第2話 俺の彼女が、妹になったんだが⁉

 妹のゆいに、わからせてやること。

 その条件がついに整った。

 後は、計画を立てるだけだ。


「響輝君。一緒に帰らない?」


 校舎の裏庭。響輝は、正面にいる美少女から話しかけられた。

 彼女は莉緒りお

 響輝は先ほど、その学校一の美少女から直接告白されたのである。


 正直なところ嬉しかった。

 響輝ひびきの人生に転機が訪れたからだ。

 さすがに、莉緒が見ている前で感情を曝け出すことには抵抗があり、平然を装う。


「うん、帰ろうか……でも、俺と一緒に通学路を歩いても大丈夫なの?」

「私は別に気にしないよ」


 ショートヘアな莉緒は表情を変えず、クールな感じに言う。

 今は放課後であり、知っている人と遭遇する確率は低い。

 多分、問題はないはず。


 響輝は莉緒と共に、一旦、教室に戻ることにした。そこで簡単な帰宅準備を整え、校舎の昇降口へ向かう。


「響輝君は、どうして。私の告白をすんなりと受け入れたの?」

「それは……彼女が欲しかったから」

「そうなの? だよね、いつも一人でいても、彼女は欲しいよね」

「うん、そうだね」


 本当は妹の唯にわからせてやりたいとか、そういう事情は口が裂けても言えなかった。


 二人は昇降口で外履きに履き替えると、校舎の校門を通り、通学路を歩く。


 彼女と共に帰るなんて、人生で初めての経験に、内心ドキドキしていた。

 後は、唯にどうやって、彼女が出来たことを報告するかだけど。そこらへんは、まだ、思いついてはいなかった。




「でも、莉緒さんは、どうして、俺に告白してきたの?」

「それはね……知りたい?」


 通学路を一緒に歩いていると、隣にいる莉緒から急に体を近づけられ、響輝はドキッとした。女の子に良い香りが漂ってきて、どぎまぎしてしまう。

 何か言えないことでもあるのだろうか?

 そう思っていると――


「私ね、お兄さんがいるの」

「え? どうして、それを?」

「それが響輝君に告白した理由なの」


 共に通学路を歩いている莉緒はなぜ、そんなことを口にしたのか意味不明である。兄と、今日の告白に何かしらの関係が?


「私ね、本当は同じ趣味のお兄さんが欲しかったの」

「同じ趣味?」

「だって、響輝君って、あのラノベを読んでいるでしょ?」

「あのラノベって。妹が登場するラノベか?」

「うん、そうだよ」


 莉緒は急にパアァと明るい笑みを見せる。

 普段は無表情ゆえ、彼女の笑顔を見れただけで他人に勝てたような気分になった。


「でも、どうして、俺がそのラノベを読んでるってわかったの?」

「私ね、移動教室の時に忘れ物をしたから教室に戻ったことがあったの。それで、響輝君の机の下にブックカバーの小説が落ちてて。その中身を見てしまったの」

「み、見たの⁉」

「うん。私と同じラノベを読んでるって思って。それでね。一緒に話してみたいって思って」

「じゃあ、友達からでもよかったような」

「んん、恋人にしたかったの」

「そ、そうなんだ」


 莉緒にも色々な事情があるのだろう。

 そのラノベがきっかけで告白されたのなら運がいい。

 唯からキモイと言われながらも、妹系のラノベを読んでいて本当に良かった。




「それとね、私……そのラノベで一緒に会話できる人がいなかったの。というか、私、学校では、クールなイメージがあるじゃない」

「そうだね」

「だからね、私。ラノベについて、誰にも言い出せなかったの」

「それも大変だね。イメージがあるのって」

「うん……でも、響輝君が妹系のラノベを読んでいるなんて、私もビックリしたよ。響輝君がいなかったら、ずっと私、趣味を隠しながら生活することになったし」


 莉緒の表情は、学校にいる時よりも緩やかになった感じだ。


 学校内では、クールなイメージで通っている莉緒も、笑顔を見せる時があるんだと知れただけでも嬉しかった。


「それと、響輝君にはお願いがあるの」

「お願い? 付き合って初日から?」

「うん。無理だったら断ってもいいけど。私を妹にして」

「……?」


 一体、どういうことなんだろうか?

 響輝は、幻聴を聞いてしまったのかと思った。


「あのね、私を妹にしてほしいの」


 やっぱり、本当に彼女の口から放たれたセリフであった。

 驚きよりも、なぜという思いの方が強かったのだ。


「私、妹に憧れていたの」

「え? でも、莉緒さんは、兄がいて、実質妹なんじゃ……?」

「そうだけど。私のお兄さん。真面目というか。そういう間柄じゃないの」

「そうなの?」

「うん。いつも家では一緒に住んでいるんだけど。家の中で出会うと、いっつも勉強はしっかりとしているかとか。規則正しい生活をしろとか。そんなことばかり言ってくるの。だからね、あのラノベのように、兄から愛されたいの」


 まさか、莉緒の口から、そういうセリフを聞くことになるとは想定外であり。響輝は少々、動揺し、硬直してしまっていた。


 あのラノベというのは、響輝もよく読んでいるラノベであり。兄が妹とイチャイチャしたりする物語なのだ。

 多分、莉緒は、そういうシチュエーションに憧れているのだろう。


 隣を歩いている莉緒は立ち止まり、響輝に対して誘いの瞳を向けてくるのだ。

 美少女から、そんな態度を向けられたら断りづらい。


「ねえ……ダメ、かな?」

「い、いいよ」

「えッ、本当に?」


 莉緒は驚きつつも、ゆっくりと満面の笑みを見せ始める。

 普通にしていても可愛らしい彼女なのだが、笑顔になればもっと魅力的だ。

 そんな莉緒の姿を見れて、付き合ってよかったと思った。


 これから、莉緒とは彼氏彼女関係であり。そして、兄妹……関係でもある。

 普通じゃ考えられない間柄ではあるが、愛らしい妹ができたと思えばいい。


 響輝は体の正面を莉緒に向け、君を妹にするからと口にしたのだった。

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