの文章を全て一言一句間違えずに言える程度である。


「でも、それもお兄ちゃんらしいし。まあ、いいんじゃない?」


 唯は急に距離を詰めてきた。


「というか、人前で、ベタベタしない方がいいんじゃないか?」

「たまにはいいでしょ」

「恥ずかしくないのか?」

「……そ、それは恥ずかしいけど。こ、これも小説に必要なことだから。私だって、小説のために真剣に頑張ってるの。お兄ちゃんも、私の想いに答えてよ」


 唯は上目遣いで言う。

 その上、唯のおっぱいが制服越しに伝わってくるのだ。


 今の妹は本当に理想的で、ラノベに登場する妹そのもの。

 響輝はラノベの資料集めだと思って、唯の想いに答えるように、一緒に岐路につくのだった。

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