第3話 俺は、バカにしてくる妹をわからせてみたけど…
それは中学生の頃からの日課になっていた。
そのラノベには、妹キャラが登場するわけだが、やけに、一緒に住んでいる妹と似ている。似ているというよりも、唯が元ネタになっているのではないかという疑いを抱きたくなってくるほどだ。
……まさか、それはないか……。
学校から帰宅した響輝がリビングに入ると、妹の唯がソファに座っていた。
んッ……急に振り向くなって……。
「お兄ちゃん、帰ってきてたんだね」
唯はソファから立ち上がると近づいてきた。
「お兄ちゃん、私が恋しくなっちゃったの?」
「違う。何となく、リビングに来ただけ」
「ふーん、そんなに強がんなくてもいいのにー」
唯はニヤニヤとした笑みを見せている。
また、面倒なことが始まりそうで軽く後ずさってしまう。
リビングに来るんじゃなかった。
と、今更後悔しても遅い。
「お兄ちゃんって。まだ、彼女が出来ていないんでしょ? じゃあ、そろそろ、私を選びなよ。ねッ、その方が絶対に楽しくなるし」
「いや、俺。彼女が出来たんだ」
「……え? なに? 彼女が?」
「だから、彼女が出来たんだ」
妹の唯は、驚きすぎて目を丸くしていた。
今まで見たことのない唯の焦る態度。
「え、嘘でしょ。また、お兄ちゃん、エッチなラノベばかり読み過ぎて、現実と区別がつかなくなっただけでしょ? そうに決まってるし」
唯は何が何でも、響輝が口にしていることを、すんなりと受け入れることはしなかったのだ。頑なに拒んでいる。
「お、お兄ちゃんに彼女なんて」
「今日、告白されたんだ」
「告白? お兄ちゃんが?」
「そうだけど」
「……」
唯は真顔になった瞬間、口元を緩ませ、軽く笑った。
響輝は妹からバカにされたのである。
「お兄ちゃん、冗談はやめてよー。お兄ちゃんがだよ。童貞で陰キャで、如何わしいラノベばっかり読んでるお兄ちゃんが、あ、あり得ないって。そんなに見栄を張らなくてもいいから」
「見栄じゃなくて。本当だから」
「……本当?」
「だから、そう言ってんじゃん」
「……誰と?」
唯はようやく大人しくなった。
真顔になり、正面にいる響輝との距離を詰めてくるのだ。
やっぱり、唯は焦ってるなと思った。
内心、ニヤついてしまう響輝がいたのだ。
けど、それを顔には出さなかったのである。
「ねえ、誰なの? お兄ちゃん、誰から告白されたの?」
「それは、同級生から」
「同級生? クラスメイトの子?」
「ああ」
「……んん、誰……? お兄ちゃんに告白してくる人って誰? 本当にわからないんだけど。名前は?」
「名前は、莉緒だけど」
「……⁉ まさか、あの莉緒先輩? 学校で一番男子生徒から人気のある、莉緒先輩?」
「そうだよ。それ以外に誰がいるんだよ」
響輝は内心、勝ち誇った感じに、驚き顔の唯を見やっていた。
唯は顔を真っ青にしている。衝撃的な真実に、妹は硬直しているのだ。声も出せる状況ではなく、ただ、呆然としている感じ。
「お兄ちゃんの思い込みじゃない?」
「それ、酷いぞ、言い方が」
「で、でも……お兄ちゃんが……お兄ちゃんが、あの莉緒先輩と? そんなのないじゃない」
唯は体を震わせていた。
響輝は、そんな妹の姿を見て、勝ったと確信したのだ。
「お、お兄ちゃんのバカ。死ね」
「なんで、そんなことを言うんだよ」
「だ、だって……」
「だって?」
「んん、知らないし。お兄ちゃんなんか、もう顔なんて見たくないからッ」
唯は顔を真っ赤にして怒っている。
「……ぜ、絶対に許さないから。お兄ちゃんなんか、死ね、バカッ」
唯は本当にリビングからいなくなってしまった。
これでよかったのか?
あまりよい対処法ではなかったような気がする。
けど、響輝をバカにする唯に対しての良い薬にはなっただろう。
多分……。
唯は元々、愛らしい妹だった。
昔は、毎日のようにお兄ちゃんと言って。小学生の頃なんて、べったりとくっついて歩くほどだ。
あの頃が遠い日のように感じてしまう。
でも、進んでしまった人生はもう取り戻せないのである。
これが三次元というものなのだ。
本当に残酷なものだと思う。
どんな魅力的なものであっても、三次元は人の心を歪ませてしまうのだ。
心苦しいのだが、そんなことばかりは言ってはいられない。
一旦、唯の件に関しては少し落ち着いたのである。
後は、明日からなのだが、同じ家に住んでいる以上、これからも高校を卒業するまで、唯とは顔を合わせることになるのだ。
どんな顔を見せればいいのだろうか?
やっぱり、強く言い過ぎてしまったかな……。
現在、自室にいる響輝は、勉強机を前の椅子に座り、少々悩み込んでいた。
本当であれば、これから夕食時なのだが、唯との関係性が拗れてしまったことで、互いに自室で食事をとることになったのだ。
「ああ、本当にどうしよ……」
響輝は頭を抱えてしまう。
「……気分転換に、あのラノベでも読むか」
響輝は席から立ち上がり、本棚前へと移動する。
正面にある、妹系のラノベを手に取り、パラパラとめくるのだ。
「それにしても、莉緒さんも俺と同じラノベを読んでいたなんてな」
学校一の美少女――
実の妹がいるのに、家の外に第二の妹がいるという不自然さ。
でも、念願の美少女と付き合えたのである。いつまでも暗い顔ばかりを見せるわけにはいかず、ラノベを読み始め、気分を変えるのだった。
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