第10話 私…響輝君となら、シてもいいよ…

 響輝ひびきの口内には、卵焼きの味が広がっていく。

 確かに、味付けの仕方がちょっと間違っているような気がした。


 料理経験の浅い響輝だったとしても何となくわかる。

 でも、食べられないわけではない。

 咀嚼し、喉を通す。


 隣にいる莉緒りおの弁当箱を見やると、ウインナー、卵焼き、四等分されたハンバーグ。そして、海苔で巻かれた小さなおにぎりなど、それらが丁寧に引き詰められていた。


 莉緒は昨日、本屋で購入した料理の教科書を見て、必死に作ったのが伺える。


「……美味しいと思うけど、味付けとかは、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」

「本当に?」

「うん」


 莉緒は恐る恐る何度も聞き返してくる。

 味付け具合を間違っているからこそ、心配だったのだろう。

 しかしながら、食べられないほどでもないので、気にしなくてもいいのにと思った。


「よかったぁ……私、心配だったの。私ね、殆ど誰かのために弁当とか作ったことがなかったから」

「そうなの?」

「うん。だから、昨日、どうしても弁当の作り方の本が欲しかったの」


 莉緒はやるからには何事にも全力で向き合う子らしい。


「でも、響輝君から、そう言ってもらえて嬉しい♡」


 莉緒は頬を紅葉させ、俯きがちになりながらも笑みを見せてくれていた。

 普段はクールで大人しい彼女だが、時たま見せる莉緒の表情には、本当にドキッとする。


 響輝は自分だけが見ることのできる、莉緒の本当の姿に嬉しさを感じてしまうのだ。


「響輝君。まだ、あるから。もっと食べてもいいからね」


 と、莉緒はもっと体を接触させながら、今度はウインナーを箸で摘み、響輝の口元へと近づけてくるのだった。




 イチャイチャして、生意気な唯にわからせてやる。

 それこそが、今、響輝の願望なのだ。


 大したことのない仕返しかもしれない。が、バカにしてくる妹相手には、それが一番効くと思っている。


 前回は失敗に終わっているのだ。

 今回こそは絶対に成功させたい。

 響輝はそう思い、近くで佇んでいるゆいを見、チラッと様子を伺う。


 今のところ、唯は平静を装っている。ベンチに座っている響輝と莉緒の姿をまじまじと見つめていた。


「ねえ、響輝君……ウインナー食べてみてよ」


 莉緒は口元にウインナーを軽く押し当ててくる。響輝は口を開け、それを口に含めるのだ。


 やはり、味付けには問題があるが、難なく食せる。


「私、一生懸命頑張ったから、もっと……その、イチャイチャしない?」


 莉緒は積極的。

 響輝、唯、莉緒の三人しか、この場所には居ないのだ。


 殆どの視線がないことから、ゆっくりと普段は見せないような表情を見せるようになり、距離を詰め、胸を押し付けてくる。


 弁当に加え、おっぱいも堪能できるとか、非常に最高だ。


 響輝も彼女の想いを受け入れるかのように、距離をつめ、イチャイチャしようとした。




 そもそも、イチャイチャとは何なのか?

 多分だが……男女同士が、自宅内でやるようなことを、公共の場所やる。

 そういった行為のことを、イチャイチャというのだと思う。


 それは響輝の個人的な考えであり、他人からしたら認識が違うかもしれない。


 だとしても、今思うイチャイチャを、生意気なメスガキみたいな妹へ、見せつけること。

 それさえできればいい。


 ベンチに座っている二人は、唯が監視している中。距離を詰め、顔の距離を近づけつつ、響輝は莉緒の弁当を食べる。


 響輝は自分がやっていることに多少の羞恥心を覚えるも、必死に堪えていた。隣にいる莉緒も絶対に恥ずかしいと思っているはずだ。


 なんせ、彼女の顔は真っ赤。熱があるんじゃないかってくらいに、頬が赤い。


 大丈夫なのかと声をかけようと思ったが、少しでも唯に弱みを見せてしまうと、そこを突っ込まれ、バカにされるかもしれないのだ。


 余計な素振りを見せずに、莉緒から食べさせてもらう。そのたびに咀嚼し、美味しい弁当を食べているのだと、唯へ見せつけていた。


 響輝は再び、唯の方を横目でチラッと見る。


「へ、へえぇ、お兄ちゃんにしてはやるじゃない」


 唯からの上から目線的な発言。

 妹は納得しているか、どうかは定かではないが、気を緩めずに、イチャイチャした食事を莉緒と続けるのだ。


「で、でも、お兄ちゃん、その程度じゃ、私、認めないし」


 唯の負けず嫌い発言。

 じゃあ、一体、どういうやり方をすれば、完璧に認めてくれるんだよ、と響輝は内心思う。


「お兄ちゃん、だったら、莉緒先輩とき……き、キスしてみてよ。それが出来たら……認めるっていうか。まあ、できないでしょうけどね。童貞なお兄ちゃんはね」


 唯は腕組をし、二人の様子を細目で伺う。妹は偉そうな態度を見せているが、どこか声が震えているような気がした。


「……ねえ、いいよ。響輝君。唯ちゃんからの許可が下りるなら。私……いいよ」

「え……?」


 莉緒の突飛な発言。

 何事かと思う響輝だったが、気が付いた頃には莉緒の唇が接触していたのだ。


 そのエッチな光景を直接見ていた唯からの発言が忽然と止まった。

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