第8話 ワタクシの小説を買って貢ぎなさい!

「簡単な話。ワタクシが書いた小説を買ってほしいの。ただそれだけ」


 態度のデカい小柄な感じの女の子――リリカ。

 パッと見、中学生か、高校生かわからなかったが、話によれば高校は違えども、どうやら響輝ひびきと同じ高校生のようだ。

 言動が幼かったこともあり、何も知らなければ中学生にしか見えないのである。


 それにしても、本当に高校生なのかと思うほどに着ている服装がとにかく痛い。

 ここは別にコスプレOKな街でもないし。そういったアニメの会場が近くあるわけでもない。


 さすがに素で、お嬢様風なピンク色の衣装を日常的に纏っているとか、あり得ないだろ。


 響輝はそう思うも、余計なことを口にせず、ただ、その子が言っている話を何となく聞いていた。


 響輝は今、商店街にあるファミレスに入店している。その隣には無表情でかつ、無言を貫いている莉緒りおがいる。

 テーブルを挟み、正面の方には痛い彼女が座っているのだ。


 その彼女は一冊の本をテーブルに置く。表紙がハッキリと見えるようにして、響輝の方に渡してくる。


「このワタクシが書いた本なの。私の生活のために買ってよね。一冊、一二〇〇円だから」

「ちょっと待ってくんないか。いきなり、売りつけるのは」

「どうして? あなた方は、私の本を買いたくて、ラノベコーナーに来たんでしょ? わかってますの。そういうの言わなくてもね」


 リリカは物凄い自信家のようだ。

 本当に面倒な奴に目をつけられてしまったと思う。


「私、ちょっとお金がないので、後でならいいわ」

「本当ですか?」

「ええ」


 莉緒は一応、購入する気でいるらしい。


「莉緒さん、本当に買う約束をしてもいいの?」

「だって、生活費に困ってるなら、猶更、買ってあげたくなったの」

「でもな……」


 リリカが書いている小説というのは、一応ラノベではあるのだが、悪役令嬢系といった、ラノベとは少し違う傾向の作品である。


 響輝が普段読んでいるラノベとは方向性が違い過ぎて、あまり手を出してみようとは思えなかったのだ。


「まさか、あなた、ワタクシの本がつまらないと思ってません?」

「い、いや、そんなこと、まったく思っていないから」


 響輝は全力で否定する。

 高飛車で自信家。服装は痛い感じで、ちょっとばかし、中二感が混じっているような子なのだ。

 容姿的には、セミロングのヘアスタイルがよく似合う美少女なのだが、非常に残念な感じである。


「じゃあ、買いなさい。そして、読者になって、この高貴なわたくしを養いなさい」

「養う?」

「はい。そうですわよ。私からすれば、読者は平民のような感じなの。その平民は私のためにお金を払って貢ぐものなのよ」


 リリカの口調がお嬢様言葉になりつつあり、これは地雷的な子だと、響輝は本気で察したのだ。






「私はね、本気で人気作家なの」

「……?」

「なんですの。その目は」

「君はさ。その、人気作家なら、本屋で営業活動とかしなくてもいいのでは?」

「そ、それは、知名度を上げるためよ。それに、私、ネットで宣伝していますし」

「じゃあ、本屋に居なくてもいいんじゃない?」

「そ、それは、私がやりたいようにやってもいいじゃない。というか、直接会ってみたいの。私はね、直接、読者と会って話をしてみたいの……でも、なかなか、会えなくて……」

「それはな。本は全国の書店で売られているからな。それにネットでも販売されているし」

「……でも、数パーセントの確立で読者と出会えるってことも」

「……難しくないか? それより、ここで本を買わせるより、本を書いた方がいいんじゃないか?」

「……」


 リリカは響輝からことごとく言い負かされ、頬を真っ赤に染めていく。

 恥ずかしくなってきているのだろうか?

 そんな態度であり、響輝は言い過ぎたかもしれないと思い、少々気まずくなり、隣にいる莉緒の方をチラッと見やるのだった。


 莉緒は左手で右腕を掴みながら、悩み込んでいる。


「私、今はお金が少ないから無理だけど、あなたの作品ちょっと読んでもいいかな?」

「ええ。いいわよ。絶対に面白いはずだから」


 偉そうな態度を見せる彼女。


「……」


 莉緒は手にした小説を手にし、一ページをめくる。

 無言になり、真剣な顔つきでまじまじと読み始めていたのだ。


 響輝は内容を見たことはない。だから、なんとも言えないのだが、実際のところ面白いのだろうか?


 少し読み終わったところで莉緒は悪役令嬢系の小説を閉じた。

 莉緒は表情を変えず、そのまま彼女を見つめるだけである。

 それで面白かったのか?


 莉緒は表情を変えることがなかったため、そこらへんが掴みづらかった。


 そして、莉緒は口を開いた――




「なんとも言えないわね」

「んッ、わ、私の小説にケチ付ける気?」


 リリカは怒り気味に席から立ち上がる。

 そんなこともあり、ファミレスにいる人らから、三人は変な意味で注目されてしまうのだった。


「……いいえ、違うわ。でも」

「もういいですから。あなた方には、私の小説の良さがわからないんですの。本当に、失礼ですわ」


 リリカはそのままファミレス内から立ち去って行った。


 あれ……ファミレス代は?

 ――と、響輝は思うのだが、すでに、彼女の姿はなかったのだ。

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